ルージュサンは、セランとゆっくり朝食をとり、二人で甲板に出た。
船員が二人、蹴鞠をしているのを見ると、声を掛ける。
「入れてくれませんか!?」
「もちろんだ!!」
鞠には長い紐で重りが付いている。
その抵抗と船の揺れを、計算しながらのラリーだ。
セランは早々に音を上げて、見物に回った。
少し波が出てきたが、風が気持ちいい。
暫く楽しんで後ろを見ると、セランが居ない。
ルージュサンは遊びを抜け、部屋から薬と、水を持って船尾に向かった。
予想通りセランがえずいている。
そして、凄い離れた場所でもう一人、黒髪の男が屈んでいた。
ルージュサンは、迷わず黒髪の男に近付いた。
「船酔いですか?」
「はっ、おえっ」
返事も終えずに又えずいた。
顔は浅黒いが、青ざめているのがよく分かる。
「まず、これを舐めて下さい」
ルージュサンが丸薬を差し出した。
「す、すみません」
男は素直に受け取って、吐く合間に口に含んだ。
「吐き気が一時治まったら、こちらを飲んで下さい」
今度は水と粉薬だ。
「有難う、ございます」
吐き気が徐々に治まる様子が見てとれる。
次に粉薬を流し込んだ。
目を閉じて深呼吸を繰り返し、呼吸を整えてからしっかりと目を開く。
引き結んだ口と筋肉質な身体。
四十がらみの精悍な男だった。
「楽になってきましたか?」
ルージュサンが柔らかく尋ねる。
「お陰さまで。本当に助かりました」
「どういたしまして。左舷側の客室に泊まってらっしゃる方ですか?。吐かなくなったら眠ってしまうのが一番です。部屋までお送りしましょうか?」
「いえ、一人で大丈夫です」
男はそう言って立ち上がった。
二歩目で左に大きくよろめく。
ルージュサンがすかさず受け止め、男の腕を肩に掛けた。
腰に手を添え歩き出す。
二人が船内に消えていく姿を、セランの切ない目が追った。
けれどすぐ、吐き気の波に襲われて、欄干の上に身を乗り出した。
ルージュサンが部屋に戻ると、セランがベッドで横になっていた。
まだ少し苦しいのか、いつもの無邪気さがない寝顔は、より一層、神話の様だ。
念のため、縄を寝台に渡そうと、その顔の上に身を屈めた瞬間、セランの両目がカッ、と開いた。
吐いた後のせいか、少し血走っている。
「どうして、あの男を介抱したんですか」
整っている分、恐ろしさが増す。
「船酔いをしていたからです」
ルージュサンは淡々と答えながら、縄を渡す手を止めない。
「僕も酔っていた」
「すぐに船員が介抱してくれたでしょう」
「貴女の方が良かった」
「私に酔うから船には酔わないのでは?」
「・・・計算を間違えました」
セランは頬を膨らませて拗ねている。
ルージュサンが苦笑する。
「とにかく今は、眠った方がいいですよ」
そう言いながら縄を張り終え、膝立ちになって、右手でセランの目を閉じさせた。
そして寝台に左肘をつきながら、船乗りの子守唄を歌い始めた。
船の揺れも収まって、翌朝はセランも元気に食事を平らげた。
「「ご馳走さまでした」」
二人同時に両手を合わせ、開けると自然に目が合った。
セランが蕩けるような笑みになる。
「一緒に朝食をとるなんて、まるで新婚のようですね」
「結婚して長くなると、朝食は別々なんですか?」
「とんでもない!」
セランは首をふるふると横に振った。
「僕はいつでもいつまでも、貴女と一緒にいたいですっ!」
両手を組んで訴えるセランに、首を傾げてルージュサンが問う。
「ところでこの後、甲板で待ち合わせしてるんですが、一緒に来ますか?」
セランの頬が引き締まった。
「昨日の男ですね。行きますとも」
船員が二人、蹴鞠をしているのを見ると、声を掛ける。
「入れてくれませんか!?」
「もちろんだ!!」
鞠には長い紐で重りが付いている。
その抵抗と船の揺れを、計算しながらのラリーだ。
セランは早々に音を上げて、見物に回った。
少し波が出てきたが、風が気持ちいい。
暫く楽しんで後ろを見ると、セランが居ない。
ルージュサンは遊びを抜け、部屋から薬と、水を持って船尾に向かった。
予想通りセランがえずいている。
そして、凄い離れた場所でもう一人、黒髪の男が屈んでいた。
ルージュサンは、迷わず黒髪の男に近付いた。
「船酔いですか?」
「はっ、おえっ」
返事も終えずに又えずいた。
顔は浅黒いが、青ざめているのがよく分かる。
「まず、これを舐めて下さい」
ルージュサンが丸薬を差し出した。
「す、すみません」
男は素直に受け取って、吐く合間に口に含んだ。
「吐き気が一時治まったら、こちらを飲んで下さい」
今度は水と粉薬だ。
「有難う、ございます」
吐き気が徐々に治まる様子が見てとれる。
次に粉薬を流し込んだ。
目を閉じて深呼吸を繰り返し、呼吸を整えてからしっかりと目を開く。
引き結んだ口と筋肉質な身体。
四十がらみの精悍な男だった。
「楽になってきましたか?」
ルージュサンが柔らかく尋ねる。
「お陰さまで。本当に助かりました」
「どういたしまして。左舷側の客室に泊まってらっしゃる方ですか?。吐かなくなったら眠ってしまうのが一番です。部屋までお送りしましょうか?」
「いえ、一人で大丈夫です」
男はそう言って立ち上がった。
二歩目で左に大きくよろめく。
ルージュサンがすかさず受け止め、男の腕を肩に掛けた。
腰に手を添え歩き出す。
二人が船内に消えていく姿を、セランの切ない目が追った。
けれどすぐ、吐き気の波に襲われて、欄干の上に身を乗り出した。
ルージュサンが部屋に戻ると、セランがベッドで横になっていた。
まだ少し苦しいのか、いつもの無邪気さがない寝顔は、より一層、神話の様だ。
念のため、縄を寝台に渡そうと、その顔の上に身を屈めた瞬間、セランの両目がカッ、と開いた。
吐いた後のせいか、少し血走っている。
「どうして、あの男を介抱したんですか」
整っている分、恐ろしさが増す。
「船酔いをしていたからです」
ルージュサンは淡々と答えながら、縄を渡す手を止めない。
「僕も酔っていた」
「すぐに船員が介抱してくれたでしょう」
「貴女の方が良かった」
「私に酔うから船には酔わないのでは?」
「・・・計算を間違えました」
セランは頬を膨らませて拗ねている。
ルージュサンが苦笑する。
「とにかく今は、眠った方がいいですよ」
そう言いながら縄を張り終え、膝立ちになって、右手でセランの目を閉じさせた。
そして寝台に左肘をつきながら、船乗りの子守唄を歌い始めた。
船の揺れも収まって、翌朝はセランも元気に食事を平らげた。
「「ご馳走さまでした」」
二人同時に両手を合わせ、開けると自然に目が合った。
セランが蕩けるような笑みになる。
「一緒に朝食をとるなんて、まるで新婚のようですね」
「結婚して長くなると、朝食は別々なんですか?」
「とんでもない!」
セランは首をふるふると横に振った。
「僕はいつでもいつまでも、貴女と一緒にいたいですっ!」
両手を組んで訴えるセランに、首を傾げてルージュサンが問う。
「ところでこの後、甲板で待ち合わせしてるんですが、一緒に来ますか?」
セランの頬が引き締まった。
「昨日の男ですね。行きますとも」
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