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帯とけの新撰和歌集
紀貫之 新撰和歌集 巻第一春秋 百二十首(二十一と二十二)
春の夜のやみはあやなし梅の花 色こそみえね香やはかくるる
(二十一)
(春の夜の闇は道理にあわない、梅の花、色こそ見えない、けれど香りは隠れるか……はるの夜の心の闇は、みだれている、おとこ花、闇に色は見えないけれど、かの香はかくれるか、きえない)。
言の戯れと貫之のいう「言の心」。
「はる…季節の春…人間の春…情の春…ものの張る」「やみ…闇…暗いこと…心の闇…心の迷い乱れ」「あやなし…綾なし…道理も条理もない…乱れている」「梅の花…男花…おとこ花」「いろ…色…かたちに表れたもの…おとこ花の白い色」「か…香…彼…あれ…過…あやまち」「やは…か…疑問の意を表す…か、いや、ではない…反語の意を表す」「かくるる…隠れる…無くなる…消える」。
年ごとにあふとはすれどたなばたの ぬる夜のかずぞすくなかりける
(二十二)
(年毎に逢うとはしても、七夕星の寝る夜の数は、少ないことよ……疾しごとに、合おうとはすれど、たなばた星のように、しっとり濡れる夜のかずは、少ないことよ)。
「とし…年…疾し…一瞬…早過ぎ」「ごと…毎…事」「あふ…逢う…合う…和合する」「ぬる…寝る…共寝する…濡る…しっとり濡れる」「かず…数…かす…彼す…あのす」「す…洲…女」「すくなし…数が少ない…稀である」「ける…けり…だったなあ…詠嘆の意を込めて過去のことを述べる」。
少年の作文のような春の景色の描写に包まれて、生々しいおとこのはるの有様が詠まれてある。対するは、少年の作文のような秋の夜の思いに包まれて、生々しいおとこの思いが詠まれてある。
貫之のいうように、歌の様式を知り言の心を心得ると、貫之とほぼ同じ歌の聞き方ができる。貫之の撰定した歌は、「花実相兼」「玄之又玄」「漸艶流於言泉」「妙辞」「絶艶之草」であることを、歌から直接、実感することができる。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず