文庫本の小説を2冊連続で読んだのはいつ以来だろう。読書といえば 最近はほとんどビジネス書またはビジネス雑誌を読むことが多い。もちろん小説は学生の頃から好きなので、たまに読みたくなるんだけど、だいたい年間でも5冊くらいかな。「2冊続けて小説」ってことはほとんどなかったと思う。
今回読んだ2冊の小説。1冊目は村上由佳さんの「夜明けまで1マイル」。大学生のロックバンドのベーシスト(主人公 男)とボーカルの女の子を中心にしたラブストーリー。こちらは現代的なセンスと軽快なタッチがよかった。2冊目は奥田陸さんの「蒲公英草紙(たんぽぽそうし)~常野物語~」。こちらは一転してねっとり系のタッチ。たとえば書き出しはこんな感じ。
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いつの世も、新しいものは船の漕ぎだす海原に似ているように思います。
新しい、という言葉にいつも人々は何を求めているのでしょうか。ぴかぴか光るその大海原を、若者たちは顔を紅潮させ期待に満ちた瞳で見つめ、今にも勇んで飛び込みかねぬ様子。中には手近にある小舟ですぐに漕ぎだす者もいます。一方、その後ろで見守る年寄りは不安や畏れの色を滲ませて身体を縮めています。自分の持っている、今まで使ってきた船で航海することができるかどうか思案しております。それでも、何か大きなものが海の向こうにあるという予感を感じている点では両者とも同じでございます。遠い水平線から寄せてくる浜辺の白い波のように、足元にその気配を感じているのですね。
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舞台は明治時代、日露戦争が始まる前の東北の山村。全編とおして この日記っぽい綴りと詩的で美しい情景描写が続きます。
名家「槇村のお屋敷」は責任感の強い旦那様と快活な奥様が切り盛りしていて、5人のお子様たちがいる。その末娘聡子様は美しく、聡明なのだけれども 生まれつき身体が弱く、学校にも通えない。そこで近所のかかりつけ医の娘、峰子(語り手)が話し相手として呼ばれる。
物語はこの二人を中心に、槇村家に出入りする様々な人たちや槇村家を慕う住民たちが織り成す暮らしを描いている。かつて日本に確実に存在したであろうほのぼのとした「共同体」的な生活風景が目の前に浮かんでくる。
そこに特殊な能力をもち、旅する生活を義務づけられた「常野(とこの)」と呼ばれる一族の春田家がやってくるところからミステリー色が強まってくる。いくつかの超常現象っぽいエピソードの後、最後、大迫力のクライマックスに続く。
のどかな山村ではリーダーはリーダーらしく、そこに集う人たちはその人たちらしく、それぞれ 国のため、地域のため、子どものため、父母のためという美しい精神構造をもちながらも、それが戦争へと続く暗い影と背中合わせになっていることが見え隠れしていて、ほのかに哀しい。
日本は太平洋戦争により多くの若い生命を失うという悲劇的な状況を招き、敗戦により過去の伝統は否定され、もともと各地の日本人がもっていた美しい精神構造や身につけていた秩序も失意のうちに消えていく。その後経済は復興し、文明は発達したが、回復することなく、喪失感となっている部分の大きさに気づかされる、みずみずしい感性溢れる長編。おススメです。
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はい、私からもトラバ&コメントさせていただきました。すごい読書量なのですね。これから小説を選ぶときの参考にさせていただきますね~ (^_^;) 。