帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (十七と十八)

2012-03-27 20:49:36 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿の
み。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。貫之の云う「艶流、言泉に沁みる」を実感できるでしょう。帯はおのずから解ける。



 紀貫之 新撰和歌集 巻第一春秋 百二十首(十七と十八)


 雪のうちに春はきにけりうぐひすの こほれる涙いまやとくらむ

                                    (十七)

(雪降る中に春が来たことよ、鶯の凍っている涙、いま、とけるでしょうか……白ゆきのうちに、春の情、やってきたことよ、女のこおっている涙、いま、とけるのでしょうか)。


 言の戯れを知り貫之のいう「言の心」を心得ましょう。

 「ゆき…雪…逝き…白ゆき…おとこの情念」「はる…季節の春…春情…張る」「うぐひす…鶯…春告げ鳥…はる告げる女」「鳥…女」「こほれる…凍っている…心に春を迎えていない…いまだ情の幼き…こ掘っている…こ折っている」「こほる…子掘る…こ折る…まぐあう」「とくる…氷が融ける…うち解ける…心が解放される」「らむ…目に見えない今の情況について推量する意を表す…事実を推量する形にして婉曲に表わす」。

 


 秋風に夜のふけゆけばあまのかは 河せのなみのたちゐこそまて

                                    (十八)

(秋風吹き、夜が更けゆけば、天の川、川瀬の浪が立ち静まるのこそ、待て、彦星よ……飽き風に、夜が更けゆけば、あまの川、川辺の汝身の絶ち射こそ待て、男よ)。


 「あきかぜ…秋風…飽風…飽き満ち足りの心風」「あまのかは…天の川…彦星は七夕の夜舟を漕いで天の川を渡り織姫に逢いにゆくと万葉集歌で詠まれている」「あま…天…女」「川…女」「かはせ…河瀬…川辺…女の辺り」「なみ…浪…波…心波…汝身…おとこ」「たちゐ…立ち居…起ち座り…絶ち射」「こそ…強く指示する意を表す…子ぞ…おとこぞ」「まて…待て(命令形)」。



 撰んだ歌は「玄之又玄なり」と貫之は言う。


 初春を抽象的に描いた景色の奥に、女の生々しい初はるの情況が秘められてある。対するは、秋の天の川の幻想的景色の奥に、おとこの生々しい飽きの情況が秘められてある。

 これが、われわれの伝統的和歌の有様である。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (十五と十六)

2012-03-27 00:08:59 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿のみ。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。貫之の云う「艶流、言泉に沁みる」を実感できるでしょう。帯はおのずから解ける。



 紀貫之 新撰和歌集 巻第一春秋 百二十首(十五と十六)


 花の香を風のたよりにたぐへてぞ うぐひすさそふしるべにはやる                                
                                                                          (十五)

 (花の香りを、風の便りに添えてだ、春告げ鶯、誘う道案内には送って遣る……おはなの香りを、風の便りに添えてぞ、春告げひとを誘う、しるべには、やる)。

 言の戯れと言の心

 「はな…花…梅の花…おとこ花…ものの先端」「風…春風…心に吹く風」「うぐひす…鶯…春告げ鳥…はる告げ女…浮く漬す…浮かれ濡れる」「鳥…女」「しるべ…道標…みおつくし(澪)…しるし(徴)…汁べ…潤んだ辺り」「には…庭…ものの行われる場…女」「やる…遣る…与える…行う」。

 


 こよひ来む人にはあはじたなばたの ひさしきほどに待ちもこそすれ
                             
 (十六)

 (今宵来るはずの人には会わないつもり、七夕星のように久しい程も、待つことになると困る……こ好い来るだろうひとには、合わない合ってはならない、七夕星のように久しい程に、合うを待つばかりになるとこまる)。


 「こよひ…今宵…小好い」「こ…小…ほんの少し…おとこ」「人…客人…男…女」「あはじ…会わないつもり(打消しの意志を表す)…合ってはならない(禁止の意を表す)」「あふ…逢う…会う…合う…和合する」「たなばたの…織姫のような…七夕星のように」「の…比喩を表す」「待ちもこそすれ…待つようなことになるといけない(悪い事態を予測してそうなっては困るという意を表す)」。



 初春の景色は歌の清げな姿。実は愛するものと合えない苦を詠んだ歌。対するは、日常の出来事に見える事柄は歌の清げな姿。実は愛するものに執着する苦について詠んだ歌。


 漢文の序に「各各相闘之」、「各又対偶」とある。「対偶」は、同類、仲間、つれあいのこと。両歌は相闘っているが、同じ類の事柄を詠んである。

 


 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず