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映画『黒い雨」/ 「正義の戦争より不正義の平和」の重み

2022-03-03 | 映画

ジャンル 戦争
製作 日本
英語タイトル Black Rain
製作年 1989
公開 1989/5/13
上映時間 123分 +(未公開シーン19分)
監督 今村昌平
脚本 石堂淑朗 今村昌平
原作 『黒い雨』井伏鱒二 
プロデューサー 飯尾久
撮影 川又昇
美術 稲垣尚夫
音楽 武満徹
録音 紅谷愃一
照明 岩城保夫
編集 岡安肇
助監督 月野木隆
スチール 石月美徳

出演 田中好子(高丸矢須子)、北村和夫(閑間重松)、市原悦子(閑間シゲ子)、原ひさ子(閑間キン)、沢たまき(池本屋のおばはん)、立石麻由美(池本屋文子)、小林昭二(片山)、山田昌(尾崎屋タツ)、石田圭祐(岡崎屋悠一)、小沢昭一(庄吉)、楠トシエ(カネ)、三木のり平(好太郎)、七尾怜子(るい)

私の評価 ★★★★☆(4.0点)

お家観賞

概要 昭和20(1945)年8月6日8時15分、快晴の空から原子爆弾が落とされた。その20分後旧広島市から北西の地域にかけて真っ黒い雨が降る。この雨には多量の放射能が含まれていたため、雨に打たれた者は二次的に被曝した。人々はそれが何か知らなかった。
黒い雨とは核爆発による気流の乱れから吹き上げられた細かい塵が降雨となったもの。放射性落下物(フォールアウト)の一種である。
原作である井伏鱒二の『黒い雨』は、雑誌『新潮』昭和40(1965)年1月号~翌年9月号に連載された。当初は『姪の結婚』という題であったが連載途中で『黒い雨』に変わった。釣り仲間の重松静馬の日誌(『重松日記』)を資料に書かれた小説である。

 被爆ー爆撃によって被害を受けること。原子爆弾水素爆弾による被害者を被爆者という。
 被曝ー放射線に晒されること。

※以下ネタバレあり



矢須子は原爆投下時には離れた場所にいて直接被曝していない。しかし船の上で黒い雨を浴びる。さらに広島市内に入り叔父叔母と共に逃げ回ったため残留放射能を浴び、被曝しながらも北へ逃げて助かる。急性障害は約5か月後にほぼ終息したという。

5年後、3人は広島市から離れた福山の田舎で暮らしている。叔父が縁談をまとめようとしても、矢須子はピカにあっていると噂を立てられ断られてきた。若く美しい矢須子の控えめな様子に原爆の影を感じてやりきれない。田舎ののどかな生活は平和に感じられるのに、原爆症でひとりまたひとり亡くなる。帰還兵でPTSDに苦しむ若者もいる。そのうちに叔母や矢須子にも被爆の後遺症が忍びよる。それを隠す矢須子の姿が痛ましい。

朝鮮戦争で原爆を使用する可能性あるというニュースがラジオから流れる。
「正義の戦争より、不正義の平和のほうがまし」原爆の地獄を見た叔父の言葉は重い。
不正義の平和であっても原爆を回避できるのならそのほうがましである。そもそも正義の戦争などないし、不正義の平和などもない。あるのは正義の平和であると私は思う。

矢須子が病院に運ばれていくのを叔父が見送る場面で映画は終わる。願いと諦めが入り混じるラストだった。

この映画には当初は付け加える予定だった四国巡礼のシーン(カラー)が存在する。昭和40(1965)年夏、矢須子は生き延びていた。
「私一人いい目にあうわけにはいかんのです」と結婚していない。行き着いたのは四国巡礼であった。「この老人は言わず語らずのうちに私にすべてを捨てることを教えた。私は叔父さんが残してくれたものをすべて原爆病院に寄付し、愛する人も捨てた。私は今何もなしの身軽さである」

矢須子の自分だけが幸せになれるはずがない幸せになってはいけないと思う気持ちは、戦争が幸せを特別なものにしてしまったように思える。胸が痛く気持ちの持って行き場がない。

私の母はこの映画の叔父が原爆投下時にいた横川に住んでいた。箪笥の影にいて直接光線に当たらず助かったという。2歳だった。3人と同じように北へ逃げ助かった。後遺症を恐れることも差別を受けることもなく今も健在である。子どもである私も50歳になり、健康に暮らしている。それでも原爆がなければと話すことがある。手を合わせる。

映画 黒い雨 (1989)について 映画データベース - allcinema

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OGPイメージ

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