長島 潤 Sing a mindscape

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室生犀星「或る少女の死まで」

2022-03-31 08:34:00 | 

再読のための覚え書き


或る少女の死まで

室生犀星(1889-1962 


「幼年時代」「性に目覚める頃」「或る少女の死まで」の三連作から成る、室生犀星の自伝的小説。


私生児として生まれ、親の顔も知らずにすぐに養子に出された経験が、犀星を文学の道に進ませたのだという。


犀星の孤独と悲哀は、人の心の美しさに涙する感性を育てたようだ。


「一人の喜びは決して一人のみに限られたものではない。それは、みんな人間が知覚しないあいだに、人間と人間とが静かに分け与えられているものにちがいない。心や神経の外に、別な、人間同志さえ知ることのできない微妙な霊的なるものが、ひそかに囁き合っているのにちがいない。」



2022.3.30読了


或る少女の死まで

岩波文庫

1952125日初版発行

198072034


# #読書 #文学 #文庫 #室生犀星 #或る少女の死まで






室生犀星「犀星王朝小品集」

2022-03-29 09:17:00 | 

再読のための覚え書き


犀星王朝小品集 

室生犀星(1889-1962


《津の国人》

伊勢物語の中の「梓弓」を基にして書かれた短編小説。


平安時代、困窮した生活を送る夫婦がいた。


夫は念願の宮仕えが決まり、都に行くことになった。妻の筒井は、1年後に夫が迎えに来るのを、田舎で働きながら待つ決心だ。


筒井が働くのは、ある役人の家だったが、間もなくその家の青年に結婚を申し込まれる。


月日は流れるが、夫からの便りは来ず、迎えにも来てくれない。青年の申し出を保留して、既に3年が経とうとしていた……


・・・・・・・・・・・・


平安王朝時代の女性たちを描くものの、史実に反し、時代考証が雑なことで知られる犀星の王朝小品集。しかし、だからこそ描けた女性たちの生き方が、より純粋な美しさを伴って、現代の我々の心を揺さぶるのかもしれない。



2022.3.28読了


犀星王朝小品集

岩波文庫

1984316日初版発行

19859202


# #読書 #文学 #文庫 #室生犀星 #犀星王朝小品








壺井栄「岸うつ波」

2022-03-28 08:29:00 | 

再読のための覚え書き


岸うつ波

壺井栄(1899-1967


戦争未亡人のなぎさは、再婚した夫と1年暮らした東京から、郷里の小豆島へと帰ってゆく。


夫は名の知れた作家で、三人の連れ子がいたが、家の中になぎさの居場所はなかったのだ。


小豆島では、かつて嫁ぎ先で苦労を重ねた老母が、独りで暮らしていた。


なぎさの目には古い女として映っていたはずの母の中に、今は新しさを発見するのだった。


「なにをくよくよすることがある。意地でも泣いたりしとれるかい。突きとばされて転いだら、ついでにひとりで起きあがって歩くとこを見せてやらにゃいかん。生きるというのはそんなもんやで。」


・・・・・・・・・・・・


壺井栄の妹がプロレタリア作家の徳永直のもとに嫁ぎ、2ヶ月で離縁されたことへの憤りを持って書かれた小説だが、それはともかく、封建社会の中で痛めつけられながらも自分の人生を見つけようとする女性たちの喜怒哀楽が読み手にひしひしと伝わる作品だった。



2022.3.27読了


岸うつ波

新潮文庫

昭和31730日初版発行

昭和3411307


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壺井栄「風」

2022-03-26 08:51:00 | 

再読のための覚え書き


壺井栄(1899-1967


小豆島の貧しい家庭に育った茂緒は、同郷の詩人で東京に住む修造に会いに行った。東京見物の小旅行のはずが、そのまま居ついて結婚してしまう。


茂緒と修造の周りには、詩人や作家たちが集まり、貧しくも自由な暮らしをしているが、左翼活動への弾圧が増し、言論を武器とする修造や仲間たちは投獄されてゆく。


壺井栄の自伝的小説。


「ゆく手をみつめてだけいればよいとき、人間はうしろをふりかえらないものらしい。足音の乱れが気になりだすと、立ちどまったり、うずくまったり、あともどりさえするようだ。」



2022.3.25読了


新潮文庫

昭和32420日初版発行



# #読書 #文学 #文庫 #壺井栄 #






水上勉「海の牙」

2022-03-25 09:11:00 | 

再読のための覚え書き


海の牙

水上勉(1919-2004


熊本県水潟市の漁村で相次ぐ奇病。化学工場が吐き出す汚水が原因らしく、水銀を含んだ魚を食べた動物や人間が苦しみながら死んでゆく。


その「水潟病」の調査に来た東京の保険医が、他殺死体として発見され、知らせを受けて東京から来た妻も行方不明となる。


地元の警察医の木田は、「水潟病」の患者の治療をしながら、勢良警部補とともに事件の真相を探ってゆく。


「そうだ、この海……この暗い海の底から、目に見えない何ものかが牙をむいて迫っている」


・・・・・・・・・・・・


水上勉が松本清張の「点と線」に触発されて書いたという社会派推理小説だが、水俣病の告発として作者の怒りが随所に垣間見える。



2022.3.24読了


海の牙

角川文庫

昭和33910日初版発行



# #読書 #文学 #文庫 #水上勉 #海の牙