ニッポン放送の飯田浩司アナウンサーの初著書
飯田アナのラジオをポットキャストで5年くらい聴いている。パーソナリティの飯田アナがコメンテーターを迎えてニュースを解説していく番組である。日替わりで様々な専門家が語る。大変勉強になって面白い。わたしのニュース情報の多くがここからになっている。
テレビと違って、ラジオは1人が話す時間が長い。議論を深めていく飯田アナの姿勢に共感する。飯田アナ本人が生まれていない時のこともまるで見てきたかのかのように語るので勉強ぶりに感心する。本書は普段飯田アナが語っている話なので知っていることも多いが、ラジオという媒体で奮闘する姿が浮かび上がり、思いが伝わってきた。
反対賛成の対立で見えなくなってしまうもの
ニュースに「分かりやすさ」を求め単純化したため見落とされるものがある。「どちらでもない」という苦悩を伝えるのもメディアの役目であると飯田アナは語る。沖縄を取材し見えたことを丁寧に紹介する。反対賛成の対立が激しくなっているようにメディアは伝えるが、「しかたない。早く決着して欲しい」という声も少なくないという。物事には様々な側面がある。現地の足を運び、人々の声を聴くことを大切にし、マスメディアの一員である自分が何を伝えられるか悩みながら真剣に取り組んでいる姿に好感を持つ。「結論ありき」でわかりやすい画像をとってきてはいないかと自分を含めて戒めてもいる。
不発弾だらけの沖縄
不発弾処理隊の取材では、自衛隊への見方を問う。沖縄では毎日のように部隊が出動するという。
「毎年こんな感じ。なれすぎてこわい。自衛隊には頭が下がる。戦後69年、不発弾はあと70年ないとなくならないと聴く。自衛隊は命を張っていてすごい。頭が下がる・・・・・・。たのもしい」(本書P49)
様々な立場で思うことが違うだろう。
広島に住む私は不発弾処理は「ほとんど見ない」。東京で「たまに報道で見る」というのですら驚く。さらに沖縄は1日2回くらい出動しているという。
知らなかったことがもうしわけない。沖縄に大きな負担を強いていると感じた。自衛隊のことも沖縄のことも知らないことが私には多い。
今状況を受け入れ自衛隊は必要だという人もいる。自衛隊=戦争、武力と捉え、軍隊は必要ないという人もいる。戦争を二度と起こしてはいけない。平和に暮らしたいという思いは同じなのに対立してしまうのはなぜだろうか。
私は外で政治の話をしない。
ワイドショーと同じ考えでないと話しにくい。どちらの味方でもない立場に立ちたくても無理だ。それくらいテレビの影響は大きい。
マスメディアは権力の監視機関であるとしても、反対すればすべてが「正義」かのような振る舞いに、私はうんざりしている。
さらにTwitterを見ていて感じるのだが、いわゆる保守リベラル、右左の人たちが様々な問題に、それぞれ意見が揃い、きれいに対立するのが不思議でならない。保守がオリンピック反対してもいいし、左が賛成してもいいのにと感じる。
「~そう思う」という発言を聞き流しすようになった。できるだけ一次ソースにあたる。タイトルと内容が合っていないこともあるので、ちゃんと読む。
悲しいのは「正義」という名で誰かを傷つけることだ。非難しかしないことだ。思いやりのある世界に向かうように願い、前向きに未来を捉えたものを私は探す。本書はそんな私の気持ちに沿ってくれる本だった。
一緒に希望を見いだしましょう
飯田アナがその日のニュースを解説するポッドキャストオリジナル番組「飯田浩司のThe Daily News」が昨年4月からはじまった。毎回、冒頭の「一緒に希望を見いだしましょう」の言葉が堅いなあと思っていたけれど、コロナ禍で徐々に暗く苦しくなっていく中で、今では勇気づけられる言葉となっている。
飯田アナを応援しています
月曜から金曜日まで朝の番組(6時~8時)「飯田浩二のOK!Cozy up!」を受け持ち、現場取材へも積極的に出ていて、よく時間があるものだと、今まで私は感心していた。
「おわりに」の章で、様々な人から理解を得て、なによりも家族の協力があって、仕事に邁進している姿を想像した。感動する本ではないのだけれど目頭が熱くなった。
この間の放送で、「夕方用事があったから学期末の小学生の息子の迎えを妻に行ってもらった。朝顔の鉢を持って帰らなくてはいけなくて「難渋したわよ」って怒られた」って話していたのを思い出した。素敵な家族だなあ。
本書では登場してないが、朝の番組を一緒にやっている新行市佳アナもとてもいい子で先輩の飯田アナをそっとフォローしたり、ニッポン放送はいい会社だと思う。
新潮新書
2020年1月出版
760円(税別)