気を取り直して、日本の古典の中にどの薔薇の花が、どのように扱われているかを調べてみようと思います。(https://www.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/index.htm “文学作品に登場する植物たち”を参考にさせていただきました。)
( )内は編纂年月日
古事記(712)、日本書紀(720)、出雲風土記(733)の中に薔薇の花に因む用語、語句は見られませんでした。
萬葉集(783)の中に二句見つかりました。
万葉集では「うばら」に「棘原」の字を宛て、刺のある小木の薮をこう呼んでいたようです。茨(うばら、むばら、いばら)は野生の薔薇を指します。
( 古来より「薔薇」に棘、茨、荊の字を当ててきましたが、薔薇の字を初めて使ったのは918年に深根輔( ふかねすけひと ) が著した、日本現存最古の薬物辞典( 本草和名(ほんぞうわみょう )です。醍醐天皇に侍医、権医博士として仕えた深根輔仁により延喜年間の918年に編纂されました。)
「うばら」、「むばら」、「いばら」はそれぞれ「う」、「む」、「い」を取れば「ばら」となり、これに「薔薇」の字を当てて「ばら」と読ませていますが、「薔」は元来「墻」であり、この字は穀物蔵の土垣を意味します。後に住居の垣根を指すようになりました。
「薇」は「ゼンマイ」のことでおそらく「巻き付く」の意味を持たせるために使ったのでしょう。「薔薇」は「ばら」とは元来読むことができません。「ショウビ」と音読みすることが正しいと言えます。薔薇を垣根に使ったのは、ずいぶん昔からだったと言えそうです。
「天平勝寶七歳乙末の二月、相替りて筑紫に遣さるる諸國の防人等の歌」
道の邊(へ)の宇万良(うまら)
の末(うれ)に這(は)ほ豆※の
からまる君を別(はか)行かむ 第20巻の4352 丈部 鳥(はせつかべのとり)
( 道端のうまらの枝先まで這う豆かずらのようにからまりつく
主君のいたいけない若君。そんな君を残して別れていかなければならないのか )
当時九州筑紫の海岸線や対馬などに唐や新羅の侵入に備えて防人(さきもり)が配置されていました。この歌は上総の国(千葉南部一帯)の防人の歌です。
※ 豆
つるまめ、のまめの類。
Glycine soja Sieb. et Zucc.
=Glycine max (L.) Merr. subsp. soja (Sieb. et Zucc.) Ohashi
https://www.ootk.net/cgi/shikihtml/shiki_174.htmから
ツルマメ(Glycine soja Sieb. et Zucc.、別名、ノマメ)は、マメ科ダイズ属の一年草で、ダイズの原種。在来種で日本全土、朝鮮、中国、ロシア、アフガニスタン
に分布します。
「忌部首の數種の物を詠める歌一首」
枳(からたちと、棘原(うばら)刈り除(そ)け、倉(くら) 建てむ
屎(くそ)遠くまれ、櫛造る刀自(とじ) 第十六巻の3832: 忌部首 (いむべのおびと)
( からたちと茨(うばら)を刈り除いて、倉を建てるぞ。屎は離れたところでしなよ、櫛を作るお姉さん )
(https://art-tags.net/manyo/flower/ubara.html を参考にさせていただきました。)
どちら歌にも、詠まれている薔薇は背の低い薔薇のようです。ノイバラ、テリハノイバラのどちらかでしょう。2番目の歌は品が無いですが、お姉さん方が野ばらの実を摘んでいるのを、茶化した歌とも取れます。しかし、この頃は野原でうんこをするのが一般的だったようで、地面を這うノイバラ※1、テリハノイバラ※2だからこその光景といえます。
カラタチ http://stewartia.net/engei/tree/Mikan/Poncirus.html
カラタチ(枳殻、枸橘、Poncirus trifoliata)の棘は薔薇のそれとは比較にならないくらいに鋭いですね。中国長江上流域が原産で8世紀頃には伝わっていたとされ、古くから生け垣などに植栽されていました。
『万葉集』ではウツギの生垣が。絵巻物を見ると平安、鎌倉時代には、下枝を切り落した生垣が主流になっています。生垣は枯れ枝や割り板を立てた垣根の代わりに、腐らない垣根(生垣)として作られたと思われます。平安時代頃から防犯のためにカラタチ、クコ、ウコギなどの刺がある樹木を使った生垣が現れ始め、室町時代から江戸時代前期にかけて流行しています。
少納言著 「枕草子』(1000) の205段では
『まことの山里めきてあはれなるに、いとあらあらしくおどろおどろしげに、さし出でたる枝どもなどおほかるに』と書き表しています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1994/62/5/62_5_413/_pdf から
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