気の向くままに

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シャープは「遠い星」を追い求めることができるのか 「従業員の雇用は守る」…その約束を信じたい 

2016-02-26 15:19:11 | 日記

 シャープの創業者、早川徳次さんを主人公にした、芝居が、昭和49年に上演されている。『遠い星』という題名だった。当時80歳のご本人は、「恥ずかしい」と照れていた。

 ▼東京生まれの早川さんは、幼い頃に養子に出され、小学校を2年で中退する。丁稚(でっち)奉公先で身につけた金属細工の技術を生かして、19歳で独立を果たした。3年後に発明するのが、後に会社の名前にもなる、シャープペンシルである。

 ▼ところが、大正12年の関東大震災で工場は全焼、妻と2人の子供を失った。大阪へ移って、ラジオの国産第1号を完成させたところで、舞台の幕は下りる。「遠い星」とは、逆境のなか気持ちを奮い立たせて追い求めた「希望の星」を指す。会社は、戦後もいくつもの危機を乗り越え、世界初、日本初の製品で業界をリードしてきた。

 ▼そのシャープが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に6600億円で買収されることになった。鴻海は「鴻飛千里 海納百川」に由来する。大きな雁(がん)は千里を飛び、海はすべての川を納める、という意味らしい。

 ▼社名の通り、小さな町工場は40年間で、世界最大のEMS(電子機器受託製造)企業にまで、大きく羽ばたいた。一代で築き上げた郭台銘会長もまた、立志伝中の人物といえる。「従業員の雇用は守る」、との約束を信じたい。もちろん、先端技術の流出はあってはならない。

 ▼実はシャープには、恩義がある。駆け出し記者時代、悪筆が一番の悩みだった。ワープロの「書院」との出合いがなかったら、仕事を続けていられなかっただろう。わが家の居間に鎮座するのは、「亀山モデル」の液晶テレビ「アクオス」である。ファンの一人として、「遠い星」へと続く、再生の歩みにエールを送る。

 2016.2.26 【産経抄】