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帯とけの「古今和歌集」
――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解き明かす。
「古今和歌集」巻第一 春歌上(34)
(題しらず) (よみ人しらず)
やどちかく梅の花うへじあぢきなく 松人の香にあやまたれけり
(家の近くに、香る梅の花は植えないものでしょう、どうしょうもなく、待つ女が、待つ人の色香と誤ってしまうことよ……屋門近くに、香る男花は植えないようにするわ、情けなくも、待つ女が、待ち焦がれる人の、彼に・香に、心地乱されることよ)
歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る
「やど…宿…家…言の心は女」「梅の花…木の花の言の心は男…香る男花…おとこはな…おとこ先端」「うへじ…植えないだろう…植えないでおこう」「植える…植え付ける…タネを植え付ける」「じ…打消しの推量を表す…打消しの意志を表す」「あぢきなく…どうしょうもなく…なさけなく…張り合い無く」「松…言の心は女…待つ」「松人…待っている女…女が待っている人(男)」「香…色香…か…彼…あれ」「あやまたれけり…誤またれけり…間違えてしまうことよ…心地が乱されるこよ」「れ…る…自然にそうなる(自発)意を表す…受身の意を表す」「けり…気付き・詠嘆」。
宿の近くに梅の木は植えないでしょう、どうしょうもなく、待ち人の袖の香に間違えることよ。――歌の清げな姿。
や門ちかく、おとこ端は、うえつけないでおこう、情けなくて、待つ女が、あれに、心乱されることよ。――心におかしきところ。
客観的に詠まれてあるが、女の立場で詠んだ歌と聞いた。「梅…男花…おとこ花」「松…女…待つ」などという「言の心」と戯れの意味を心得ないと成立しない歌である。貫之のいうように「言の心を心得る人は古今の歌が恋しくなる」。「心におかしきところ」が聞こえるからである、
(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)