~波の数だけグチらせて!

H漫画家・あかりきょうすけ(灯喬介)の活動日記です。

きまぐれオレンジロードは今でも僕の教科書です

2020年10月13日 | 「漫画」


まつもと泉先生が亡くなっていたというニュースを今日の明け方に知りました。
思春期にリアルタイムで作品を体感していた世代なので、正直動揺しました。
闘病なされていたことはもちろん知っていましたが…。

漫画家のはしくれなのに漫画に対する読書量も知識も圧倒的に足らなすぎる僕が
語っていいものかとても迷うのですが、大ファンだということで押し切らせてください。

僕が初めてオレンジロードに出会ったのはJC3巻収録の「禁じられた恋の島!」でした。
ジャンプ掲載時には巻頭カラーだった気がします。
当時まだ小学生だった僕でも美しい絵とポップなノリに一発でトリコになりました。
魅力的すぎる絵のことはよく語られていると思うので割愛します。

僕がとても気になったもう一つの部分がセリフや文章のクセです。
「けっこー」「そーゆー」「どーやら」みたいに「ー」が多用されているんです。
この文章の軽さがたまらなく魅力的だったんですね。
学校でこのクセを多用しました。んで、先生に怒られました。無駄に伸ばすなって。

時間の経過がこちらの世界とリンクしていてリアルタイムだったのも魅力でした。
だから自然とこちらが行動するときの教科書になってしまう(真似できませんが)
夏はオキナワ冬はスキー、クリスマスも正月もひなまつりもキノコ狩りも全部あります。
リア充指南書みたいな側面があると思うのです。青春をメチャメチャ煽られました。

季節の描写も素晴らしかったです。リアルタイムなので余計感じられるんですよね。
僕が高校に入る前後で連載が終了したと思います。
しばらくは僕も自分のことでいっぱいでそれから何年もオレンジロードを
手にしていないと思います。
ぶっちゃけ完全に忘れて生きていました。…彼女を作るのに必死だったので(笑)

で、それからいろいろあって僕が漫画家としてデビューするときに担当さんから
「君が漫画を読み込んでいないのがよくわかる。構成が恐ろしく未熟だ」と言われました。
話の組み立てやシーンの取捨選択、セリフの吟味、コマ構成それらすべてが
思い付きや感覚だけでなされていると。

それからは相当特訓しました。好きじゃない漫画も連載を獲るためにいくつも読み漁りました。
でも全然身につかないんですよね。全然楽しくないんです。
漫画がそこまで好きじゃないのに漫画家を目指しているという矛盾にぶつかるんです。

ある日泊まり込みのアシスタントから家に帰り、ふとオレンジロードを手に取って読みました。
目からウロコでした。
当時は魅力的なキャラや季節感、軽妙なセリフばかり気を取られていましたが
まつもと先生の構成力が尋常ではないと気が付いたのです。

基本が1話完結ですのでいろいろ削ぎ落さないと話が収まりません。
それをとてもスマートに流麗にまつもと先生はなさっているんです。
時にはコマの中で時間を止めたりします。
先生は早い時間ゆっくりな時間を常に制御しているんです。
主人公の超能力でそういう演出がありますが、そうじゃなくて通常のシーンでも
変幻自在なのです。
僕が同じシーンを表現するのに3コマ使うところを先生は何気ない1コマでスマートに
済ませてしまう。
読者として読んでトリコになってから10数年後、僕は今度は漫画家(見習い)として
魅了されたのです。

そして漫画がそれほど好きじゃないという矛盾も解消できました。
「きまぐれオレンジロードが好きで漫画家を目指してる」
ようやくモヤモヤが消えたのでした。
そしてそれは今も変わっていません。


JCは全18巻全部揃えていますが、初版本はこの4巻からです。初めて発売日を待ってお小遣いで買いました。
この巻が一番読み直していると思います。構成が素晴らしいお話がたくさんあるのです。
サブタイトルにもなっている「星空に予知夢(ドリーム)!」僕は特に影響を受けています。
その中でも特に170ページ、春日と鮎川の背景に予知夢のシーンを重ねるコマは絶品だと思います。

僕はエロ漫画家なので、先生について語るのは名誉を汚すことになるかもしれません。
でも、書かずにはいられませんでした。すみません。


まつもと泉先生、本当にお疲れさまでした。
そして僕にいい思春期を下さって、本当にありがとうございました。