東にあるフレイアの棟に、ルージュサンとセランは戻って行った。 昨晩早々に、客間をあてがわれたのだ。
その途中、フレイア、ナザルと四人だけになると、ナザルがルージュサンに尋ねた。
「私がフレイア様の使いだと、いつお気付きになられたのですか?」
「最初からです」
ルージュサンがあっさりと言った。
「アージュ殿に休んで頂いている間、馬車を見に行ったのです。馬を優しく労われていましたね。こんな人使いが荒い王女に付いているより、馬と過ごした方が幸せなのではないですか?」
フレイアが文句を言う。
「私のせいではない。皆、勝手に動いてくれるのだ。私はただ迎えの馬車を出し、事実を伝えただけではないか」
「船よりずっと遅くて、目立つ馬車を出すのに、叔父上の注意を私に向け、囮にする以外に、どんな理由が?」
「船の方が速かったのか。それは知らなかった」
「では何故、船をお誂え向きに借り切り、ナザルに私達の後を付けさせたのですか?私が時を惜しんで、船を使うと読んだからでしょう?」
「ドラフが言ったか。あの船長も口が軽いものだ」
「ただ、『信用出来る奴なら、一人二人は乗せても構わないって話だ』と、言っただけです。それなら既に乗船が決まっていたナザルは、荷主側の人間でしょう。第一、あんなに都合よく出る船が、そうそうあるとは思えません。おまけに帰りの分まで借り切っておくとは」
「怒っているのか?」
「いいえ。貴女のしそうな事は、手紙のやりとりで大体分かっています。妹の世話を焼くのも、姉の努めでしょう。ナザル、貴方に近づいたのは貴方の手間を省く為でした。ですが私達はもう友人でしょう?敬語は止めて下さい」
「恐れ入ります」
ナザルが軽く礼をとる。
「それに」
ルージュサンがフレイアをじっと見る。
「貴女と会えました。陛下にも。有難う」
「それは手間賃だ」
フレイアが笑う。
「ところでコラッド殿、昨夜は聞きそびれたのだが、『目が二つしかない』とは何なのだ?」
「ああ」
セランが何でもないことの様に言った。
「王座に着く方や、何かが突出している方の中に、たまにいるのです。額の中央が宝石の様に、輝いている方が」
「そうか」
フレイアは少し考えてから尋ねた。
「私は国の安定のためと思い、縁談を受けた。これで良かったのであろうか」
「さあ?」
セランが肩をすくめる。
「何の為であれ、心から望んだことならば、それで良いのではないですか?我々は宿命から逃れることは出来ません。けれど運命は選び取ることが出来るのですから」
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