帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百十二〕絵にかきおとりする物

2011-07-08 00:01:23 | 古典

   



                                    帯とけの枕草子〔百十二〕絵にかきおとりする物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


   清少納言枕草子〔百十二〕絵にかきおとりする物


 絵にかきおとりする物、なでしこ、さうぶ、さくら。物がたりにめでたしといひたるおとこ女のかたち。

かきまさりするもの、松の木、秋の野、山里、山道。


 文の清げな姿

絵に描くと劣るもの、撫子、菖蒲、桜。物語で愛でたしと言っている男女の容姿。

描くと優るもの、松の木、秋の野、山里、山道。


 心におかしきところ

絵に描くと下劣となるもの、撫でし子の君、想夫咲くら。もの語りで愛でたしという男と女の姿態。

 掻き増さりするもの、ひとの気、飽きのひら野、山ばのさ門、山ばのみち。



 言の戯れを知り、貫之のいう「言の心」を心得ましょう

 「なでしこ…撫子…撫でし子…可愛い子…愛するこの君」「こ…子…おとこ」「さうぶ…菖蒲…壮夫…想夫」「さくら…桜…おとこ花…咲く状態」「ら…状態を表す」「かきまさり…描き優り…掻き増さり」「掻き…かきわける…おしわける…こぐ」「松…待つ…女」「木…き…気」「秋…飽き」「野…やまばではないところ」「山里…山ばのふもと」「山…山ば」「里…女…さ門」「山道…山ばの路」「路…女」。



 枕草子は、おとなの女のための読物。「心におかしきところ」は、言の戯れの中に顕われる。


 

  伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)


  原文は 「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」 による

 


帯とけの枕草子〔百十一〕つねよりことにきこゆるもの

2011-07-07 00:11:44 | 古典

 



      帯とけの枕草子〔百十一〕常より異に聞こゆるもの



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、君が読まされ、読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 清少納言枕草子〔百十一〕つねよりことにきこゆるもの
 
 原文
 
つねよりことにきこゆるもの、正月の車のをと、又鳥の声、あかつきのしはぶき、物のねはさらなり。


 文の清げな姿
 
常とは異なって聞こえるもの、正月の車の音、又、鳥の声、暁の咳、ものの音色は、さらに言うまでも無い。


 心におかしきところ
 
常より殊に感じられるもの、睦つきのものの音、また、とりの声、赤つきのし端吹き、ものの根はなおさらである。


 言は戯れ、心得るべき「言の心」がある。
 
「ことに…異に…殊に…特別に」「きこゆ…耳に聞こえる…心に感じる…身に受ける」「正月…睦月…睦ましい壮士…睦ましいつき」「月…壮士…おとこ…突き」「車…しゃ…者…もの…おとこ」「又…亦…股」「鳥…女」「声…囀り…意味不明のひとのことば」「あかつき…暁…赤つき」「赤…元気色」「つき…突き…尽き」「しはぶき…咳き…子端吹き」「し…子…おとこ」「は…端…身の端」「ふく…吹く…やま吹きの白い花が咲く…やまばで噴出する」「ね…楽器などの音色…声…根…おとこ」。


 藤原公任撰「和漢朗詠集」の「暁」にある貫之の歌を聞きましょう。

 あかつきのなからましかばしらつゆの おきてわびしきわかれせましや
 (暁がもしも無かったならば、白露が降り、起きて、わびしい別れをするだろうか……あか尽きがもしも無かったならば、白つゆ贈り置いて、わびしい別れをするだろうか)。

 「あかつき…暁…あか尽き」「しらつゆ…白露…白つゆ」「白…おとこのはて」「おきて…起きて…降りて…贈り置きて」。朝帰り来て女のもとに遣った歌。


 貫之、公任と同じ「言の心」で歌を聞けている人は、歌の「心におかしきところ」がわかり、歌が「をかし」と思え、恋しくなるでしょう。

 枕草子は、このような歌と同じ文脈にある。


 伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
 
聞書 かき人しらず

  
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。



帯とけの枕草子〔百十〕卯月のつごもり

2011-07-06 00:10:18 | 古典

   



                                  帯とけの枕草子〔百十〕卯月のつごもり 



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
 


 帯とけの枕草子〔百十〕卯月のつごもり


 卯月のつごもりがたに、初瀬にまうでゝ、淀のわたりといふものをせしかば、船に車かきすゑていくに、さうふ、こもなどのすゑのみじかく見えしを、とらせたれば、いとながかりけり。こもつみたる船のありくこそ、いみじうをかしかりしか。たかせのよどにとは、是をよみけるなめりと見えて。
 
三日かへりしに、雨のすこしふりしほど、さうぶかるとて、かさのいとちいさききつゝ、はぎいとたかきおのこ、わらはなどのあるも、屏風のゑに似ていとをかし。

 文の清げな姿
 
四月の末ごろに、初瀬(長谷寺)に詣でて、淀の渡りというものをしたけれど、船に車を乗せて行くときに、菖蒲、菰などの先端が短く見えたのを取らせたら、とっても長かったことよ。
 
菰積んだ船がゆっくり動いているのは、とっても風情がある。「こもまくら高瀬の淀に刈る菰の かるともわれは知らで頼まむ」とは、これを詠んだらしいと見えて。
 
五月・三日、帰ったときに、雨が少し降った間、菖蒲を刈るということで、笠のとっても小さいのを着ながら、すねのあたりのたいそう高い男、童などがいるのも、屏風の絵に似て、とっても風情がある。

 心におかしきところ
 
憂尽きの果てがたに、初めて背の君に申しでて、「淀の渡り」というものをしていたので、夫根に、ものかき据えてゆくと、壮夫、子も末が短いと見ていたのが、それ・付け与えたれば、とっても永いかりだったことよ。
 こも積みかさねた夫根の歩むようにゆっくりゆくのこそ、とってもすばらしい、かりだったことよ。「こも枕、たか背がよどむに、かる子もの、涸れるとも、わたしは知らずに、頼んでいたのね」とは、このことを、詠んだらしいと見えて。
 
三日くり返したために、お雨すこし降った間、壮夫、涸れるということで、嵩のひどく小さい山ばが来つつ、端木のとっても長いおのこ、わらわのあるものの、病夫の枝に似てとってもおかしかったことよ。

 
言の戯れと言の心を心得ましょう
 
「卯月のつごもり…四月末…憂尽きの果て」「もうでて…詣でて…申でて…申し出て」「よどのわたり…淀の渡り…船に車を積んで川を渡る…淀みを渡る」「淀…女…心地などがよどんでいる」「わたり…渡り…渡り合い…まぐあい」「とらす…与える…付けてやる」「さうふ…そうぶ…菖蒲…壮夫」「ふね…舟…夫根…おとこ」「車…しゃ…者…物…ここでは、おとこに着せるもの」「かきすゑ…据える…取り付ける」「かき…接頭語」「かり…刈り…あさり…まぐあい」。歌・こもまくら高瀬の淀に刈る菰のかるともわれは知らで頼まむ……こもまくら高瀬の淀に刈る菰が刈るものとも、われは知らずに取ってよと頼んだようね……こもまくら高背の立派な君が、淀む女に『かり』するこの君も涸れるものとは、わたしは知らずに頼んでいたのね・古今六帖」「かる…刈る…まぐあう…涸る…尽き果てる」「高…長…立派」「せ…男」「淀…女…川のよどみ」「こも…菰…子も」。
「三日…五月三日…三日間」「かへる…帰る…返る…繰り返す」「雨…おとこ雨」「かさ…笠…嵩…体積」「屏風…びゃうふ…病夫」「ゑ…絵…え…枝…身の枝…おとこ」。


 「子もまくら」を「夫ね」にかきすえるといっても、紐つきの薄絹衣で、玉結びに「ふ根」に結びつける、途中取れないように。「あまのはごろも(女の昇天するための衣)」ともいう、おとこの君に着せるもの。
 
ものに包んで表現してあるので、この様な事が書いてあるとは、今の人々には青天の霹靂でしょう。今まで聞こえなかった最低音が突然聞こえてきたような驚きでしようが、男性(おとこのさが)の一過性、非持続性の劣性は、人の世の初めからで、おとなのおんなたちの関心事でしょう。夜の具のことを「枕草子」に書くのは当然のこと。

 在原業平「伊勢物語」にも「夜の具」「あまのはごろも」として、これが描かれてある。使用後のおとこの感想は「もしや飽きはこないのかと、喜びの涙の雨が降る」などとある。(当ブログ、2010、9月24日、帯びとけの伊勢物語十六にある)


 伝授 清原のおうな
 聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)

 原文は、「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による


帯とけの枕草子〔百九〕原は

2011-07-04 00:05:02 | 古典

 

                                   帯とけの枕草子〔百九〕原は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 清少納言 枕草子〔百九〕原は

  原は、あしたのはら、あはづの原、しの原、萩原、その原。 
 (
原は、朝の原、粟津の原、篠原、萩原、園原……盛り上りのないのは、吾下の腹、合わずの原、しおれの原、端木はら、その腹)

 
言の戯れを知り言の心を心得ましょう。
 「原…山ばの無いひら野…盛り上がりのないところ」「はら…腹…心のうち…腹のうち」「あした…朝…吾下…わが身の下」「あはづ…粟津…合わず…和合できず」「しの…篠…細竹…なびいているさま…しんなりしたさま…しおれたさま」「はぎ…萩…端木…木っ端…おとこ」「ばら…ども…複数・軽蔑の意を表わす」。


 
「盛り」の次には「盛り上がりのないはら」を並べた諧謔。これを、唯の原の名の羅列と決め付けては、「心におかしきところ」が聞こえないので、味気ない文と貶めたくなるでしょう。
 「心深く」はないけれど、男に腹立つ事あれば、これを口ずさむと、女たちの溜飲、少しは下がるでしょう。

 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)

 
 原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による



帯とけの枕草子〔百八〕もりは

2011-07-04 00:02:04 | 古典

 



                       帯とけの枕草子〔百八〕もりは



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



  清少納言 枕草子〔百八〕もりは

 もりは、うきたのもり、うへ木のもり、いはせの森、たちきゝのもり。


 (
森は、浮田の森、植木の森、岩瀬の森、立ち木々の森……盛りは、浮き多の盛り、植木の盛り、女と男の盛り、立ち木利きの盛り)


 言の戯れを知り言の心を心得ましょう。
 
「もり…森…盛り…感情の盛り上がり…心地のさかり」「田…女…多…多情」「うへ…植…植え…種つけ…まぐあい」「木…男…こ…子…おとこ」「いは…岩…井端…女」「せ…瀬…背…夫…男」「たち…立ち…しおれていない」「きき…聞き…木々…利き…よく活動する…巧みである」。


 
歌ではないが、藤原公任のいう「心深く」もないけれど、「姿清げに、心におかしきところ」があるように作ってある。おとなの女たちをおかしがらせる諧謔。


 唯の森の名の羅列と聞いては味気ないでしょう。和歌に育まれた女たちは、そのような一義な文を受け入れるほど甘くは無い


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)

  原文は、「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による