ジャンル ドキュメンタリー
製作国 日本
製作 2015年
上映時間 111分
監督 池谷薫
出演 中原一博(案内人)
中国政府の弾圧に対し、非暴力で抵抗するチベット人たちを支援している中原一博さんが、ひとりひとりの死の背景を追って、なぜ彼らが死ななければならなかったのか、チベットで今、起こっているのか伝えようとされているドキュメンタリー映画。
チベット人たちはなぜ焼身抗議を続けるのか。
非暴力、非服従。なぜチベット人たちを助けられないのか。考えさせられた。
※【以下映画の内容に触れる】
冒頭、火に体をつけて、歩いている人の映像に衝撃を受けた。人間が燃えているというだけではなく、それを見ている人が手を合わせ拝んでいるからだ。体が震えた。焼身抗議をする人たちは20代が多く、次に10代が多いという。この状況を前にして、私は「命を大切にしてほしい」とは言えない。称賛もできない。「どうしてこんなことに・・・」と思うばかりで言葉を見つけられない。
政治犯として捕えられ、ひどい拷問を受けたチベット人の話を聞く。私にはわからない。彼らがあまりに清々しい顔をして語るからだ。中国人を責めない。彼らが憎悪を中国政府に向けていたら、私も共に憎しみを抱いただろう。しかし彼らは、非暴力を貫き、服従しなかったことを誇りとし、むしろこんなことをひどいことをせずにいられなかった「中国人」を思いやる。私にはとてもわからないほどの広い心をチベット人は持っている。こんな心やさしい人たちがなぜ苦しめられなければならないのか。この映画を観て、武力により押さえつける中国政府に対し、やり場のない感情が沸き苦しくなった。怒りは持てない。なぜなら私が暴力的な気持ちを持ってしまったら、チベット人の心ををわかっていないことになるからだ。チベット仏教の「利他」や「慈悲」といった他者を思いやる心。「自分が受けた苦しみを他の人が受けることがないように」と願う心の強さに圧倒された。
「ルンタ」とは、チベット語で、「風の馬」。天を翔け、人々の願いを仏や神々のもとに届けると信じられている、チベットの人々のシンボル。
馬に乗る青年たちの生き生きとした目。子どもをかわいく撮ってもらおうとする母親。いいところだ。いい文化だ。大草原チベットは美しい。
エンドロールで、焼身抗議をした人たちの名前が流れてくる。ひとりひとりの想いを考えると胸が締め付けられる。彼らをなぜ助けられないのだろう。
チベット人が持つ「利他」「非暴力」の思想が全世界に広がれば、世界は平和になるはずだ。非暴力と非服従は尊い。素晴らしいと思う。それでも私自身のことを考えれば、抑止力を持つべきではないかと思ってしまう。ダライラマ14世がチベットにお戻りになり、チベットが自由を取り戻せたら、非暴力の力を信じられると思う。信じられるようになりたい。
まずは知ること、知ったことを伝えることで、少しでもチベット人の力になれたらと思う。この映画を多くの人に観てもらいたい。