「ウェブ進化論」でおなじみの梅田望夫さんの文庫本。2001年8月に出版された「シリコンバレーは私をどう変えたか」という本を文庫本化するにあたり、28ページに渡る「文庫本のための長いあとがき」が増補され、「シリコンバレー精神」というタイトルの文庫本として出版された。この「長いあとがき」読むためだけでも十分に買う価値がある。
梅田さんはシリコンバレーを「天才たちが富を創り出す天気のいい田舎町」、「コンピュータのことが好きで好きで仕方がない人たちで溢れている」と評している。さらに「失敗しても返さなくていい資金を調達し、一銭の借金もすることなしに、急成長して上場したり大失敗したりできる。『再挑戦可能なシステム』などとさらに強調せずとも、借金などないのだから、失敗したって何回でもトライするのは常態。そして成功時(株式公開、自社売却など)には、創業者や一部投資家にのみ偏った富の配分にはならず、リスクを負ったすべての関係者(投資家、従業員、成長途上で参画した経験豊富な経営者やアドバイサー)に、公平感を伴うルールのもとで富が応分に分配される世界」と書いている。
書籍の中だけでも そんなシリコンバレーの空気を吸うことで とても元気になれるし、やる気がわいてくる、また参考になる事象や考え方のヒントが満載の本だ。
日本に目を転じると(抜粋します)
創業者は起業への情熱に溢れ、成功への強烈な自信ゆえ、個人債務保証付きの借金によって巨額の資金調達を行う。「失敗した時は自分の責任で返さなければならない金」を借りて起業し、「失敗したら終わり」という土壇場の苦境を次から次への乗り越えて成功した起業家の先達たちに対して、私は尊敬の念を持つ。そういう人々のおかげで現在の日本の繁栄があると心からそう思う。しかしそんな成功物語は、ネット時代のベンチャー起業の参考にはならない。もう時代に合わないのである。
上記文章が書かれた1999年から7年以上経過した今も、起業に対する根本的な精神というか思考回路は日本の場合は変わっていないと思う。様々な制度は整備されてきているけど、文化というか、うまく表現できないけど、「シリコンバレーとは空気が違う」 としか表現できないような、そんな感じがする。
この本で語られているのは「1996年秋から2001年夏にかけてのシリコンバレー」で、この時期Googleは潜伏期。もちろんまだ「Web2.0」という言葉もなかった。梅田さんも書いておられるけど、この頃の最も沸き立つエピソードといえば「Linux」(リナックス)。「長いあとがき」では「オープンソースは実質的にも精神的にもネット産業に多大な影響を及ぼし、ウェブ社会を牽引するもっとも重要な思想の一つとなった」(ウェブ進化論)と近著を引用されて、現在のWeb2.0全盛時代の到来を説明されている。この「LinuxからWeb2.0への流れ」、もっと具体的に言えば「LinuxからGoogleへの流れ」を理解しておくことは重要で、ビジネスモデルを考えるとき「これまでのモノを売る発想」では「これからのネットビジネス」は考案できないことをはっきり気づかされる。
現在は この本に書かれている「5年間」の後、「2001年秋から2006年夏」の「次の5年間」を経験した後であり、すでにGoogleが巨大企業に成長し、Webの世界に革命的な変化を引き起こし、Web2.0全盛の時代だ。そんな「これからの時代」を生き抜くために、シリコンバレーを舞台にした、これまでの10年を学ぶことはとても参考になると思う。この本はそれに最適だ。
それから自分は日本にいて、それも静岡県の焼津という それこそ「天気のいい田舎町」で仕事をしているけど 自分が経営する会社には「失敗したって何回でもトライするのは常態。そして成功時(株式公開、自社売却など)には、創業者や一部投資家にのみ偏った富の配分にはならず、リスクを負ったすべての関係者(投資家、従業員、成長途上で参画した経験豊富な経営者やアドバイサー)に、公平感を伴うルールのもとで富が応分に分配される仕組み」を組み込んでいきたい と強く思った。
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