昨夜のNHKクローズアップ現代では介護心中を扱っていた。
京都で80代の認知症の母と心中しようとした50代の男性が取上げられていた。母を施設入所させるお金がなくて、日中だけ預かってもらい夜間は自分で看ていた。認知症の常で、環境の変化が夜の興奮を生み、この男性は夜寝られず、昼間の仕事をとうとう辞める羽目になった。
お金が底をついてくる。月3万の家賃の2ヶ月滞納。食事は母に食べさせて自分は2日に1回。それも出来なくなった日。車椅子を押して、昔家族で食事をしたりした繁華街へ。母親は喜んだと言う。
深夜2時。いよいよ河原で
もうかえられへんのんでぇ~
この母親思いの息子さんを救う手立てはどこにもなかったのだろうか?
福祉は申請しないと動かない。
このところ利用にもお金がかかるシステムに加速がついている。
介護保険料の負担もいきなり値上げ。
この人は福祉事務所へ生活保護の相談に出向いているのに、
貰えないと判断してあきらめてしまった。
担当ケアマネが事情を確かめようと電話をしたら、
『守秘義務』
を盾に何も答えて貰えなかった。
近所の人は夜中に
息子さんの泣き声を聞いている。
なだめているお母さんの声を聞いている。
関わる人すべての手が救いの方向へ結ばれていたら
こんな悲劇は生まれなかったのだろうに。
エ・アロール―それがどうしたの
角川書店
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対極にあるのが、この小説だろう。
文庫本の帯にある『年甲斐のない人になりたいの』は、
お金のある人にだけ許される事のように思える。
エ・アロールとは、
かつてフランスのミッテラン大統領が
妻以外の女性との間に出来た子供が発覚して質問する記者に答えた言葉。
訳せば、『それがどうしたの?』になるらしい。
エ・アロールは
夢、希望、やすらぎ、愛…等々の老人施設臭のする名を嫌って
仕事や世間の枠から開放されて自由になった人に
自由に気ままに生活し人生を楽しんでもらえるように
『それがどうしたの?』精神で運営される高齢者施設。
風光明媚より賑やかな刺激の多い便利な場所を選んで銀座にしてある。
今ある施設の常識を覆した設定になっている。
渡辺淳一氏が自ら入りたい施設を小説の中に作られたようだ。
小説抜粋
…実際、入居に当たって、二億円近いお金を必要とする超豪華な施設もあるが、それでは入居できるのは、ごくごく一部の人に限られてしまう。
そうではなくて、せいぜい四、五千万の入居権利金みたいなものを納めてもらうだけで…(中略)…あとは食費管理などを含めて、月々十五万から二十万程度必要となる…
ハイ、
これだけの負担ができる高齢者は日本に何パーセント居られるでしょう
「ごくごく一部の人に限られてしまう。」のではないかしらん?
渡辺センセの経済観念は庶民からはズレて居られる。
管理費が15~20万円の施設で
レストラン風バイキングや看護、介護、警備、相談員と多種な職員配置もむつかしいように思う。
やたら詳しい職種なもんで、このあたりで小説に酔えなくなってしまった。
まぁ~小説は小説。仮想現実なのだから、絵に描いた餅でもいいだろう。
セクシュアルなところばかり強調されていて、
ここらあたりも、そんな人も居るだろうけど、
まわりを見渡して少数派の気はしたけれども、
まぁ~失楽園の渡辺センセ風と言うことで~
『年甲斐もなく』と言われそうなところを
『それがどうしたの』とさらりと流すのは
年齢の熟した知恵のようで好ましくは思えた。
実際のところ
長く我慢して苦労して、せっかく世の柵から開放されて、
体の機能が衰えてきて、誰かの助けが必要になっても
自分らしく生きれる場所を誰もが望んでいる。
『地獄の沙汰も金次第』と言うけれど
老後もまた金次第。
やだねったら~やだねぇ~♪
この小説を読んだ後の介護心中は余計に胸に沁みた。