本と映画とわたしと

感想です。

映画『恋人たち』/暗い所からでも空は見える

2016-03-27 | 映画

できたら予備知識なしで観賞をお勧めしたい。

私はチラシをパッ見ただけのイメージで映画館に行った。最初はよくわからない。それが登場人物の気持ちがわかったと途端、「そうだったのか」と人を見る目が変わり一気に映画に入りこんでしまった。物語が現実と地続きになり感情を震わされて泣いた。

※【以下ネタばれあり】

「大丈夫?」とすれ違った女性から、私は声かけられたことが何度かある。死にたい気持ちがほんの少し浮きあがる。ほんの少しでずいぶん救われる。そうやってなんでもない人にちょっと助けられながら私はどうにか今日も生きた気がする。

この映画もどうにか生きている人たちの話だ。心に痛かった。やりきれない思いをどうにかおさえこんでいる人たちの感情が自分にめりこんできたからだ。

映画の恋人たちにくらべたら、私の人生なんてたいしたことは起こってないけれど、彼らの絶望がわかってしまって、悪気のない悪意がトゲトゲ刺さった。

他人の気持ちが想像できない人がなんでこんなに多いんだろう。家族や恋人、職場の同僚にはいい人でも自分の大切な人以外には薄情。その人がいつも悪人じゃないからやっかい。理不尽なことも起こる。こんな自分たちのことしか考えられない日本で生きていくのは大変だ。他人の気持ちなんてどうでもいいから、思いが通じないところか日本語も通じなくなってしまう。イヤになる。肝心なときには誰もいなくなるしね。「無理に助けてくれなんて言ってるんじゃない。気持ちをわかってほしい」だけなのに。

でもそんな人ばかりじゃないと、安心しほっとできたのは、主人公アツシの気持ちに触れてくる人がいたからだ。いつもひとりでうつむいている男(アツシ)に突然飴をあげて、「職場に暗い人がいるんだよと話したら、うちのお母さんが一緒にテレビ観たいって言っていた」なんて話し出す事務の女の子。仕事を休んだ同僚(アツシ)を心配してお弁当持って家を訪ねる先輩。思いつめている気持ちをほんの少しずらすやさしさってあるんだと思う。私もこんな少し相手の気持ちに触れられる人になりたい。私も助けられてきたもの。

なんでもない他人からほんの少し気持ちというものを受け取りあって、どうにか今日を生きて明日も生きるんだろうな。声を押し殺して泣いた。結局は自分ひとりで立つしかない。

「おいしいものを食べて笑っていられたらいい」若い頃無茶したせいで片腕を失った人がいう言葉だから深みがあった。「食べるしかない=生きるしかない」

映画のラストの陽光がまぶしかった。「どうにか頑張るよ」という気になれた。自分は暗いとこにいても空は見えるからね。

 

 


『マッドマックス 怒りのデス・ロード』/全場面クライマックス。

2016-03-14 | 映画

とにかくすごかった。文句のつけようがない。

今作は『マッドマックス』4作目である。私の旧作の記憶は「昔、メル・ギブソン主役の映画があったな~好みの映画ではなかったね」程度だ。1作目は1979年公開。3作目は1985年だからさすがにメル・ギブソンは難しかったのだろう。主役のマックスはトム・ハーディに代わった。

新作「マッドマックス」昨年の公開時には私の興味をひかなかった。しかし評価がすこぶる良いのを耳にし、どんどん観たくなった。遅ればせながら、映画館(2D版)で観賞した。
期待を裏切らない出来栄えだった。アクション映画は私の好きなのジャンルではないのに、これはいい。むちゃくちゃ狂っていて、「なんだこれは」と驚いているうちに話が進んでいき、全場面見どころという凄まじさだった。

【以下ネタばれあり】

水も石油も尽き果てた世界。どこまで行っても砂漠で、無法者がのさばる。家族を奪われたマックスは本能で生き残ろうとしているだけだった。資源を独占し民衆を支配するイモータン・ジョーに反逆し逃げる女戦士フィリオサ(シャーリーズ・セロン)たちにマックスは出会う。彼らは成り行きで手を結ぶ。逃げるマックスらを追いかける無法者集団。容赦ないカーバトル。爆走爆破爆音バイオレンス。絶望的な世界がリアルすぎる。狂いすぎている。まるで北斗の拳の世界。それもそのはず北斗の拳はマッドマックスを参考にしているそうだ。こんな暴力的な世界は恐ろしいばかりだから観るのも嫌になってしまいそうなところだが、女戦士フィリオサの説得力のある強さに希望を感じられひきこまれた。生き残れ。希望を捨てるな。

荒野を暴走し逃げるだけだからストーリーは単純。しかし浅い話ではない。最台詞は少なくてもそれぞれの人物の想いが伝わってきて、感情移入した。女戦士フィリオサは片腕がない。それを見るだけで大変な人生を歩んできたんだろうな、彼女の「ホーム(故郷)」への思いがせつなくてたまらなかった。ホームがあることの幸せや強さを考えて目頭が熱くなった。悪者のウォーボーイが無知で純粋なヤツだったしね(涙)最後らへんで泣きましたよ。

人生どうにもならないこともあるけど(マックスは助けると約束した家族を助けられなかった)諦めなければ変わるかもしれない(フィリオサは新しいホームを作るだろう。年配の女性が大切に持っていた種は受け継がれる)。
弱い立場でも最初から負けを認めるなと熱いメッセージを受け取った。闘争好きな男だけに世界を任していたらいけない。ひとりで悪ボスの妻を連れて逃走したフィリオサほどにはなれなくても 砂漠で軍団を作り生き残ってきた年配の女たちくらいにはなりたいわ。

シャーリーズ・セロンを讃えるし大絶賛もするけど、好みの映画ではない。私には刺激が強すぎた。かっこいいなんて少しも思わなかった。「とにかく生き残って」と祈る気持ちで観た。こんな映画のような世界にしたらいけない。

まじめに書いてしまったけど、まともな映像じゃありません。まともな車ないしまともな戦い方じゃないし変なのいっぱいでてきる。そのどれもがデザイン性がすばらしく目を見張った。とにかく狂っていた。ぜひ観てください。

映画館で観賞できてよかった。