原題:THEY SHALL NOT GROW OLD
ジャンル:ドキュメンタリー/戦争
製作:2018年
監督:ピーター・ジャクソン
上映時間:99分 R15+
概要:イギリス帝国戦争博物館に保存されていた2200時間を超える第一次世界大戦(1914-1918)の記録映像を修復、再構築したドキュメンタリー。第一次世界大戦終結100周年事業として制作された。無音映像にBBCが所有していた600時間以上もある退役軍人200人のインタビューや読心術のプロが解析した兵士の言葉、効果音を加える。
監督の祖父が第一次世界大戦に従軍している。この大戦で大英帝国軍の兵士100万人が戦死した。
見所:バラバラの速度で撮られていたフィルムを統一し、映像の修復とカラーリングされると、撮り直したのかと思うくらい生き生きと鮮やかに兵士の顔が映し出される。ナレーションはなく、元兵士が代わる代わる語る話を聞いていると、さまざまな思いで戦地に赴いたひとりひとりの存在を感じる。爆撃で無残に死んだ若者の映像は衝撃的だ。作り物ではなく本物の人の死体だ。彼らの笑顔をみたばかりなのに。
私の評価 ★★★★★(5点満点)
お家観賞
※【以下ネタばれあり】
戦争がどのようなものか知らない10代の若者たちが参加。
従軍するのが当たり前のような風潮の中、我も我もと志願した。19歳から35歳が志願資格であるのに、それよりも若い者が年をごまかして、採用する方もわかっていて合格させる。6か月の軍事訓練を受け、海を渡り西部戦線に送られた。敵と向かい合う塹壕線に配置される。不衛生、劣悪な環境であっても休憩時や食事の風景など仲間と過ごす日常の様子は楽しそうである。いつ死ぬか分からない状況で頑張れるのは仲間がいたからではないだろうか。戦場であっても彼らの青春なのだ。滑稽な話も飛び出してくる。
前線で最初にするのが紅茶を飲むこと
優雅に聞こえるが、しばしば紅茶を淹れたり、いよいよの時はラム酒を飲ませてもらうのは厳しい戦地で正気に保つためなのだろう。みんな人を殺すような怖い顔なんかしていない。むしろ幼さの残る顔がたくさん見られる。悲惨な状況を受け入れて、与えられた仕事を真剣にこなし生き延びようとしている。
死と隣り合わせの戦場で運良く生き抜いた元兵士たちの言葉は重い。なぜ隣の友人が撃たれ、死ななければならなかったのか。誰にもわからない。生き残ったのは運がよかっただけという極限の経験だ。不思議なことに彼らから戦争への嫌悪は感じられない。戦地の赴いたのを悔いていない人もいる。それは生きて帰ってきた人の話だからである。無残な死体は話ができない。
終戦前の戦いなどは死にに行けといわれているようなものだ。引き返すことはできず、引き返そうともせず、前進する。残酷きわまりない。戦えと指示されたから戦っているだけなのだ。敵のドイツ兵は案外いいやつで向こうもそう思っているのだから。
「全くもってこの戦争は無意味だと」
終戦後、互いの兵士の意見が一致した。恨み合っておらず、おなじ思いであったことは救いである。イギリス兵とドイツ兵が一緒に終戦の記念写真におさまるのがこの戦争を物語っている。
命をかけて戦っていたのに、市民生活は戦場とはまったく別の世界だった。帰還した兵士は労をねぎらわれることもなく、英雄視どころか居場所がない。故郷にもどり社会に必要とされないのがつらかったと言う。戦争の話を聞きたがるものはいない。従軍した兵士が行かなかった人から強烈なことを言われる。
「ところでおまえはどこに行っていたんだ?」
我々の周りで何が起きているのか無関心であってはいけないのだと思う。尊い犠牲があったから国が守られたのだと言えば、戦争を肯定するように聞こえてしまうが、戦わなければどうなっていただろうか。無力だったらさらに大きな犠牲を生んだかもしれない。だれもが自分や自分の大切な人が悲惨な目にあって欲しくない。敵であってもケガをして倒れていれば救いたいと思う。ひとりひとりはやさしいのになぜ平和でいられないのだろう。悲しいが人間は戦争をする動物なのである。
いつのまにか戦争がはじまっている状況を生まないために、知ることや考えることを止めてはならないと強く感じた。いつの間にか戦争がはじまっていることがないように。繰り返さないように。
「and in memory of 彼らを忘れない」