本と映画とわたしと

感想です。

映画『リバー・ランズ・スルー・イット』/川釣りの美しさに癒やされる。弟役ブラット・ピットも芸術的。

2020-11-28 | 映画

原題 A River Runs Through It
製作 1992年
上映時間 124分
監督 ロバート・レッドフォード
脚本 リチャード・フリーデンバーグ
原案 ノーマン・マクリーン 「マクリーンの川」
出演 ブラッド・ピット、クレイグ・シエファー、トム・スケリット、ブレンダ・ブレッシン

私の評価 ★★★☆☆ 3.0点
お家観賞

アカデミー賞撮影賞。弟役ブラット・ピット有名にした作品。

モンタナの田舎を背景に家族の心の葛藤が静かに描かれている。兄弟は幼い頃より父に連れられ川釣りに行く。細い釣り糸が優雅に清涼な水流に投げ込まれ、キラキラと反射する様子は、息をのむほど美しい。若き日のブラット・ピッドも自然のまぶしさに負けないくらい輝いていた。

以下)ネタバレあり


淡々と流れていく日々。

二人の兄弟はフライフィッシングを厳格な牧師の父に教え込まれた。互いに対抗心を持ち、腹が立つこともあるが、仲がよかった。表だった不協和音はなく、よい家族だ。それでも弟のさみしげな表情、危うい行動を見過ごしたのだろうか。釣りに行けば生き生きとする弟を見て安心できたのに。兄弟の愛は変わらずとも大人になれば、それぞれを生きていくのが自然だ。地元を離れる兄と残る弟。もう少し兄が弟のもとに帰ってきていたら、違う未来があったろうと思いはするが、それぞれの人生があるのだからしかたない。

上手く大人になれる人となれない人がいる。

兄は弟を失う。悔やむ過去は誰にでもあるとはいえ、年若いものが逝ってしまう理由を考えずにはいられない。晩年、牧師の父は「他人が苦しんでいるのを見て助けたいが、その手をすり抜けてしまう。できるのは愛することだけ」と最後の説教をする。ずっと大事に思っていても助ける難しい。どうしたらよかったのか、答えはない。
画家のゴッホと弟テオが頭に浮かんだ。彼ら兄弟の父親も牧師だった。家族はやっかいなもの。家族だからやっかいでも努力するのだと思えた。

悠久の自然の中で、人はちっぽけで人生はひととき

兄の回想録「マクリーンの川」が原作。年老いた兄はひとりで川釣りをする。年をとればとるほど振り返る過去は、一瞬のように感じる。この映画を観て、いい意味で私もやがて美しい川の流れに消えていくだけだと感傷的になった。

ブラット・ピットの役のオーデションにリバー・フェニックスが参加していたという。彼が演じても雄大な自然に溶け込み美しかったろう。リバー・フェニックスのファンの私は、彼の姿がないことを残念に思う。

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リバー・ランズ・スルー・イット : 作品情報 - 映画.com

リバー・ランズ・スルー・イットの作品情報。上映スケジュール、映画レビュー、予告動画。「普通の人々」で監督としても高い評価を得た名優ロバート・...

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ロバート・レッドフォード監督第一作目『普通の人々』の感想を書きました。

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映画『普通の人々』/普通の人々普通の家族 - 本と映画とわたしと

原題OrdinaryPeopleジャンルドラマ製作国アメリカ製作1980年公開1980/9(アメリカ)1981/3(日本)上映時間124分監...

映画『普通の人々』/普通の人々普通の家族 - 本と映画とわたしと

 

 


映画『ボストンストロング ダメな僕だから英雄になれた』/『stronger(原題)』に敬意を表したい。

2020-11-09 | 映画

原題 stronger
監督 デヴィッド・ゴードン・グリーン
脚本 ジョン・ポローノ
原作 ジェフ・ボーマン、ブレット・ウィッター
製作 2017年
上映時間 120分 PG-12
出演 ジェイク・ギレンホール、タチアナ・マスラニー、ミランダ・リチャードソン、リチャード・レーン・ジュニア、ネイサン・リッチマン

概要 2013年ボストンマラソンを狙った爆破テロ事件の実話。パトリオットデイ(愛国者の日)にアメリカで催されたポストンマラソンを狙った爆破テロ事件を映画化。両脚を失った27歳の被害者ジェフ・ボーマンを描いた実話で、彼の回顧録を原作としている。

【以下ネタバレあり】

写真は映画と関係ありません

「ダメな僕だから英雄になれた」?

そんなに「ダメな僕」じゃないけど・・・。仕事でヘマをしたり、待ち合わせに来なかったりする。しっかりした大人じゃないから彼女が愛想尽かすのもわかる。でも被害に遭った彼の元へ家族は集結し、友だちや先輩とも仲がよく、会社(コストコ)にも大切にされている。頼りないけれど、いいヤツ。たくさんの仲間に囲まれた平凡な男だと思う。

いきなり両脚を失って、すぐに前向きに生きられるか。

自暴自棄になってもいいのに以前と変わらないように振る舞う。ユーモアで切り返せるだけで立派。人前に引っ張り出されて、強さの象徴されるのが負担になっている。この辺りの演技や演出に無理がなくてうまかった。悪い人たちではないのだけど親戚たちは騒がしく、対照的に孤立感を深める彼の心の傷に気付くのは元彼女のエリンだけ。素晴らしい彼女なのに、それだけではどうにもならなくなっていくところがリアルだった。全てを捨ててジェフに寄り添ってくれる彼女をひどく傷つけてしまう最悪な状況になってしまう。

強くなるきっかけは思わぬところからやってくる。

テロ事件で救助してくれた男性からの気の乗らないインタビューを受ける。男性は息子2人を戦死と自死で失い、鬱病やPTSDに悩む人たちのために活動しているのだと話を聞き、ジェフの表情が変わった。男性も被害者で深い傷を負っている。ジェフは自分の傷しか見えていなかったと気付いたのかもしれない。自分の痛みを誰かと共有することで、誰かを救えるし自分も救われると感じたのではないだろうか。

ジェフは再び英雄として人々の前に立つことになる。中盤アイスホッケーの試合で英雄に祭り上げられたときは戸惑ったような笑顔をしていたのに、ラストの始球式ではしっかりとした意志でその場にいて、楽しんでもいるようだった。ジェフの姿に勇気づけられたという若者に出会う。子供にやさしく接する顔が心からの笑顔だ。周りが変わったのではなく、彼が成長したのだ。

辛い状況になったとき、気持ちの持ちようだとよく言われる。自分ひとりで乗り越えるのは困難だから、助けを求めるように勧められる。しかし実際には誰が助けてくれるかはわかるものではない。ジェフは会いたくないと思っていた男性と話したのをきっかけとして立ち上がれた。母でも恋人でも救えなかったのに、不思議だなあ。人生捨てたものではないと感じた。ジェフはボストンストロングの象徴として人々に会い、人を変えていく存在にまで成長した。

弱い僕が、強く成長したことに拍手を送りたい。

義足で歩けるようになって彼女に許してもらいに行く。サボっていたリハビリにちゃんと通ったのだろう。義足がたくさんの人に支えられ、それに応えたことの象徴に見えた。強さを讃えているのでなく、共に生きることが人々を強くすると訴えているのだと感じた。他人同士が助け合う。支え合い強くなれる。ボストン市民の強さを感じ、観賞後ほっと安心できる作品だった。

原題『stronger』をこころにとどめたい。

『ボストンストロング』はハッピーエンドになっているが、このボストンのテロ爆破事件を捜査側から見た映画『パトリオットデイ』は不安を残すものとなっている。別の面もあることを忘れてはいけない。両方の映画を見て、テロに対して考えを深めることができた。

 

『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』

 

>『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』公式サイト

 

 


本『史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック』/コロナ禍の今だからわかること。

2020-11-04 | 


「手作りマスク」

100年前のパンデミック

1918年から1919年にかけて広がったインフルエンザの大流行はスパニッシュインフルエンザ(スペイン風邪)と呼ばれる。本書はアメリカから見たパンデミックの様子を描き、分析している。

スパニッシュインフルエンザの拡大は、第一次世界大戦のさなかであったため、すぐには公にされなかった。中立国であるスペインに上陸してようやく情報が発信され、その名が付いた。スペインが発生源ではないし、突出して被害が大きかったわけでもない。

コロナ禍の現在、本書を読むと100年前のパンデミックが遠い過去の災いとは思えない。ウィルスに対して、人間という生き物がこんなにも弱いものだったのだと思いしらされる。人とウィルスの戦いは終わっていなかったと知る。

未知のウィルス

インフルエンザウィルスによる感染症に弱いのは幼児や高齢者である。スパニッシュインフルエンザは驚くべきことに、健康で丈夫なはずの若者がもっとも多く命を落とした。未知のウィルスは、誰を狙うのかわからないのだから恐ろしい。新型コロナは不安を煽りすぎだったと批判する声もあるが、あのときは正体がわからなかったからあの対応でよかったんだと、読むとよく分かる。

空気感染のため一度に大勢が感染する。感染者を見つけ出し完全に隔離をするのは至難の業で、船内の中で感染者が出ればパンデミックになり、一番元気な患者が重病の患者を世話をする状況に陥る。治療どころか介護も受けられない、死亡率が低くても大混乱する。ベッドの確保もできないので患者の隔離は無理、兵士たちが換気の悪い、不衛生な状況に置かれ、感染後も劣悪な状況にあったため死に至ったともいえるが、免疫が過剰反応するサイトカインストームが若年成人の死亡率を高めたともいわれている。


「配布マスク」

100年前もマスクが論争になった。

アメリカ人がマスクをしたがらないのは100年前も同じで、自由を主張する運動が起こった。マスクするしないで自由を奪われると叫ぶのは大げさだなと思っていたけれど、私が考える以上にマスクをするのは厳しい条件のようだ。スパニッシュインフルエンザが流行りはじめたころ、アメリカ人もみんなマスクをした。因果関係はわからないが効果が出たように見えた。しかし不快だと気づき、次に流行り出した時はしなくなった。たしかに夏マスクを続けるのは私もストレスになった。日本ではみんな頑張ってマスクをしていた。同調圧力のためと言われるが、感染症対策になると信じている人が多いからだと思う。何をどこまですれば感染対策によいのか本当のところは分からない。それは今も100年前も同じだなあと思う。

何を優先するか

アメリカでは戦争を優先するため、スパニッシュインフルエンザを「みんなが罹り誰も死なない」病気として軽んじられたという。愛国心を盛り上げるため大々的にパレードなどをして大騒ぎをした。それが優先されるべき事だったとは思えないが、何を優先するかはとても難しい判断ではある。人の動きを止め病気を完全に押さえ込むか、他のことを優先するか。もっとも大切なのは正しく恐れることだといわれる。社会に恐怖が広がるとゼロリスクを求める風潮につながり危険だ。例えばコロナ警察はやりすぎ。冷静に見極めるのが重要だとわかるので本書をおすすめしたい。

「正しく恐れる」広報の力 

日本でマスクによる感染症予防が習慣化されたのはこのスパニッシュインフルエンザの頃からという。マスク着用を薦めるポスターには「マスクをかけぬ命知らず!」とうたわれていた。広報は今も昔も力を持っている。上手くバランスをとって新型コロナウィルスと共存できるように願っている。

 

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史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック 新装版 / アルフレッド・W.クロスビー/〔著〕 西村秀一/訳・解説 - オンライン書店 e-hon

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本『「死」とはなにか』シェリー・ケーガン/父の死後1か月で思う。死は悪いのか。

2020-11-02 | 
 
死ぬとどうなるのだろう。
 

50歳を前にして私は初めて身近な人を亡くした。「死」が突然やってきて、混乱し対処しきれなかったと悔いている。
ガンで余命6ヶ月と宣告された父が、急速に年老い弱って死を迎えるのを間近でみた。「死」を理解したい。死後1ヶ月経ち、本書を手に取った。

魂の存在。

哲学的に「死」をどう捉えるか。様々な説を分析し退け、著者シェリー・ケーガン先生は主張する。
「魂は存在せず、死ねば全て終わる」
死ねば「無」となる。この考えに同意しなくてもかまわない。自問することが重要だと語る。

死は悪いのか

シェリー先生によれば、将来起こるよいことを剥奪されるから、死は悪い。
おいしいものを食べる。気持ちよく眠れる。犬や猫に癒やされる。映画の封切りや来週のドラマを心待ちにする。お風呂で「ああ、生き返った」と手足を伸ばす。よいことを奪われるのは不当にちがいない。
病院で父は病床から出られない状態が続き、ついに痛みを取るだけとなった。父がダビングしたカセットテープを持参し昭和の歌謡曲を聴かせた。「別世界に行ったかのようだ」と消えるような声しかだせなくなった父の顔が穏やかに見えた。日々の些細な幸せは生きる力になると思う。
自殺に正当性があるかもしれないのは、末期の病気などで、改善する見込みのない苦しみに耐え続けるときのみ、シェリー先生は必ずしも生き続けるのがよいと結論づけない。

早すぎる死。自分でないものの死

だれもが死を迎える。多くの人にとって早すぎる死だろう。
私にも父の死は少し早すぎた。80歳までは生きてほしかった。病いで体が動かなくなる。頭が混乱し、はっきりしなくなる。「崩れ落ちるかのようだ」と父は嘆いた。こんなに早く死ぬとは思わなかったのだ。どうしたかったのだろうかと父の思いを想像すると胸が締め付けられる。亡くなる日、父が伝えようとした言葉を聞き取れなかった。それが最後の声だとわからなかった。早い死だった。

死はなにか、答えはない。

死を考えるのはきつい。考えずに生きられるほうが幸せかもしれない。しかし人の死を感じることが自分の死を受け入れる準備となる。やせ衰えていく父を前にして、無力さを思い知らされる私に「どんなに一生懸命(親を)みても後悔する」と母は教えた。それでも自分を責めた。
読んでいる間、後悔の念から逃げられた。死の本質に迫るというよりも哲学的な考え方や思考法を伝授されているようだったからだろう。哲学を勉強していない私にはためになった。本書のよさは答えがないところだ。

いつか死ぬ。生きているほうがよいと言えなくなる時が来る。

悲しみの感情にとらわれるよりも生きてこられたことの幸運に気付けるようにできたらと思う。どう生きたいかどう死にたいか。対話する。死に対する考え方はそれぞれにゆだねられる。他人が決めるものではないが1人で決められるものでもない。

 

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「死」とは何か? イェール大学で23年連続の人気講義 / シェリー・ケーガン/著 柴田裕之/訳 - オンライン書店 e-hon

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