ジャンル ドキュメンタリー
製作国 日本
製作 2019年
上映時間 119分
監督 坪田義史
出演 大原信 坪田義史 木村真智子
あらすじ:広汎性発達障害のまことさんはお母さんが亡くなって、ひとり暮らしをしている。成年後見人のマチ子さんが世話をしている。マチ子さんはまことさんのいとこで、マチ子さんの甥が坪田監督である。親亡き後の障害者の自立や老後の住居問題などを映し出す。
見所 バリアフリーの字幕付。坪田監督と主演の大原信さんが仲良くなっていき、ほほえましい。私が女でマチ子さんと同じ心配をするので、男同士の話を関心を持って聞いた。
私の評価 今、観てもらいたい作品。
お家鑑賞
※【以下ネタバレあり】
最初、まことさんの生活を覗いているようで落ち着かなかった。監督自身の親戚とはいえあけっぴろげにしすぎてないか、ご近所からクレームを話して大丈夫なのかなあと心配した。生活するのに最も大切なことのひとつはご近所さんとトラブルがないことなんだけれど、平穏というわけではないらしい。
ゴミを散らかしているように見えたのは、白いレジ袋が風にふわりふわりと浮くのをきれいだと思って眺めていたからだった。私が感じとれない世界が見えているのがちょっと羨ましかった。ご近所さんの苦情も理解できる。怒らなくてもいいんじゃないかと思うけど。家が密接している日本の住宅事情もあるんだろうね。さみしい。
大きくなった桜の樹の世話ができなくなる。
「かわいそうだけど」桜の樹が切られる。
私もまことさんとおなじ問題を抱えているのだと共感した。うちの庭にも木があって、近い将来切らなければならない。住宅街で葉が散って迷惑がかかる。今は親が世話しているけれど、親ができなくなったら私はできない。
まことさん(64歳)も年をとっていくし、親戚の人たちは自分たちが老いる前にできることをしておこうと、伐採の手配をするのもわかる。でもまことさんの気持ちを思うとものすごくせつなかった。事前にまことさんとちゃんと話せていたのかな。
みんながいてよかったなあ。
まことさんのお母さんは、マチ子さんにまことさんのことを全く話さなかった。それでもお母さんの繋いだ縁だと思える。マチ子さんはヘルパーさん傾聴ボランティアさんなど様々な縁を繋いだ重要な人である。ほとんど知らない従兄弟の世話をできる人ってなかなかいないと思う。まことさんはマチ子さんのことをおねえさんと呼んでいる。おねえさんだからしっかりしていて強い。
おねえさんに靴をこっそり買ったのがばれてしょげたり、エロ本が見つかって悩んだりする。監督が聞いてあげられるような立場になってよかった。同性だというのも大きいと思う。男同士の「あんたたち何様?」って笑ってしまうような話もいいな。
まことさんと監督が一緒に野球場に行った帰り、まことさんがものすごくうれしそうだったから私は涙が出そうになった。バーベキューも叶えられてよかった。監督がいてまことさんはよかったなあ。マチ子さんがいて本当によかったなあ。監督もまことさんがいてよかったなあ。たくさんの人が関わっていてよかった。
「まことさんの気持ちによりそえていないのでは」
まことさんの顔が曇る時がある。口に出せない言葉が聞こえてくるようで胸が痛かった。桜の樹のこと家を出て施設に入居する話や作業場に通うのを勧められるのをまことさんは抵抗しない。「まことさんが自分の気持ちを言える雰囲気ではなかった」と監督は気付く。こうして欲しいという望みはあるけれど言えないことがあるんだろう。まことさんはいろいろ分かっていてわがままをいわないのを感じる。
年をとると人の世話にならないといけなくなる。私も独居老人になる予定なので他人事じゃない。人の世話にならずに生きていけるのが普通であり、すばらしいのだろうか。お互い様で助けあう社会が誰もが住みやすいのにと思う。
お風呂
まことさんはお風呂は1週間に1回でいいと主張し続けて、監督がとうとう「毎日着替えるべきと洗脳されているのか?」って言い出す。私は「おおげさだなあ」二人のやり取りを見ていたが、映画のラストでこの会話が重要だと知る。1回のお風呂がものすごく念入りだったのだ。「ああそうだったんだ。わかってなくてごめんなさい」って謝りたくなった。
何度も気付かされた。まことさんの行動には理由がありとても大切なのだ。常識とか普通とかなんだろうと考えた。それでも夏は毎日シャワー浴びた方がいいけどね。
私の亡くなった伯父も障害があったのでいろいろ大変だろうと想像した。やりきれないこともあるんじゃないだろうか。本作はそういうところを見せないのがいい。
まことさんは監督を義史さんと呼び、しだいに親しみが滲み出てくる。障害者の日常を撮った作品というよりも まことさんと義史さんのふたりの交流のドキュメンタリーだった。40歳を過ぎ、発達障害(ADHD)と診断された監督が前へ進んでいく力になる作品で、まことさんの力になると願いたい。
まことさんと義史さんの友情が続きますように。
映画『だってしょうがないじゃない』公式HP
坪田義史監督の最新作ドキュメンタリー映画『だってしょうがないじゃない』の公式HP。 11月2日よりポレポレ東中野で劇場公開、他全国順次公開予...
『だってしょうがないじゃない』公式HP