気の向くままに

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地方創生回廊 まず生活の足を確保せよ

2016-02-10 09:55:37 | 日記

 国土の大型開発に乗り出すとでもいうのだろうか。安倍晋三首相が施政方針演説で掲げた、新幹線や高速道路などの交通網を整備する「地方創生回廊」構想のことだ。

 「大阪や東京が大きなハブとなって、地方と地方をつないでいく」という説明は、田中角栄元首相による「日本列島改造論」を想起させる。

 今後、人口の激減期を迎える日本では、既存の鉄道でさえ存続の危機を指摘される路線が少なくない。大交通網の整備を「時代の要請」と呼ぶことには、大きな違和感を覚えざるを得ない。

 整備新幹線や高速道路の延伸に対する地方の期待は今も大きく、自らの政治実績にしたいと考える首長や地方議員は少なくない。

 だが、交通網整備がかえって東京一極集中を加速しかねない面にも目を向けたい。首相はこの構想で「全国を一つの経済圏に統合する」とも語ったが、地方創生や地方分権との整合性はあるか。

 人口減少に対応する社会づくりが現に求められており、コンパクトシティーをはじめ、戦略的に「どう縮むか」が問われている。必要な交通インフラは整備するとしても、まずは既存路線の有効活用こそ考えるべきだろう。

 「回廊」構想には、一部の観光地に集中しがちな訪日外国人を各地に誘導し、地方経済の活性化に結びつける狙いもあるようだが、そろばんをはじいた通りにはならない。「回廊」の完成には相当の年月を要する。それまでに人口が激減すれば、観光客の受け入れどころではない。

 建設費だけでなく維持コストも見積もらなければならない。既存インフラの老朽化対策は喫緊の課題となっている。首相は、将来の交通需要や経済波及効果だけでなく、こうした財源の確保策についても説明すべきである。

 全国で問題化している「生活の足」の確保が、優先すべき課題であることは明らかだ。

乗客が減れば運賃が値上がりする。高齢化で運転手確保が難しくなるとも予想される。すでに電車やバスの運行本数が減り、買い物や通院に支障を来している地域もある。地域交通の立て直しなくして、地方創生は実現しない。

 少子高齢時代における乗客とは、いったい誰なのか。政府は、ニーズを十分把握した交通政策を考える必要がある。

2016.2.10 05:02 産経新聞 【主張】