「『さあやるぞ』 区切りのコーヒー 7杯目」。第一生命サラリーマン川柳のホームページで歴代作品を見れば、職場でくつろいでしまう方々の句も目立つ。あげくに「わが社でも 無駄はないかと 俺を見る」という目にもあう。
▲「打ち合わせ 次回の日時を 決めただけ」には大きくうなずく方もおられよう。もっとも「静けさや 空気読む人 眠る人」ともなれば何やら怖い静寂である。現実には仕事熱心な人がいてこその手抜きやサボりだろう。
▲「君の職場は何人くらいの人が働いているの?」「半分ぐらいかな」−−は米国のジョークだが、アリの世界でも働きアリのうち2〜3割は働かないアリなのだという。今までの研究では働くアリだけのグループを作っても必ず一定の割合で怠けアリが現れるそうだ。
▲北海道大学などの研究チームは日本に生息するシワクシケアリのコロニー(集団)を観察し、働かないアリは働くアリが疲労した時の交代要員であるのを突き止めた。最初に働いていたアリが疲れて休むようになると、今まで働いていなかったアリが働き始めたのだ。
▲働くアリだけの集団は一斉に疲れて働けなくなり、滅びてしまう。一見非効率な働かないアリは集団の長期的存続には欠かせぬ存在だったのだ。またシミュレーションでは働き度合いがばらばらの集団の方が勤勉なアリだけの集団より生き残りに有利なのも分かった。
▲「人は皆有用の用を知るも、無用の用を知る莫(な)きなり」。役立たずと思われるものにも大事な役割があるという荘子(そうし)である。高校の漢文を思い出し、8杯目のコーヒーを飲み始めた方もいるかもしれない。
毎日新聞2016年2月18日 東京朝刊 余録
昔々、机に向かったまま居眠りしていたら「沈思黙考か」と耳元でそっと言った上司のことを思い出した。