長島 潤 Sing a mindscape

jun nagashima singer-songwriter

有島武郎「小さき者へ・生まれいずる悩み」

2021-08-29 14:26:00 | 

再読のための覚え書き


小さき者へ・生まれいずる悩み

有島武郎(1878-1923


《小さき者へ》

妻の死後、残された三人の子どもたちに宛てた武郎の思い。


《生まれいずる悩み》

「君」は、自分の描いた油絵や水彩画を持ち込んで、「私」に見てもらいたいと言い出した。


漁師としての生活を取るか、画家としての芸術と夢を取るか。「君」の煩悶に、「私」は心を寄せてゆく。


「君」のモデルとなったのは、北海道の自然を描き続けた画家、木田金次郎。スケッチを携えて有島を訪問し、交友が生まれるが、漁師としての道を取る。しかし、有島の自死以後、漁業を離れ、ついに画業に専念することになる。



2021.8.29読了


小さき者へ・生まれいずる悩み

岩波文庫

昭和15326日初版発行

昭和456136



# #読書 #文学 #文庫 #有島武郎 #小さき者へ・生まれいずる悩み






アンドレ・ジッド「未完の告白」

2021-08-28 10:40:00 | 

再読のための覚え書き


未完の告白

アンドレ・ジッド(1869-1951

新庄嘉章訳


先日読んだジッド作の《女の学校》は、母の「日記」。《ロベール》は、それに対する父の「言い訳」。


そして、本作《未完の告白》は、彼らの17歳の娘ジュヌヴィエーヴの「告白」。ジッドが未完のまま脱稿したので、「未完の告白」である。


母は、理想とする女性の生き方が「願い」であったが、娘はそれを「獲得」しようとする。


「私が欲してるのは……つまり、女でなければ占められない位置を、私捜し求めてるの」


少女の先鋭的な思考と揺らぐ情緒の不安定さに戸惑いつつも、美しい余韻を残すのは、未完ゆえだろうか。



2021.8.27読了


未完の告白

新潮文庫

昭和27810日初版発行

昭和453529



# #読書 #文学 #文庫 #ジッド #未完の告白






島木健作「生活の探求」

2021-08-24 10:49:00 | 

再読のための覚え書き


生活の探求

島木健作(1903-1945


病後の保養のために、学問を捨てる決心をして郷里に帰った駿介は、農業という以前の出身階級に戻る。


老父を手伝いながら農業にのめり込み、関わる人々との葛藤の中で、田舎の制度の改革に関心を寄せてゆく。


「――生活してゐる、と自ら感じ得る生活がまづ必要であり、その結果ならば、それがたとひ何であらうとそこからまた道は拓けよう、とさう思つてゐるのです」


・・・・・・・・・・・・


駿介と、郷里の先輩志村との、インテリゲンチャを捨てて「帰農」することについての議論がおもしろかった。


昭和初期の大ベストセラーなのに復刊もされていないのは、作者に、社会主義思想からの「転向文学」のレッテルが貼られたことと関係があるのだろうか。



2021.8.23読了


生活の探求

新潮文庫

昭和251120日初版発行

昭和40113025

旧仮名遣い


# #読書 #文学 #文庫 #島木健作 #生活の探求






島木健作「赤蛙」

2021-08-18 09:05:00 | 

再読のための覚え書き


赤蛙

島木健作(1903-1945


《赤蛙》

衰弱した体で修禅寺の宿に逗留した「私」は、川の向こう岸に渡ろうとする一匹の赤蛙を見つける。


赤蛙は、強い水の流れに没しながら、一生懸命に泳いでいく。「私」はそこに、表情や、心理や、明確な目的意識さえ見出すのであった。


《野の少女》

北国の海辺の町で育った玉枝は、上京してお屋敷の女中になる。郷里との習慣の違いに戸惑いつつも、やがて地の強さを発揮して、都会の激しい生活の流れの中に、身を投げ込んでいく。


6


・・・・・・・・・・・・


どの短編も、特に起承転結があるわけでもなく、淡々としているのだが、作者の目は静かに深く、人間の根の部分に迫ってゆく。



2021.8.17読了


新潮文庫

昭和24331日初版発行

昭和4683032



# #読書 #文学 #文庫 #島木健作 #赤蛙






レフ・トルストイ「結婚の幸福」

2021-08-13 07:04:00 | 

再読のための覚え書き


結婚の幸福

レフ・トルストイ(1828-1910

米川正夫訳


マーシャは、年の離れた旧知のセルゲイと愛し合い、結婚する。


田舎育ちのマーシャにとって、結婚後に知った社交界の華やかさは、夫の望む質実で静かな暮らしを退屈なものに思わせるのだった。


・・・・・・・・・・・・


トルストイ自身の過去の苦い恋愛に基づいているようだが、マーシャに対するセルゲイの教育的態度は、多分に自省の念で書かれたようにも思う。


その分、マーシャが非常に魅力的な女性として描かれていて、それが救いだったかな。



2021.8.12読了


結婚の幸福

岩波文庫

昭和3812日初版発行

昭和232526


# #読書 #文学 #文庫 #トルストイ #結婚の幸福