ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語ー船乗りの子守唄

2020-10-24 20:36:49 | 大人の童話
ルージュサンは、セランとゆっくり朝食をとり、二人で甲板に出た。
船員が二人、蹴鞠をしているのを見ると、声を掛ける。
「入れてくれませんか!?」
「もちろんだ!!」
鞠には長い紐で重りが付いている。
その抵抗と船の揺れを、計算しながらのラリーだ。
セランは早々に音を上げて、見物に回った。
少し波が出てきたが、風が気持ちいい。
暫く楽しんで後ろを見ると、セランが居ない。
ルージュサンは遊びを抜け、部屋から薬と、水を持って船尾に向かった。
予想通りセランがえずいている。
そして、凄い離れた場所でもう一人、黒髪の男が屈んでいた。
ルージュサンは、迷わず黒髪の男に近付いた。
「船酔いですか?」
「はっ、おえっ」
返事も終えずに又えずいた。
顔は浅黒いが、青ざめているのがよく分かる。
「まず、これを舐めて下さい」
ルージュサンが丸薬を差し出した。
「す、すみません」
男は素直に受け取って、吐く合間に口に含んだ。
「吐き気が一時治まったら、こちらを飲んで下さい」
今度は水と粉薬だ。
「有難う、ございます」
吐き気が徐々に治まる様子が見てとれる。
次に粉薬を流し込んだ。
目を閉じて深呼吸を繰り返し、呼吸を整えてからしっかりと目を開く。
引き結んだ口と筋肉質な身体。
四十がらみの精悍な男だった。
「楽になってきましたか?」
ルージュサンが柔らかく尋ねる。
「お陰さまで。本当に助かりました」
「どういたしまして。左舷側の客室に泊まってらっしゃる方ですか?。吐かなくなったら眠ってしまうのが一番です。部屋までお送りしましょうか?」
「いえ、一人で大丈夫です」
男はそう言って立ち上がった。
二歩目で左に大きくよろめく。
ルージュサンがすかさず受け止め、男の腕を肩に掛けた。
腰に手を添え歩き出す。
二人が船内に消えていく姿を、セランの切ない目が追った。
けれどすぐ、吐き気の波に襲われて、欄干の上に身を乗り出した。


ルージュサンが部屋に戻ると、セランがベッドで横になっていた。
まだ少し苦しいのか、いつもの無邪気さがない寝顔は、より一層、神話の様だ。
念のため、縄を寝台に渡そうと、その顔の上に身を屈めた瞬間、セランの両目がカッ、と開いた。
吐いた後のせいか、少し血走っている。
「どうして、あの男を介抱したんですか」
整っている分、恐ろしさが増す。
「船酔いをしていたからです」
ルージュサンは淡々と答えながら、縄を渡す手を止めない。
「僕も酔っていた」
「すぐに船員が介抱してくれたでしょう」
「貴女の方が良かった」
「私に酔うから船には酔わないのでは?」
「・・・計算を間違えました」
セランは頬を膨らませて拗ねている。
ルージュサンが苦笑する。
「とにかく今は、眠った方がいいですよ」
そう言いながら縄を張り終え、膝立ちになって、右手でセランの目を閉じさせた。
そして寝台に左肘をつきながら、船乗りの子守唄を歌い始めた。



船の揺れも収まって、翌朝はセランも元気に食事を平らげた。
「「ご馳走さまでした」」
二人同時に両手を合わせ、開けると自然に目が合った。
セランが蕩けるような笑みになる。
「一緒に朝食をとるなんて、まるで新婚のようですね」
「結婚して長くなると、朝食は別々なんですか?」
「とんでもない!」
セランは首をふるふると横に振った。
「僕はいつでもいつまでも、貴女と一緒にいたいですっ!」
両手を組んで訴えるセランに、首を傾げてルージュサンが問う。
「ところでこの後、甲板で待ち合わせしてるんですが、一緒に来ますか?」
セランの頬が引き締まった。
「昨日の男ですね。行きますとも」



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