都を出て、道も石畳から土に変わり、人家が疎らになっても、セランは喜びに溢れていた。
「こうしていると、思い出しますね」
歌うように問う。
「何をですか?」
ルージュサンが素っ気なく答える。
「二人が出会った日のことです」
セランはめげたためしがない。
そして大概上機嫌だ。
ルージュサンの傍では尚更。
「監禁場所から逃げ出して、二人で夜通し歩きましたね」
セランは運命の相手と出会い、共に苦難を乗り越えた、素晴らしい日を反芻していた。
ルージュサンは妙な男がぼうっと立っていたせいで捕らえられ、おまけにのこのこ付いてきて、足手まといになった、不運な日を思い出した。
「そうですね。それはそうと、夜迄には港に着きましょう」
「あの時は夜、今は昼」
セランの目尻が下がる。
ルージュサンは嫌な予感がした。
「安眠妨害にはなりません。貴女を称える歌を歌わせて下さい」
そう言って背中のリュートに手を伸ばす。
「体力は温存しておいて下さい。貴方は無駄な動きが多すぎる」
セランが不思議そうに首を傾げる。赤子顔負けの無邪気さだ。
「無駄?どこがですか?」
「さっきから踏んでいる、そのステップです」
「ステップ?ああ、そういえば踏んでいる気もします」
納得して喜んでいる。
「体が勝手に動くんです。何故なら僕の心も体も、貴女と共にいられる喜びに、打ち震えているからです」
「そうですか。わたしは『エダムの宿』に泊まる予定です」
「?はい」
セランは文脈が分からず、怪訝な顔をした。
そして、ルージュサンに置いていかれるに至って、理解したのだった。
ルージュサンが港に着いた時、組合の灯りはまだ点いていた。
ほっとして頬が弛む。
ここで日数を取られたくない。
「いらっしゃいガーラントさん。久しぶりですね」
愛想よく男が出迎える。
ルージュサンもにこやかだ。
「ご無沙汰してます、カシヌさん。義弟を仕込むのに忙しくて」
「では、代替わりするというのは、本当なんですか?」
「ええ、最初からそのつもりで養女になったんです」
「まあ、父から色々と聞いてます」
男は訳知り顔で頷き、話を変えた。
「ところで、今日はどんな荷をお探しですか?。それとも、船を?」
「今回は、私用でジャナに行きたいんです。なるべく早く」
男は少し驚いて、帳簿を開いた。
「えーと、ドラフさんの船があります。最後の荷が届き次第、出るそうです。運がいいですね。貸し切りですが、人なら乗せてくれるかもしれません」
「他には?」
「ネッツさんの船ですね。三つ目の寄港地になっています。出発は明後日」
「有難うございます。これは酒代の足しに」
ルージュサンが財布から少し渡すと、カシヌが頭を掻いた。
「いつも済みません。ドラフさんなら『エルムの宿』にお泊まりです」
「こうしていると、思い出しますね」
歌うように問う。
「何をですか?」
ルージュサンが素っ気なく答える。
「二人が出会った日のことです」
セランはめげたためしがない。
そして大概上機嫌だ。
ルージュサンの傍では尚更。
「監禁場所から逃げ出して、二人で夜通し歩きましたね」
セランは運命の相手と出会い、共に苦難を乗り越えた、素晴らしい日を反芻していた。
ルージュサンは妙な男がぼうっと立っていたせいで捕らえられ、おまけにのこのこ付いてきて、足手まといになった、不運な日を思い出した。
「そうですね。それはそうと、夜迄には港に着きましょう」
「あの時は夜、今は昼」
セランの目尻が下がる。
ルージュサンは嫌な予感がした。
「安眠妨害にはなりません。貴女を称える歌を歌わせて下さい」
そう言って背中のリュートに手を伸ばす。
「体力は温存しておいて下さい。貴方は無駄な動きが多すぎる」
セランが不思議そうに首を傾げる。赤子顔負けの無邪気さだ。
「無駄?どこがですか?」
「さっきから踏んでいる、そのステップです」
「ステップ?ああ、そういえば踏んでいる気もします」
納得して喜んでいる。
「体が勝手に動くんです。何故なら僕の心も体も、貴女と共にいられる喜びに、打ち震えているからです」
「そうですか。わたしは『エダムの宿』に泊まる予定です」
「?はい」
セランは文脈が分からず、怪訝な顔をした。
そして、ルージュサンに置いていかれるに至って、理解したのだった。
ルージュサンが港に着いた時、組合の灯りはまだ点いていた。
ほっとして頬が弛む。
ここで日数を取られたくない。
「いらっしゃいガーラントさん。久しぶりですね」
愛想よく男が出迎える。
ルージュサンもにこやかだ。
「ご無沙汰してます、カシヌさん。義弟を仕込むのに忙しくて」
「では、代替わりするというのは、本当なんですか?」
「ええ、最初からそのつもりで養女になったんです」
「まあ、父から色々と聞いてます」
男は訳知り顔で頷き、話を変えた。
「ところで、今日はどんな荷をお探しですか?。それとも、船を?」
「今回は、私用でジャナに行きたいんです。なるべく早く」
男は少し驚いて、帳簿を開いた。
「えーと、ドラフさんの船があります。最後の荷が届き次第、出るそうです。運がいいですね。貸し切りですが、人なら乗せてくれるかもしれません」
「他には?」
「ネッツさんの船ですね。三つ目の寄港地になっています。出発は明後日」
「有難うございます。これは酒代の足しに」
ルージュサンが財布から少し渡すと、カシヌが頭を掻いた。
「いつも済みません。ドラフさんなら『エルムの宿』にお泊まりです」