本文応接室の重い扉を開くと、小柄な若い男が立っていた。
「お待たせました。どうぞ、お掛け下さい」
横の椅子を示されて、アージュが戦いた。
背もたれが高く、妙な角度に脚が付いている。
これがきっと『恐怖の椅子』だ。
先輩達が「決して座ってはいけない」と、忠告してくれた、あれだ。
「私はその様な身分ではございません。ただ、主からこれを」
そう言って、手紙を差し出した。
「確かに受け取りました。では、失礼して」
ルージュサンが指先で封蝋を外すのを見て、アージュが目を丸くする。
書状を一呼吸で読み終えると、ルージュサンが告げた。
「折角のお迎えですが、私は同行致しかねます。今、返事を書いて参りますので、少しお待ち頂けますか?」
そこに女中頭のマルが入って来た。
ワゴンのポットからは、甘く、微かにスパイシーな香りが、立ち上っている。
「失礼致します」
花柄のカップに注いで、テーブルに置いた。
「遠い所から、陸路は大変でしたでしょう。これは、彼女自慢のハーブティーです。疲れが取れますので、是非、お召し上がり下さい」
アージュは再び戦いた。
これがきっと『恐怖のお茶』だ。
先輩達が「決して飲んではいけない」と、忠告してくれた、あれだ。
「遠慮なさらず、どうぞ、どうぞ」
にこにこと三人に勧められ、アージュは観念して、恐る恐る、椅子に座った。
すうっ、と沈んで、体を包み込みながら、しっかりと支えられている。
全身から力が抜けて、思わず目を閉じた。
「さあ、お茶もどうぞ」
声が遠くから聞こえて来るようだ。
ーああ、これが禁断のー
操られるように薄目を開け、お茶に口を付ける。
スパイスの快い刺激が、甘味を体の隅々まで染み渡らせ、疲れを滋養で埋め尽くしていく。
ーああ、これがー
そしてアージュは、返事を待つには十分過ぎる時間を、爆睡して過ごすことになった。
入力
「お待たせました。どうぞ、お掛け下さい」
横の椅子を示されて、アージュが戦いた。
背もたれが高く、妙な角度に脚が付いている。
これがきっと『恐怖の椅子』だ。
先輩達が「決して座ってはいけない」と、忠告してくれた、あれだ。
「私はその様な身分ではございません。ただ、主からこれを」
そう言って、手紙を差し出した。
「確かに受け取りました。では、失礼して」
ルージュサンが指先で封蝋を外すのを見て、アージュが目を丸くする。
書状を一呼吸で読み終えると、ルージュサンが告げた。
「折角のお迎えですが、私は同行致しかねます。今、返事を書いて参りますので、少しお待ち頂けますか?」
そこに女中頭のマルが入って来た。
ワゴンのポットからは、甘く、微かにスパイシーな香りが、立ち上っている。
「失礼致します」
花柄のカップに注いで、テーブルに置いた。
「遠い所から、陸路は大変でしたでしょう。これは、彼女自慢のハーブティーです。疲れが取れますので、是非、お召し上がり下さい」
アージュは再び戦いた。
これがきっと『恐怖のお茶』だ。
先輩達が「決して飲んではいけない」と、忠告してくれた、あれだ。
「遠慮なさらず、どうぞ、どうぞ」
にこにこと三人に勧められ、アージュは観念して、恐る恐る、椅子に座った。
すうっ、と沈んで、体を包み込みながら、しっかりと支えられている。
全身から力が抜けて、思わず目を閉じた。
「さあ、お茶もどうぞ」
声が遠くから聞こえて来るようだ。
ーああ、これが禁断のー
操られるように薄目を開け、お茶に口を付ける。
スパイスの快い刺激が、甘味を体の隅々まで染み渡らせ、疲れを滋養で埋め尽くしていく。
ーああ、これがー
そしてアージュは、返事を待つには十分過ぎる時間を、爆睡して過ごすことになった。
入力