(ネタバレあり)
主人公の赤いおおかみは、小さな犬(ヨークシャテリア?)です。
おおかみに拾われ、おおかみとして育った犬の自伝で、生きる厳しさを描きながら、愛情に溢れた物語です。
犬の一生は人間に左右されてしまいます。人の一生も環境に左右されるところがあります。「幸せ」に生きるにはどうすればいいのでしょう。
小さな犬は愛情に恵まれ、幸せな一生でした。
小さな犬はあたたかな人の家に生まれ、馬車で運ばれる途中、あやまって、冷たい道に落ちてしまいます。人にかわいがられ過ごしていたのに、突然、おおかみの群れの中に置かれます。
おおかみのお母さんに拾われ、他の兄弟と一緒に大切に育てられますが、生きていくには、群れの中での戦いに勝つ必要がありました。小さな犬は自分は他の者と違い、体力が劣るとわかっていましたが、
知恵と強みを生かし、尊敬されるおおかみになります。
さらに、教わり続けることで、おおかみとして生きる力をつけました。小さな犬には置かれた場所で生き抜こうとする力があったのです。
おおかみとして生きるために他の動物を殺し、絶えず「生と死」の境目にいます。人の世界でも事故、戦争、様々な生死に関わる出来事が起こります。自分の意志とは関係なく残酷に変化する状況においても
生と死の間に愛があれば、強くなれるのではないでしょうか。
小さな犬はおおかみの群れの中で、生きることを愛するようになったのだと思います。 人間のことは忘れました。
ある日、愛するおおかみのお母さんは、人によって谷底に落ちます。小さな犬も撃たれます。瀕死の犬をオルガという少女が救い、生かされ、人と暮らすことになりました。もう二度とおおかみの中で生きることはないと悟ります。人のところに戻れてよかったとは言えません。とても悲しいことでした。
なぜまた引き裂かれてしまうのかと、運命を恨むことなく、オルガの愛情にこたえます。新しい生活を愛し、オルガを愛しました。
その場所で生きることを受け入れたのです。
それでも死後、おおかみの父のところへ飛び込むことをのぞみます。おおかみとして生きられなくてもおおかみなのです。死ぬとき、忘れ去ったはずの生まれたばかりの頃の記憶を思い出します。生きていた日々全てが、豊かな愛情に包まれていて、ひとつの命が経験した時間の尊さと深さを感じました。
生ききったからこそ、顧みる記憶はすばらしく輝くのかもしれません。
この絵本は、オルガが赤いおおかみから聞き取り、書きとめたお話という形になっていて、一頭の犬と、一人の人の信頼関係を感じます。 表紙の絵は、赤いおおかみが絶壁に立ち、遠くを見ています。読む前、ただの小さな犬だったのが、
強いおおかみに見えました。