本と映画とわたしと

感想です。

絵本『赤いおおかみ』/犬版「置かれた場所で咲きなさい」

2019-08-20 | 絵本

(ネタバレあり)

主人公の赤いおおかみは、小さな犬(ヨークシャテリア?)です。

おおかみに拾われ、おおかみとして育った犬の自伝で、生きる厳しさを描きながら、愛情に溢れた物語です。

犬の一生は人間に左右されてしまいます。人の一生も環境に左右されるところがあります。「幸せ」に生きるにはどうすればいいのでしょう。

小さな犬は愛情に恵まれ、幸せな一生でした。

小さな犬はあたたかな人の家に生まれ、馬車で運ばれる途中、あやまって、冷たい道に落ちてしまいます。人にかわいがられ過ごしていたのに、突然、おおかみの群れの中に置かれます。

おおかみのお母さんに拾われ、他の兄弟と一緒に大切に育てられますが、生きていくには、群れの中での戦いに勝つ必要がありました。小さな犬は自分は他の者と違い、体力が劣るとわかっていましたが、

 知恵と強みを生かし、尊敬されるおおかみになります。

さらに、教わり続けることで、おおかみとして生きる力をつけました。小さな犬には置かれた場所で生き抜こうとする力があったのです。

おおかみとして生きるために他の動物を殺し、絶えず「生と死」の境目にいます。人の世界でも事故、戦争、様々な生死に関わる出来事が起こります。自分の意志とは関係なく残酷に変化する状況においても

生と死の間に愛があれば、強くなれるのではないでしょうか。

小さな犬はおおかみの群れの中で、生きることを愛するようになったのだと思います。 人間のことは忘れました。

ある日、愛するおおかみのお母さんは、人によって谷底に落ちます。小さな犬も撃たれます。瀕死の犬をオルガという少女が救い、生かされ、人と暮らすことになりました。もう二度とおおかみの中で生きることはないと悟ります。人のところに戻れてよかったとは言えません。とても悲しいことでした。

なぜまた引き裂かれてしまうのかと、運命を恨むことなく、オルガの愛情にこたえます。新しい生活を愛し、オルガを愛しました。

 その場所で生きることを受け入れたのです。

それでも死後、おおかみの父のところへ飛び込むことをのぞみます。おおかみとして生きられなくてもおおかみなのです。死ぬとき、忘れ去ったはずの生まれたばかりの頃の記憶を思い出します。生きていた日々全てが、豊かな愛情に包まれていて、ひとつの命が経験した時間の尊さと深さを感じました。

 生ききったからこそ顧みる記憶はすばらしく輝くのかもしれません。

この絵本は、オルガが赤いおおかみから聞き取り、書きとめたお話という形になっていて、一頭の犬と、一人の人の信頼関係を感じます。 表紙の絵は、赤いおおかみが絶壁に立ち、遠くを見ています。読む前、ただの小さな犬だったのが、

強いおおかみに見えました。

 

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赤いおおかみ / フリードリッヒ カール ヴェヒター/作 小沢俊夫/訳 - オンライン書店 e-hon

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絵本「おはなをあげる」/道端の花に気付いていますか?

2019-07-26 | 絵本



(ネタバレあり)

モノクロで描かれた世界に赤い服の女の子が登場します。

文字はありません。女の子は道端の花を見つけては摘んでいきます。その花を誰かにあげるたびにモノクロの世界が少しずつ色づいていきます。世界が生き生きとしてきます。

女の子はそっとみんなに花を配り、ありがとうとお礼も言われず、気づかれもしません。

私も子どもの頃、野花を摘んでそっとだれかにあげたり、供えたりしていました。自分ひとりだけの世界があり、とても大切にしていました。すっかり忘れていた子どもの私に再会したような気持ちになりました。

死んだ鳥を見つけ、花を手向けます。

道で息絶えている鳥を女の子は見過ごせなかったのです。ベンチで寝ている人、散歩中の犬、一緒にいたお父さんが通り過ごすものを女の子は花で飾っていきます。お母さん、兄弟そして自分にも花を飾ります。

鳥の死からはじまり女の子自身に至る経緯に世界の繋がりを感じました。

現代社会では忙しい人が多く、さらにスマホを見ている人が増えたので道端の草花に気付く人はあまりいないでしょう。人も見ていないかもしれません。私もそうなりがちです。それでも日々の生活にに追われる中、時々空を見上げれば世界に色が付きました。私はまだ大丈夫だとほっとします。

父さんお母さんが気づいてくれますように。たとえ気づいてもらえなくても大丈夫です。

女の子には色づいた世界が見えているから。 

原題は『SidewalkFlowes』花を中心に絵本を読めば、女の子目線の『おはなをあげる』とは少し違った世界も見えてきます。


絵本「あかいハリネズミ」/あなたを抱きしめてくれるのが友だち

2019-07-22 | 絵本

 

(ネタバレあり)

ハリネズミがあかくなったわけに泣きました。

かわいらしい絵でやさしく厳しい現実を描いている絵本です。

コハリネズミはお母さんと二人暮らしをしていましたが、お母さんが病気になります。「友だちを見つければひとりではなくなるわ」とお母さんはコハリネズミに教えます。抱きしめてくれるひとが友だちだと伝えて、息を引き取りました。

コハリネズミはたくさんのひとに冷たくされながら友だちを探し続けます。そしてようやく抱きしめてくれるひとが現れます。それなのに、抱きしめてくれたネズミのおじいさんは死んでしまいます。おじいさんが抱きしめるとハリネズミのトゲが体に刺さりました。痛くても抱きしめ続けて血を流して息絶えてしまうのです。

おじいさんの思いに、私は胸が締め付けられるようでした。

ネズミのおじいさんは年老いて友だちはいません。ひとりぼっちだったから、ひとりぼっちのコハリネズミを全身で受け止めずにはいられなかったのだと思います。友だちを抱きしめて死ねたのは幸せだったのかもしれません。

誰かを思いきり愛するにはとても大きな力がいります。おじいさんは残りのすべての力でコハリネズミを抱きしめたのだと感じました。

おじいさんの血で、コハリネズミの体は赤く染まってしまいます。

コハリネズミは泣きに泣きました。生きるには痛みを伴います。生きていくためには痛みを強さに変えるしかないのかもしれません。コハリネズミはあかいハリネズミになりました。もう小さな子どもではいられないのです。

あかいハリネズミは笑顔で友だちにさよならをしました。

あかいハリネズミの住む世界では私はとても生きづらいと感じました。友だちの血であかくならずにすむようなやさしい世界を望みたいです。そして

やわらかく抱きしめ合う友だち関係がよいのだと思います。

胸に痛みの残るおはなしでした。

 

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あかいハリネズミ / ジェイドナビ・ジン/文・絵 深川明日美/訳 - オンライン書店 e-hon

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絵本『キツネと星』/友だちは必要だろうか。

2019-07-16 | 絵本

(ネタバレあり)

心に友だちがいれば強くなれると、感じる絵本でした。
 
 
夜空を見上げ、ひときわ輝くひとつの星を見つけたとき、その星が歩いている自分の後をついてきているみたいに思ったことはないでしょうか。それはまるで私を見守ってくれているかのようです。
 
 
この絵本の主人公であるキツネは森の奥に一匹で住んでいます。見上げる空にある星ひとつをたったひとりの友だちだと思います。ある日、星がいなくなってしまい、キツネは元気をなくして、閉じこもってしまいました。
 
 
友だちはいない。
 
 
自分がこの世界にひとりぽっちだと感じ、とても苦しく何もしたくなくなります。再び動き出すにはどうすればいいのでしょう。キツネが動き出せたのは周りからの刺激と、自分の欲求でした。 キツネは大きな声を出して、星を探し続けます。探し続ければ見つけられる。探さなければ決して見つかりません。
 
 
「みあげてごらん」キツネは気付きました。
 
 
その言葉に導かれてキツネが空を仰げば、無数の星が輝いています。たくさんの星の中に友だちの星もいると、キツネは感じとりました。 
生きているものはだれでもひとりであり、またひとりではないのだと思います。周りにはたくさんの生が存在し自らもそのひとつだからです。
キツネはひとり、森に帰って行きますが、体中に星が光っていました。 孤独を経験し考え感じたことで、見えなかったたくさんの星が見えるようになったのだと思います。
 
 
 プレゼントによい本です。
 
 
抑えた色で描かれ、デザイン性が高く、落ち着いた美しさのある絵本です。うっそうとした森の様子やたくさんの生き物たちの息づかいが感じられます。
虫がものすごく嫌いな人はダメかもしれません。リアルには描かれていませんが、コガネ虫がうごめいているのが上手に表現されているからです。
 
 
「大丈夫だよ」と伝えたい人に贈りたいです。
 
 
私の一番の友だちは死んだ愛犬です。人によっては猫だったり子どもの頃の友だちだったり大好きだったおばあちゃんだったりするかもしれません。そばにいなくても空に星がこんなにたくさんあるのだから、その中に友だちの星もきっといます。