かつての日本でRosa sambucina Koidz、つまりヤマイバラが日本の社会に浸透していた痕跡は残っているでしょうか。最初に、正倉院宝物の薬箱の中を捜してみることにします。薬種の中にペルシャ発の薔薇の実でも出てくればめっけものですが。 https://shosoin.kunaicho.go.jp/search/
(http://www1.tcnet.ne.jp/hanahide/syujuyakutyou.htm)を参考にさせていただきました。
盧舎那仏に奉る種々薬(種々薬帳)は、奈良時代の天平勝宝八年(756/6/21)、聖武天皇崩御の七七忌に孝謙天皇・光明皇后が東大寺盧舎那仏(奈良の大仏)に献じ、同年建立された正倉院に保管したものに由来します。
「種々薬帳」に記載されている60種類の薬物の一部分を下に取り上げました。この中に薔薇の種子があります。上の絵の下欄、最初の行に“蕤核(ズイカク)五斤”とあります。
麝香(ジャコウジカの雄の香のう分泌物)
犀角(サイカク・インド産クロサイの角
朴消(ボウショウ・含水硫酸ナトリウム)
蕤核(ズイカク・バラ科の成熟した果実の種子)
小草(ショウソウ・中国産の遠志をいうが現存品はマメ科植物の莢果)
畢撥(ヒハツ・インド産ナガコショウ)
胡椒(コショウ・インド産コショウ)
蕤核は、中国華北地域産の扁核木(バラ科)の成熟した果実の種子、ヘンカクボク(扁核木)Prinsepia uniflora Batal.のことで、(上薬) 眼疾剤として、5斤(1115g)保存されていたようです。眼薬の他に、種子からとった油は灯用、食用としています。
プロトアクチニウム( Prinsepia uniflora)は、バラ科の(扁核木属)Prinsepia uniflora属に属し、中国固有の植物です。 中国本土の陝西省、四川省、河南省、山西省、甘粛省、内モンゴルおよびその他の場所に分布しています。海抜900メートルから1,100メートルの範囲で、主に丘の中腹と山麓で生育します。現在、栽培はされていません。(Hedge Prinsepia Nut nux prinsepiae Prinsepia uniflora Batal seed ...zhanjo.com から)
もうお判りですね。Rosa sambucina Koidzとは関係のないサクランボの仲間でした。『果実の種子』という文字を見た時に気が付くべきだったのですが、「バラ科」の文字と白い花に一瞬惑わされてしまいました。Prinsepia unifloraは、現在さまざまな種がネパール、インド、中国、バングラデシュ、台湾で生育されています。
日本の文化は中国の影響を受けて発展してきましたが,ノイバラの果実を寫下剤(生薬名はエイジツ、営実)として用いるのは我が国独特の処方で,中国ではこのような用い方はしないようです。(このことについては、後で詳しく述べるつもりです)
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