斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(6) 【カルロス・ゴーンの嘘】

2020年01月12日 | 言葉
 一般論と具体論
 逃亡先のレバノンで記者会見(8日)を開いたゴーン被告。「日産幹部と日本政府が仕組んだクーデターだった。日本政府高官の名前も出して証拠を明らかにする」という前宣伝だったが、高官名は出さず具体性にも乏しく、抽象的な一般論に終始した。役員報酬を過少申告した有価証券報告書虚偽記載容疑や、保有法人に多額の金銭を還流させた特別背任容疑といった肝心な点には、具体的に反論することもなかった。事情に疎(うと)い欧米のメディアには好評だったようだが、これまでの報道内容を知る日本国民には空疎な限りだ。菅官房長官、森法務大臣とも「抽象的で根拠のない話ばかり」と口をそろえたが、あの会見では他にコメントしようもあるまい。
 
 嘘と誇張
 10日付け読売新聞朝刊(13S版)は、会見主張の事実誤認を挙げている。まず「日本の有罪率は99・4%で、外国人の場合はさらに高くなる」という主張について。日本では有罪が確実な場合しか起訴しないため、有罪率は高くなる。つまり厳正さを裏付ける数字なのだが、事情を知らなければ「東洋の野蛮国の司法制度では、強引にクロにされるのか」と受けとられそうだ。それに外国人の有罪率は日本人の3分の1だから、言っていることは逆、つまり事実誤認である。
 次に「毎日8時間も検察官に尋問され、『自白しないと状況が悪くなる』と何度も言われた」。東京地検によると、ゴーン被告への毎日の取り調べは1日平均4時間弱。「毎日8時間」でないことは自分がいちばんよく知っているはずなのに、こんな嘘を平然とつく。ゴーン被告は毎日2時間弁護士に接見し、取り調べはすべて録音・録画されていたから、検事が「自白しないと‥」といった暴言を吐けば、すぐに分かる。取り調べ日数が長期になるのは、おのれの犯した犯罪件数が多く複雑だったためで、「人質司法」のせいばかりではない。
 
 「今も私は日本の国民と、日産を愛している」
 会見でゴーン容疑者は、こうとも言った。唯一、日本国民を振り返らせるコトバだったかもしれない。しかし嘘と誇張を痛感してしまった後では白々しいばかり。日本国民をナメたコトバだ。もっとも頭脳明晰なゴーン容疑者は、そんなことは百も承知のはずだから、こちらも日本人向けというより、事情に疎い海外メディアに向かって「こんなにも日本を愛しているのに、私は裏切られたのですよ」とアッピールしたかったのだ、と解釈した方がよさそうだ。