お笑いコンビ「松本ハウス」のハウス加賀谷さんの病気について、相方のキック松本さんが聞きとり綴ったもの。私は彼らを知らないので、統合失調症を理解するためだけに本著を手に取った。薬を常用しながら社会で生きていく姿を読みたかった。この病気について私が実際知っているのは薬の副作用でぼんやりとしてしまうということだけ。私の伯父が統合失調症だったからだ。
精神病の場合、原因を育った環境に求める傾向が少なからずある気がする。私は特別なことで病気になってしまうのではないと思っている。本書は加賀谷さんの幼少時代からのことが語られている。読む人の心情によって理解が変わるとは思うが、私はかならずしも家庭環境のせいのみで病気になったのではないと感じた。加賀谷さんの家がよい環境だったとは言えないが私の家も似たようなものである。こんな家族はたくさんあるのではないだろうか。もちろん子どもの精神に与えた影響はあるだろう。問題のある家庭の子どもを放っておいていいというわけではなく、様子がおかしかったら大人の誰かが気付いてあげることが重要である。子どものころ加賀谷さんが苦しんできた理由がはやくわかれば違っていたかもしれない。
統合失調症の苦しさを私は想像すらできない。伯父の姿に私は特別な人なのではなく病気なのだと感じてきた。晩年強制入院となった。彼の人生はそれでよかったのだろうかと疑問が消えないでいる。薬を飲むとできなくなることがある。伯父は薬の副作用で1日中ぼんやりと何年も過ごし、我が家に戻れないまま病院で急死した。幸せだったのだろうか。周りが病気に理解があり、社会に受け入れ体制があれば違う人生の閉じ方があったのではないだろうか。だれかのせいという気はないが忘れられない。伯父を思い出すとき、私自身は周りに面倒をかけないから自由に生きられているという事実を感じる。面倒をかける人が嫌がられる社会をおかしいと思う。だから加賀さんが薬のせいで朝起きられず仕事に行けなくても周りの人々が理解しているのことに涙がでてきた。いまの日本の社会ではなかなかできない。
統合失調症という病気を扱っている本ではあるが、あえて重い本ではないと紹介したい。なぜなら相方キックさんをはじめ理解者に恵まれ、加賀谷さんは自分を生きているからだ。後半にかけて加賀谷さんと相方のキック松本さんの友情に泣きっぱなしだった。うらやましいほどの友情だ。
これからも理解者が増えていくことを願っている。