本と映画とわたしと

感想です。

絵本「おはなをあげる」/道端の花に気付いていますか?

2019-07-26 | 絵本



(ネタバレあり)

モノクロで描かれた世界に赤い服の女の子が登場します。

文字はありません。女の子は道端の花を見つけては摘んでいきます。その花を誰かにあげるたびにモノクロの世界が少しずつ色づいていきます。世界が生き生きとしてきます。

女の子はそっとみんなに花を配り、ありがとうとお礼も言われず、気づかれもしません。

私も子どもの頃、野花を摘んでそっとだれかにあげたり、供えたりしていました。自分ひとりだけの世界があり、とても大切にしていました。すっかり忘れていた子どもの私に再会したような気持ちになりました。

死んだ鳥を見つけ、花を手向けます。

道で息絶えている鳥を女の子は見過ごせなかったのです。ベンチで寝ている人、散歩中の犬、一緒にいたお父さんが通り過ごすものを女の子は花で飾っていきます。お母さん、兄弟そして自分にも花を飾ります。

鳥の死からはじまり女の子自身に至る経緯に世界の繋がりを感じました。

現代社会では忙しい人が多く、さらにスマホを見ている人が増えたので道端の草花に気付く人はあまりいないでしょう。人も見ていないかもしれません。私もそうなりがちです。それでも日々の生活にに追われる中、時々空を見上げれば世界に色が付きました。私はまだ大丈夫だとほっとします。

父さんお母さんが気づいてくれますように。たとえ気づいてもらえなくても大丈夫です。

女の子には色づいた世界が見えているから。 

原題は『SidewalkFlowes』花を中心に絵本を読めば、女の子目線の『おはなをあげる』とは少し違った世界も見えてきます。


絵本「あかいハリネズミ」/あなたを抱きしめてくれるのが友だち

2019-07-22 | 絵本

 

(ネタバレあり)

ハリネズミがあかくなったわけに泣きました。

かわいらしい絵でやさしく厳しい現実を描いている絵本です。

コハリネズミはお母さんと二人暮らしをしていましたが、お母さんが病気になります。「友だちを見つければひとりではなくなるわ」とお母さんはコハリネズミに教えます。抱きしめてくれるひとが友だちだと伝えて、息を引き取りました。

コハリネズミはたくさんのひとに冷たくされながら友だちを探し続けます。そしてようやく抱きしめてくれるひとが現れます。それなのに、抱きしめてくれたネズミのおじいさんは死んでしまいます。おじいさんが抱きしめるとハリネズミのトゲが体に刺さりました。痛くても抱きしめ続けて血を流して息絶えてしまうのです。

おじいさんの思いに、私は胸が締め付けられるようでした。

ネズミのおじいさんは年老いて友だちはいません。ひとりぼっちだったから、ひとりぼっちのコハリネズミを全身で受け止めずにはいられなかったのだと思います。友だちを抱きしめて死ねたのは幸せだったのかもしれません。

誰かを思いきり愛するにはとても大きな力がいります。おじいさんは残りのすべての力でコハリネズミを抱きしめたのだと感じました。

おじいさんの血で、コハリネズミの体は赤く染まってしまいます。

コハリネズミは泣きに泣きました。生きるには痛みを伴います。生きていくためには痛みを強さに変えるしかないのかもしれません。コハリネズミはあかいハリネズミになりました。もう小さな子どもではいられないのです。

あかいハリネズミは笑顔で友だちにさよならをしました。

あかいハリネズミの住む世界では私はとても生きづらいと感じました。友だちの血であかくならずにすむようなやさしい世界を望みたいです。そして

やわらかく抱きしめ合う友だち関係がよいのだと思います。

胸に痛みの残るおはなしでした。

 

OGPイメージ

あかいハリネズミ / ジェイドナビ・ジン/文・絵 深川明日美/訳 - オンライン書店 e-hon

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絵本『キツネと星』/友だちは必要だろうか。

2019-07-16 | 絵本

(ネタバレあり)

心に友だちがいれば強くなれると、感じる絵本でした。
 
 
夜空を見上げ、ひときわ輝くひとつの星を見つけたとき、その星が歩いている自分の後をついてきているみたいに思ったことはないでしょうか。それはまるで私を見守ってくれているかのようです。
 
 
この絵本の主人公であるキツネは森の奥に一匹で住んでいます。見上げる空にある星ひとつをたったひとりの友だちだと思います。ある日、星がいなくなってしまい、キツネは元気をなくして、閉じこもってしまいました。
 
 
友だちはいない。
 
 
自分がこの世界にひとりぽっちだと感じ、とても苦しく何もしたくなくなります。再び動き出すにはどうすればいいのでしょう。キツネが動き出せたのは周りからの刺激と、自分の欲求でした。 キツネは大きな声を出して、星を探し続けます。探し続ければ見つけられる。探さなければ決して見つかりません。
 
 
「みあげてごらん」キツネは気付きました。
 
 
その言葉に導かれてキツネが空を仰げば、無数の星が輝いています。たくさんの星の中に友だちの星もいると、キツネは感じとりました。 
生きているものはだれでもひとりであり、またひとりではないのだと思います。周りにはたくさんの生が存在し自らもそのひとつだからです。
キツネはひとり、森に帰って行きますが、体中に星が光っていました。 孤独を経験し考え感じたことで、見えなかったたくさんの星が見えるようになったのだと思います。
 
 
 プレゼントによい本です。
 
 
抑えた色で描かれ、デザイン性が高く、落ち着いた美しさのある絵本です。うっそうとした森の様子やたくさんの生き物たちの息づかいが感じられます。
虫がものすごく嫌いな人はダメかもしれません。リアルには描かれていませんが、コガネ虫がうごめいているのが上手に表現されているからです。
 
 
「大丈夫だよ」と伝えたい人に贈りたいです。
 
 
私の一番の友だちは死んだ愛犬です。人によっては猫だったり子どもの頃の友だちだったり大好きだったおばあちゃんだったりするかもしれません。そばにいなくても空に星がこんなにたくさんあるのだから、その中に友だちの星もきっといます。