斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(20) 【10億円と260億円】

2020年11月05日 | 言葉
 米国大統領選挙報道の陰に隠れた印象ながら、4日の衆院予算委員会の質疑の方も面白かった。とりわけ興味をひかれたのは辻本清美・立憲民主党副代表の、以下のような指摘である。
「総理は『学術会議に年間10億円の国費が使われている』と言うが、あのアベノマスクには260億円も使われているンですよ。10億円の26倍、26年分も、ですよ」。女性議員らしく金銭感覚が鋭い。

 特に学術会議の問題が明るみに出てからは、すっかり忘れられた観の、あのアベノマスク。国民の多くがそっぽを向き、元首相自身もいつの間にか使わなくなった。260億円はドブに捨てたも同然だろう。菅首相は「10億円」の国費投入を任命拒否の理由づけの一つとして繰り返すが、辻本議員の指摘通り、アベノマスクに使った国費の26分の1。アベノマスクの一件では、納入業者の選定や契約内容などに疑念が噴出したが、今なお、すっきりしないままだ。
 10億円の使途の中身は各国アカデミア組織との連絡費や本部事務経費などが大半といい、会員への報酬はわずかだ。退職した元高級官僚が再就職先の政府系団体からもらう高額な報酬(こちらの出費も出どころは国の補助金)と比べれば、雀の涙かもしれない。

 ちなみに4日は菅首相の口から「学術会議(の会員推薦方法)は閉鎖的で既得権益のようなもの」というコトバも飛び出した。あ然とする。国民へ十分な説明もせず、政権の一部だけでモノゴトを処理することは、「閉鎖的」でないのか。「既得権益」も推薦会員選出の手順や慣行を指すようで、プロセスに問題ありと言いたいらしい。例によって「学術会議改革」への、問題のすり替えである。同じプロセスの問題なら、まず拒否理由の説明を、しかる後に組織改革の検討を--の順序もスジを通して守っては、いかがだろうか。