ゆっくり行きましょう

ストレスのない生活を楽しむシニア

土方定一「日本の近代美術」を読む(2/2)

2024年09月18日 | 読書

(承前)

9、社会思想と造形

  • 大正期の後半になると、フォービズムの造形思考、プロレタリア美術協会の影響により印象派や後期印象派の運動は退場させられた、背後には大正期の思想的、政治的性格が反映している、大正デモクラシーの背後には無政府主義とマルクス主義の思想的な底流があった
  • 日本近代の美術史とアナーキズムとの直接的関係として「平民新聞」の挿絵を描いた小川芋銭、百福百穂、竹久夢二がいる

10、二十世紀の近代美術

一、日本におけるフォービズム

  • 昭和初期にはじまる日本におけるフォービズムの性格が、1920年代のエコール・ド・パリの性格を共有したものであった、その典型的な例が佐伯祐三であった
  • フォービズムの造形思考はこの時期以降、日本の美術界を大きく支配した、安井曾太郎の安井様式もフォービズムとの折衷様式
  • 藤田嗣治は誰の亜流にも、折衷派になることも軽蔑し、個性の主張だけが存在理由となる世界に飛び込んだ

二、日本におけるシュルレアリスム

  • 日本における超現実主義は、エルンストのコラージュに刺激を受けて帰国した福沢一郎によって広範な影響を与えた
  • その後、靉光、北脇昇、松本俊介、桂ユキ子などが続く
  • 松本俊介は権力を持つ文化破壊者として威嚇しつつ立ちはだかる軍部ファシズムに対して、人間と芸術の名のもとに「生きている画家」として抗議した

11、戦後

  • 戦前の遠近法、写実主義の近代美術から離れ、戦後は思想の造形的表現、パウル・クレーが言う「絵画は窓から見たようなものではなく、眼に見えないものを見えるようにする」芸術であるとする内向的な時代になった
  • 戦後の現代美術は、戦前の作家たちが成熟度を加えながら、それぞれの性格・様式を持つ作品を発表しつづけ、他方、内向的な自己の経験を多様に実験的に制作しつづけている二つの層に分裂していると言ってよい

土方氏の本書を読んで感じたことなどを記したい

  • 美術館に行って日本人画家のいろんな作品を見てきたが、それぞれの作家の日本美術史における位置づけなどがよくわかって、大変参考になった
  • 土方氏はどうも官展など官製のものあまり評価していないようだ、黒田清輝に対する批判や戦時中の戦争絵画の批判、大正期のマルクス主義やアナーキズムに対するシンパシーを感じさせる説明などにそれが表れている、私はそのような考えには賛同しないが、氏の考えも一つの見方として尊重したい
  • 美術界も人の集まりである以上、いろんなグループができては対立し、解消し、また新しいグループができる、ということを繰り返している世界だということがわかった、例えば、洋画と日本画、官展と在野展、その他いろいろんな流派
  • 本書の本筋には関係ないが、氏も「後期印象派」という用語を使っているのが気になった、英語ではPost-Impressionismであり、直訳すれば「印象派後」であり、印象派ではないのに印象派のような訳をするのはおかしいと思う、「ポスト印象派」とでも訳すべきか

明治以降の日本の美術界のことを概観したい人には良い本だと思った

(完)