帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子(拾遺二十五)宮仕へ所は

2012-03-07 00:24:21 | 古典

  



                               帯とけの枕草子(拾遺二十五)宮仕へ所は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」だけである。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺二十五)宮づかへどころは


 文の清げな姿

 宮仕え所は、内裏。后の宮。その御腹の一品の宮と申す斎院、(お仕えする身が)罪ふかくあっても趣がある。まして他の所は(精進潔斎不用)。ならびに東宮の女御の御方。


 原文

 宮づかへどころは、内。きさいの宮、その御はらの一品の宮など申たる斎院、つみふかゝなれどおかし。まいてよの所は。又春宮の女御の御かた。


 心におかしきところ

 伊勢物語の男の・「宮こ」仕えどころは内裏。后の宮、その御腹の一品の宮など申す伊勢の斎宮、罪深くあっても、おもしろい。まして、俗世(田舎女)のところは。また春宮の女御の御方。


 言の戯れと言の心

 「宮…宮中…宮処…宮こ…京…極まったところ」「宮仕え…宮中や貴人の家に仕えること…宮こ仕え…男が努めて奉仕して女を宮こへ送り届けること」「内…内裏…身の内」。

 


 「宮」の「言の心」を「宮こ…京…絶頂」と心得る人は、「伊勢物語」を思い出すことができるでしょう。むかし、業平とおぼしき男の「なま宮づかへ」の様子が、「伊勢物語」に描かれてある。お相手は、内の女、斎院の女、田舎女ら数多。

「春宮の女御の御かたの花の賀」(伊勢物語二十九)もその一つ。その時の女の歌を聞きましょう。

 花にあかぬなげきはいつもせしかども けふのこよひににる時はなし

(花に飽き足りない嘆きはいつもしていましたが、今日の今宵に似る、すばらしいひと時はかってございません……おとこ花に飽き足りない嘆きはいつもしていましたが、今日の・京の、今宵のこの酔いの、好いに似る時はかって体験ございません)。


 花の賀に召された男の御礼の歌のように見せて、或る女房の御礼の歌である。

「伊勢物語」は、言の戯れを知り言の心を心得て読めば、あるおとこの、わけあっての「なま宮こ仕え」の物語であることがわかる。当伝授「帯とけの伊勢物語」で紐解いた通りである。


 
伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。