奥出雲に源を発する斐伊ひい川。この川には、素戔嗚尊が退治した八岐大蛇伝説があります。そして、素戔嗚尊は草薙の剣、神剣を手にいれます。
奥出雲町は、古代よりたたら製鉄で栄えてきた地域のようです。おそらく、八岐大蛇は鉄と深く結び付いていて、山から鉱物や自然に生きる命を壊されないように守っていた土地の精霊だったのかもしれません。
ギリシャ神話にも、九つの頭をもつ蛇の化け物ヒドラが出てきて、蟹が蛇を助けるのです。蛇も蟹も英雄ヘラクレスに退治されますが、蟹座は12星座のひとつ、蛇はうみへび座として輝いています。
蛇が自然の精霊代表として蛇の化け物に変わり日本神話では素戔嗚尊、ギリシャ神話では英雄ヘラクレスと闘って屈したのだと思います。
ところで、たたら製鉄は、砂鉄と木炭を用いて鉄をつくる日本で古くから伝えられてきた製鉄方法のことのようです。今から約1300年前に編纂された『出雲国風土記』には、「各郷から産出する鉄は、堅くて、さまざまな道具を造ることができる最適な素材である」と奥出雲町で産する鉄の優秀性が記されています。
つまり、出雲を制したものは、強力な鉄を手にいれることが出来たということになるのかなと思いました。
鉄鉱石が少ない日本が鉄を手にいれるのは至難の技でした。燃料は「石炭」ではなく炭焼きで作る「木炭」を使用します。森林伐採も進められます。
砂鉄は川岸や海岸に自然に堆積したものを集めたほか、山際を掻き落として土砂を水路に流し、比重の差によって選別・採取する「鉄穴(かんな)流し」という方法で得ていました。
たたら操業1回に使う砂鉄は14〜15トン。調達するためには大規模な地形の変造を促したようです。
今では、タタラ製鉄の技法も残しつつ、使われない地には棚田がつくられて、牧歌的な風景を醸し出しているようですね。
人間の生活を豊かにした鉄。しかし、その鉄を得るために多くの精霊や生き物の犠牲があったことがわかりました。車、船、飛行機、全て鉄がなければ存在しないから、そういう便利な物は、元は山の鉱物を使わせてもらったおかげだと感謝したいと思いました。
島根のたたら製鉄所があった奥出雲は、鉄がとれる地。それは、権力と富が結びつき、強いものが弱いものを支配し、自然が無茶苦茶にされた地。
その土地の獅子神様につかえる眷属の犬に育てられたもののけ姫、サン。サンは、生贄として山に捨てられ、犬に育てられます。サンは育児放棄の被害者であり、自然を壊す人間が山に捧げた生贄。
だから人間を心底憎みます。
しかし、そのサンが唯一心を開くのが、アシタカ。アシタカは今でいう東北、昔の蝦夷の長であり、なんとなく、長髄彦みたいだと思っていました。
じつは、奥出雲と東北の方言はとても酷似しているようです。出雲から東北に逃れた人がいたから、東北弁と出雲弁は類似しているのです。
たたら製鉄のある出雲と、東北の関係。人間の引き起こす自然破壊を憎む、奥出雲のもののけ姫サンと蝦夷の長アシタカ。
しかし、最後は2人はそれぞれの道を歩みます。決して、悪にも懲罰しない、ハッピーエンドに映画を終わらさなかった監督。だから最初みた時はスッキリしなかったです。
でも、それが現実なんだよ、、といわんばかりの終わり方です。
もののけは、モノノフ、物部。
たたらは、祟りと言霊が似ています。 精霊の逆襲。自然を壊した人間がひきおこしたこと。育児放棄。スッキリしない終わり方。
太古から形を変え人々の心が生み出す残酷な出来事はそう簡単には終わらないと監督はハッピーエンドは避けたのかもしれません。
正しさの視点は人により違います。人は上下を作り、差別したがるサガがあるのかもです。そういう悲しい人のサガを痛烈にこの映画は織りまぜているのかなとも思いました。
【画像は全て画像検索よりお借りしました】