伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

サラダの歴史

2017-01-31 23:53:44 | 人文・社会科学系
 サラダの歴史と各国のサラダを論じた「食」の図書館シリーズの1冊。
 タイトルになっている「サラダの歴史」については、古代ローマ時代には、レタス(現在のロメインレタスに近いものだそうな)は生で食べるのが一般的だった唯一の野菜で、他の野菜は人の健康に害を与えるような成分を何かしら含むと考えられていた(21ページ)という話が紀元1世紀・2世紀の文献を引用して語られた後、突然「1554年の春、ルネサンス期の画家ヤコポ・ダ・ポントルモが、自分がおいしいと思った食べ物について日記に書き綴ったころまでには、サラダは数世紀続いた多難な時期を乗り越え、再び食卓に戻りつつあった。」(41ページ)とされています。生で食べられるものなら生で食べようとする人が多くいたはずで、当時どのような野菜があったのか、栽培可能だったのかはわかりませんが、一般に生食が回避されていたのか自体に疑問が残りますし、それならそれでなぜそうなったのかの探求が欲しいところです。また、1世紀・2世紀と中世の人々の暮らしが当然に同じというわけではないでしょうから、その間を埋める試みをして欲しいと思います。ドレッシングについても、昔から塩・油・酢(要するにいわゆるフレンチ・ドレッシング)が用いられていたということで、それが確立されていく試行錯誤の歴史も見ることができません。
 最後のレシピ集の1番「伝統のサラダ ミックスサラダ プラティーナ、1473~75年頃」(177ページ)で、「レタス、牛タン、ミント(中略)そのほか、香りのよい各種ハーブを集め、よく洗い、水気を切る」って…「牛タン」?これって「ハーブ」?プラティーナのレシピを紹介している本文の46~48ページを見ても「牛タン」は出てきませんけど(47ページに「ランセット(医者は子羊の舌と呼ぶ)」という記載があるので、それが「牛タン」に化けたんでしょうか)。


原題:SARAD:A GLOBAL HISTORY
ジュディス・ウェインラウヴ 訳:田口末和
原書房 2016年12月23日発行(原書も2016年) 
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作家の収支

2017-01-27 22:22:17 | 実用書・ビジネス書
 38歳でデビューして以後19年間に280冊ほどの本を書いた(まえがき)小説家の著者が、小説を出版したときの単行本、ノベルズ、文庫、ドラマ化・映画化による収益などについて語った本。
 これといった大ヒット作はなくマイナーな読者層を狙って書いているという著者が、大きな収益を得るために推奨しているのは、とにかく次々と出版すること。新刊が並んでいれば、過去の本もあわせて売れたりして長く売れるって。出版社が次々書かせてくれる、出版してくれること自体、売れてないと無理ですけど。
 原稿料が、小説でもエッセイでも、そしてどんな人気作家でも駆け出しの新人でも同じ、ものすごい傑作でもどうでもいいような駄作でも同じということに、著者は疑問を呈して(要するに不満なんでしょうね)います(29~31ページ)。弁護士の世界でも、会社の弁護士の場合はタイムチャージ(1時間当たりいくら)で新人弁護士(それでも1時間2万1000円とか)とベテラン弁護士(有名どころだと1時間5万円くらい)で単価が違うのですが、一般市民相手の法律相談とかだとどんな専門家の弁護士・ベテラン弁護士でもまったくの新人弁護士でもたいていは30分5000円(+消費税)です。かつては弁護士会の報酬基準がそうでしたし、弁護士会の報酬基準が公正取引委員会に競争制限だと言われて廃止された今でもほとんどの弁護士が自主的にその基準でやっています。専門の弁護士とまったくの新人弁護士では同じ時間相談しても、その質はまったく違うと思うのですが、そうは言ってもあまり高くすると一般市民の方が相談できなくなりますし…という配慮でそうなっているのだと思います。作家の原稿料の場合、出版社との力関係が大きいかもしれませんが、原稿料が高くなると文芸誌が作れなくなるし、というところで似たような話があるのかもしれません。


森博嗣 幻冬舎新書 2015年11月30日発行
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おいしいは正義

2017-01-26 23:12:34 | 小説
 3代続いた警察一家に生まれ、刑事となったが過去の事情で交通課勤務となっているいちご大福に欲情する/いちご大福にしか欲情しない倒錯性癖を持つ警察官杉元新一が、幼馴染の刑事三國健次郎に頼まれて通り魔事件の捜査の手伝いをするうちに、被害の第一発見者のさすらいの/ホームレスフードジャーナリスト松樹いたるの好奇心と知識・人脈に絡めとられながら、事件の真相解明に突き進むミステリー仕立ての恋愛小説。
 主人公は、パソコンが得意という設定ながら、ミステリーではおなじみのハッカーではなく、パソコンのスキルはふつうレベル(パソコンが普及してから生まれてきた今どきの若者は、むしろスマホの普及でふつうのパソコンは使えない人が増えているようなので、今どきの若者のレベルからは「パソコンが得意」なのかもしれませんが)。なぜか幼馴染の健次郎にまで異様に丁寧な言葉遣い、いちご大福に欲情することもあわせ、読んでいて今ひとつ主人公の視点に入りにくい(後半でそういうふうになった事情も説明されてはいるのですが)。
 ミステリーとしては、ちょっと飛んで外れた挙句に最後は予想されたところに帰り、中盤でそういう外し方をせずにうまく回り込んで最後は別のところへ持って行ってもらう方がいいんだけどなぁと感じました。好みの問題かとは思いますが。
 基本は、ちょっと外れた2人の恋愛ライトノベルと位置付けて読むべき作品だと思います。


松田未完 SKYHIGH文庫 2016年10月25日発行
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裁判と法律学 「最高裁回想録」補遺

2017-01-19 19:00:04 | 人文・社会科学系
 行政法学者から最高裁判事となり2002年9月から2010年4月まで最高裁判事を務めた著者の、退官後の講演と法律雑誌「法学教室」掲載の座談会を取りまとめて出版した本。
 前半の講演集の部分は、同じ話の重複がかなり多く、通し読みすると飽きるところはありますが、学者向けとはいえ講演なのでかなりわかりやすい。
 講演集の前半は、民事裁判では「真相解明」ではなく、その事案の適正な解決が最も重視されているということ、学者は法規範(法律・法解釈)がまず(確固たるものとして)存在しその事件の事実を法律に当てはめて判断がなされ判決がなされる(べき)と考えがちだが、裁判所はその事件の事実関係を前提にその適正な解決のためにはどの法を適用すべきか(どのように法を解釈すべきか)を考えるということを、繰り返し論じています。この点は、裁判実務を行っている者(裁判官、弁護士)には制度上も経験上も当然のことだと、私は思っていますし、私のサイトでも繰り返し説明しているのですが、一般の方にはなかなか理解していただけないところで、著者が裁判実務から学者の世界に帰って学者たちにこのテーマを繰り返し取り上げ強調して説く姿に、共感し同情します。
 講演集の後半は、著者の専門分野の行政法の領域での近時の最高裁の動き、特に行政裁量についての司法審査に関して、かつてのような行政法独特のドグマというか行政庁の判断(行政処分)であるがゆえに特別な扱いを受けるべきか否か自体に対する疑問/思考的なチャレンジが語られ、興味深いところです。
 後半の座談会は、率直に言えば、弁護士でも行政事件の経験がない(数的に見れば大部分の弁護士は行政事件にはタッチしない)人には難しいとは思います(たぶん、一般の方が読んでもチンプンカンプンだろうと思います)が、行政事件をめぐる近年の最高裁の動きに加えて、最高裁判事の事件に対する判断の際の思考パターンが垣間見えて、弁護士にとっては、とても示唆的な読み物になっています。最高裁判決(のみならず下級審判決についても)を読む際に、判例集で「判旨」として掲載されたり、判例雑誌でアンダーラインが引かれた部分だけを取り上げて、それが具体的事件の事実関係とどう関係するか、どの事実がその結果を導いているのかをあまり考えずに、他の事案(あらゆる事案)に当てはまると考える傾向が、学生(もし一般人が読めばもちろん一般人も)はもちろんのこと学者にも強く、さらには弁護士の多くもそうなりがちです。その点に関しては、私は常々判決は事案との関係、特にどの事実が判決の結果を導き出しているかに着目して読む必要があると、自分にも周りにも言い聞かせるようにしているつもりです。それでも特に最高裁判決に関しては、最高裁は他のケースにも当てはまる「判例」として法解釈を示している(最高裁には判例を統一する責務がある)と考えるのが一般的な受け止め方で、私たち弁護士は、その最高裁判決の射程はどこまでかということに強い関心を持っています。その最高裁判決の射程に関し、元最高裁判事が「なかなか判決の射程というのは読みにくいですね。」と話を振られて「読みにくい読みにくい。判決をしているほうも正確にどれだけの射程があるかということは見通しがつかないままにやっている、ついているつもりで実はついていないということが起こり得るわけですから。」(324ページ)と言っているのを読むと、目からうろこというべきか、驚天動地というべきか…
 出版物としては、すでにどこかに掲載された講演と座談会をただ集めただけの安易なものといえますが、私のような弁護士の目には、最高裁判事の事件に対する見方、思考パターンを知るうえで大変参考になる1冊でした。


藤田宙靖 有斐閣 2016年7月10日発行
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僕らのごはんは明日で待ってる

2017-01-15 20:39:22 | 小説
 仲のよかった兄が病死し殻にこもりたそがれている男子高校生葉山亮太が、体育祭で勝手に割り当てられた米袋ジャンプでコンビを組んだことを契機に同級生の体育委員上村小春から告白されて交際を始め、大学進学の意思がなかった葉山は上村が受験する女子大に一番近い大学を受けて入学し、人がすることを気にしない葉山は心が広いと誤解されて学内では「イエス」と呼ばれて人気者になり、上村と癖のある会話を交わしながら順調に交際を続けるが、2年たったところで上村から特に理由もなく別れようと言われ…という青春恋愛小説。
 葉山のいい加減さと上村の気まぐれ/ひねくれぶり、その組み合わせの会話で読ませている感じです。「米袋が明日を開く」「水をためれば何かがわかる」「僕が破れるいくつかのこと」の3話がストーリーとしても連続しているのに、最後の「僕らのごはんは明日で待ってる」が話が飛んで、名前の表記も「上村」から「小春」になっています。執筆の時期がずれているのかと思いましたが、初出は季刊誌「GINGER L.」(ジンジャーエール。だそうだ)の1、2、4、5号で連続しています。飛んだところは気(構想)が変わったのか、書けなかったのか。青春恋愛小説としては、その間を書いてほしいと思うのがふつうの読者じゃないかと思うんですが。
 ジャニーズのアイドルグループ Hey!Say!JUMP のタレント主演で映画化され、それが2017年1月7日封切で、その前日の朝日新聞夕刊の映画欄で主演女優のインタビュー記事があって、それを見てからその原作を図書館でネット予約したら、なんと予約待ちなしですぐ来てしまいました。いや、現在公開中の映画の原作本って予約数十人(数百人のときも)で数か月待ちがふつうでしょ。この映画の主要な観客層の若年層は公立図書館で本なんて借りない?それ以前に本なんて読まない?


瀬尾まいこ 幻冬舎文庫 2016年2月25日発行(単行本は2012年4月)
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手のひらの音符

2017-01-14 01:07:53 | 小説
 地道に質の良い商品を作るという方針を貫く服飾会社に勤める45歳独身のデザイナー瀬尾水樹が、上司から自社の半年後の服飾業からの撤退を知らされ、将来を憂いているとき、中学高校の同級生堂林憲吾から自らの才能を見出して専門学校への進学を勧めてくれた恩師の美術教師の入院を知らせる電話があり、故郷の京都に見舞いに行き、堂林から京都の職人のネットワークで伝統技術を生かした洋服を作り産業の再生につなげたいという構想を聞かされ、非現実性を感じつつ惹かれるという「現在」と、行方不明の幼馴染森嶋信也との悲喜こもごもの「過去」の回想を組み合わせつつ展開する中高年青春ノスタルジー小説。
 貧しさの中で、困った人や病気の家族を抱え、懸命に働き家族を支えて生きる者たちの悲しさ、苦しさとささやかな喜びが描かれ、読んでいて楽しくはないけれども、庶民の弁護士としては好感を持ちます。
 過去の回想、かつての、30年近く前の思いが、心の支えとなり、現在の苦境の打開策につながるという展開は、現実の世界では、幻想への逃避につながりかねないものですが、大人のファンタジーとして、そういうのもありかなと思います。


藤岡陽子 新潮文庫 2016年9月1日発行(単行本は2014年1月)
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スイム!スイム!スイム!

2017-01-13 23:28:25 | 小説
 アテネオリンピック、北京オリンピックで水泳の100m、200mの金メダリスト、北京のインタビューでの「コトバにできない」(≒何にも言えねえ)が流行語大賞という、北島康介がモデルとしか考えられない「本作品はフィクションです」「人物の設定等は作者によるものであることを申し添える」(末尾)お調子者のビッグマウス「西山大輔」が、ロンドンオリンピックの予選落ち後「全日本水泳協会」の引退勧告を蹴って切り捨てられ、世界選手権の日本代表選抜でも敗れ、リオデジャネイロオリンピックに出場するために、新たな種目となる「混合メドレー」に水泳界のはぐれ者を集めて全日本代表チームに挑むというスポーツエンタメ小説。
 はぐれ者チームでエリートチームに挑むというエンタメの王道(よくある設定とも)、練習には勤勉(でないと金メダルなんて無理)だがわがままでお調子者でハチャメチャな主人公のキャラ設定、話をつなげる/広げるために新たなキャラを開拓しつつもほぼ最初に予想された選手選考、こういうテーマならまぁこうなるだろうという予想できるストーリー展開、なんですが、それだからこそ安心して読めるというところが、この作品のよさなのかなと、思います。
 やたらとスポーツ根性ものの話が出てきて、「あしたのジョー」が意識されている、もしやと思って、著者の年齢を見ると、私と1つ違いの同年代。やっぱりそうだったのね。


五十嵐貴久 双葉社 2016年5月22日発行
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神酒クリニックで乾杯を

2017-01-10 23:40:19 | 小説
 当直中に泥酔して患者を死なせたと報じられて職を失った若手外科医九十九勝己が、絶対治療したことを知られたくないVIPの手術をする秘密のクリニック「神酒クリニック」に就職し、腕は一流だが問題を抱え社会に居場所がない癖のあるメンバーたちとともに事件に巻き込まれ活躍するミステリー小説。
 外科手術の腕は超一流で格闘能力に長け冒険好きの院長神酒章一郎、美貌と巨乳とセクシーさで男を翻弄し声帯模写が得意な元劇団員の産婦人科・小児科医夕月ゆかり、顔面の表情筋の微細な動きから人の心を読み取る精神科医天久翼、目にしたものは一瞬ですべて記憶する手先の器用なうつの内科医・麻酔医黒宮智人、天然ボケキャラながらハンドルを握ると人が変わるスピード狂の看護師一ノ瀬真美、と個性的なキャラをそろえ、いずれも過去を持ちその過去はこの作品の段階では謎という設定で、最初からシリーズ化が想定されています。
 登場人物の能力やキャラ設定は現実離れしていますが、浮世離れした性格がコミカルに扱え、夕月ゆかりのお色気と一ノ瀬真美の天然ぶりがたぶん男性読者には心地よく、ストーリー展開、謎解きも小気味よく、読み物としてはいい線を行っていると思います。


知念実希人 角川文庫 2015年10月25日発行
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脳は、なぜあなたをだますのか 知覚心理学入門

2017-01-08 17:10:09 | 自然科学・工学系
 外界の刺激を脳がどのように情報処理して五感による知覚・認識につなげていくか、その過程での錯覚、特に知覚刺激の操作により現実には肉体の移動がないのに移動しているように錯覚する現象(ベクション)の研究を専門とする著者が、人間の心について解説した本。
 「はじめに」で人間には自由意思はない、人間の行動はすべて環境からの刺激によって必然的に導かれたものという主張が展開され(9~10ページ)、それがこの本のキャッチになっています(本論でも第2章でそれを展開しています)。近年脳科学や心理学の本でよく見るこの議論を聞いていつも思うのですが、よくその例として挙げられる商品を購入する際に無意識のうちに宣伝で繰り返し接触(露出)している商品を選ぶとか、人間に対する評価が第一印象、顔の好き嫌いで決まる、選挙の投票もそれに左右されるというレベルの議論では、理解できますけど、著者はそれならば、この本の執筆、構成、論の運びすべてが著者の自由意思によるものではなく環境による刺激の結果だと考えているのでしょうか。自由意思はないという主張を突き詰めればそういうところまでいかないとおかしいですし、そうでなければ、どのような場合が自由意思によるものではなく、どのような条件(複雑さ、時間の長さ?)の行動が自由意思(行為者の思惟・思索の結果)によるのかを論ずるべきでしょう。
 本人の主観(気持ち、感覚の「質感」)は言葉では置き換えられず、共有できないという「クオリア」論(52~68ページ)は興味深く読めました。「君の名は。」を見て、瀧が三葉の体に入ったときついおっぱいを触ってしまうのを、瀧はただ触ってみたかったということかもしれませんが、男には知りえない、おっぱいが「ある」ことはどのような感覚なのか、おっぱいを「触られる」のはどういう感覚なのか、「言葉」では分からない(聞いてもわからない)直接的な感覚を持つ機会として、自分が瀧の立場だったら絶対やるよねと思っていました。ついでにHのときに女がどう感じるかも…といったら、「男とHするのに耐えられるか」と突っ込まれ、確かにそれは気持ち悪いと思いましたが。
 アンカリング効果(判断に当たり示された数値に、その数値が全く無意味な数値であっても、判断が影響を受ける)について、法の専門家52名に対して一定の事例についての量刑判断をさせ、その際に判断前にサイコロを振らせたところ、専門家が答えた量刑判断が振ったサイコロの目の大小と相関した(サイコロの目の数値の影響を受けた、引きずられた)という実験結果(189~191ページ)は、興味深いというか、恐ろしい。
 心理学の本の多くが実験の条件等を説明せずに結果だけを独り歩きさせていると、著者は指摘し、有名なつり橋効果(つり橋の上のような不安定な条件下で心臓がドキドキしている状態で異性を見るとその異性の魅力でドキドキしていると錯覚してその異性を好きになる)の実験の条件が揺れるつり橋は揺れるだけでなくて高さも非常に高く(水面から69m)揺れないつり橋は高さが低く(水面から3m)、標本(被験者)数はそれぞれ23と22で、好きになるという効果は女性インタビュアーが電話番号を書いた紙を渡し被験者が電話をした数が9と2ということから結論付けられている、そしてあまり知られていないが男性インタビュアーの実験も行われそちらでは電話をした被験者は揺れる方で2、揺れない方で1だったと紹介しています(201~203ページ)。心理学関係の本を読むとき、よく注意すべきだというこの指摘は、たいへん参考になります。


妹尾武治 ちくま新書 2016年8月10日発行
 
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Excel&Word「超」時短ワザ118

2017-01-04 20:50:29 | 実用書・ビジネス書
 エクセルやワードを使う際のショートカットキーを中心とするテクニックを紹介した本。
 書かれている「ワザ」よりも、「はじめに」で著者が触れている(ぼやいている)若手の操作スキルが年々レベルダウンしている、スマホの普及によりキーボード入力が苦手という人間が一気に増えた、5年前、10年前と比べたらパソコンに向かった時間も激減しているはずというあたりに驚きます。私たちおじさんからすれば現代の若者たちは生まれたときからパソコンがあった世代、パソコン操作はお手の物と思ってしまうのですが、時の流れは速い。私の経験でも、今どきは、相談者・依頼者と話していても、パソコンは持っていてもプリンターがなくてプリントアウトできないとか、パソコンなど持っていないとかいう人が多くなっています。
 「ワザ」の中で、へぇっと思ったのは、エクセルですぐ出てくるエラー表示(#DIV/0、#VALUE!)を消す方法(203ページ)。「印刷」画面の左側「設定」の一番下の「ページ設定」→「シート」タブの「セルのエラー」をデフォルトの「表示する」から「<空白>」に変更するって。それはそれで便利かもしれませんけど、私はなんか気持ち悪い。エラー表示が出るということは、そのシートに問題があることを意味しているわけで、私はやっぱり、エラーの原因を突き止めてエラーが出ないシートを作りたい。そういう「職人気質」の人間は「ビジネスマン」にはいらないということかもしれませんが。


林学 PHP新書 2016年2月1日発行(単行本は2012年4月)
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