原題 Midsommar(スウェーデン語)/夏至
ジャンル ドラマ、ホラー、スリラー
製作国 アメリカ、スウェーデン
製作年 2019
公開 2020/2/21(日本)
上映時間 174分
監督・脚本 アリ・アスター
撮影監督 パヴェラ・ポゴジェルスキ
プロダクションデザイン ヘンリック・スヴェンソン
編集 ルシアン・ジョンストン
衣装デザイン アンドレア・フレッシュ
音楽 ボビー・クルリック
言語 英語、スウェーデン語
レイティング R15+
出演 フローレンス・ビュー(ダニー)、ジャック・レイナー(クリスチャン)、ウィル・ポールター(マーク)、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー(ジョシュ)、ヴィルヘルム・ブロングレン(ペレ)、アーチ・マデグウイ(サイモン)、エローラ・トルキア(コニー)、ビョルン・アンドレセン(ダン)
あらすじ アメリカの大学生たちがに留学生に誘われ、故郷のコミュニティ(ホルガ村)で開催される90年に1度の祝祭に参加する。訪れた地では陽光があふれ、色とりどりの花が咲き、素朴で可憐な人々が手を繋いで踊っていた。楽園のように思えたがなにかおかしい・・・・・・。
私の評価 ★★★☆☆3.0点
お家観賞
パッケージはお花。クマのぬいぐるみに「わあかわいい」と和んでいたら、血に気付いてぎょっとするような映画だった。グロテスクが苦手な人は観ない方がいい。
観賞後しばらく気持ち悪さが抜けず、調子が悪くなったけれど、お花の衣装はとっても素敵だったので一見の価値あり。トラウマになる人がいそうなのでお勧めはしない。
※以下ネタばれあり)
ポスターがかわいい。衣装がかわいい。
緑の大地青い空、日の沈まない夜、白に刺繍の衣装、色とりどりの花の装飾。訪れてみたくなるほど魅力的なのになのに、気分が悪くなる。のどかな映像と不穏な空気のギャップは嫌いではないのだが、そこまで見せなくてもいいのにと思うほどのショッキングでグロテスクな場面に吐き気をもよおした。
メンタルが参っているダニーと恋人クリスチャン
物語の発端は冬のニューヨークで起きる悲劇。もともと不安定な主人公ダニーは家族全員を亡くし、恋人クリスチャンに依存し続ける。クリスチャンはメンタルの弱いダニーと別れたいのだけど言い出せない。つまるところ恋人との決別を描いている話なのだが、残酷極まりない別れ方だった。「まあ別れがひどいのはしかたないね」と思ったり、「風習だからねえ」と受け入れそうになり、自分の常識が揺らぐ。カルトに魅入られないように気をしっかり持って観てほしい。
人身御供でしあわせに
祝祭の序盤に72歳になると老人は崖から身を投げて命を絶つ儀式がある。老いて生きるよりも喜んで死を選ぶいう哲学をホルガの人々は持っているという。老人ホームに入れられるほうが不幸だという考えも一理ある。まず元の社会の常識を揺さぶられたのちに次々に不穏な事が起こるので、「こっちの世界はこれでいいのかも」と認めてしまいそうな危なさ。大学生らが行方不明になるのもまぶしい光に浄化され消えていったかのようで一種の神々しさがある。あらがえない運命のような気さえするのである。恐ろしい。
さようならクリスチャン
生贄待ちのクリスチャンがクマの毛皮を着せられてぬいぐるみみたいでちょっと可愛いと感じた。一方ダニーのクリスチャンが死んでいく最中、全身を花で囲われ泣きながらずるずると歩く姿も異様に美しかった。ふたりともすっかり囚われている。抵抗せずに飲み込まれていった様子に仕方なさを感じる。
ダニーは最後に笑う。依存先クリスチャンとの決別である。追い詰められた極限状態からの解放の笑いだろうか。ダニーは元の社会では得られなかった悲しみの「共有」をこの地で得たように見える。しかし依存先を変えたのに過ぎない。 コミュニティーの人々はダニーの泣き声に共鳴し一緒に泣いてくれる。観客として傍目からみれば何も解決していないとわかる。
共同体(コミュニティ)の怖さ
留学生のペレがひどい。子供の頃に洗脳され彼も被害者なのかもしれないけれど、連れてきた友だちは殺されているのに褒められてうれしそうである。このペレの様子で、ホルガに蠢く邪悪さに気づき慄く。ホルガの人々は人身御供を心底信じているのではなく、自分が生き残れるように立ち回っているのではないか。火炙りの生贄に志願した2人に神に身を捧げる高揚感はない。不安そうな顔が物語っている。誰も逃げられない。家族(共同体)の呪縛を感じ、心苦しくなった。
ハッピーエンドとして読む
ダニーがメイクイーン(五月の女王)に仕立てあげられたと考えると、生き残れないかもしれない。それでもこれでよかったんだと感じるのは、ずっと辛そうで、への字口のダニーが最後笑顔になったからである。ハッピーエンドなのだろう。ひとまずダニーは再生したのである。
ダニーが生贄に選んだクリスチャンはそんなに悪いことをしたとは思わないけど、まあいいか。ほんとう怖い映画である。
肉体も心も脆い。結局は悲しみも苦しみも個人で受け入れるしかないのだなあ。強く生きよう。
ダニーに幸あれ。
映画ではスウェーデンへの旅行になっているが、主にハンガリーで撮影の悪夢。