セランはじっと耳を澄ましていた。
けれど、いつまで経っても歌声は届かない。
出口を塞ぐ、大きな石の向こうから、強い風の音が聞こえて来るだけだ。
その音が次第に大きくなるのに落胆し、セランは洞窟の奥に戻ることにした。
蝋燭の炎が揺れているのは、どこからか風が入っているからだ。
そして居なくなる『神の子』。
最初に思い当たった可能性について、セランは調べてみることにした。
微かな風を辿って、祭壇の近くを回る。
向かって右手の岩の裂け目に、風の吹き込み口があった。
両手で丹念に岩肌を探ると、裂け目はセランの肩程の高さで四角く入っていた。
地面を照らして尖った石を見つけると、上の裂け目に合わせて叩く。
壁が四角く手前に浮いた。
隙間に手を入れて強く引くと、三角形に近い形に岩が倒れた。
空間は奥に続いている。
子供がこの岩に足を掛けて進めば、自然に岩は元に戻りそうだった。
岩を横にずらして手燭を右手に持つ。
セランは二歩、三歩と、その穴に入っていった。
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