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合併症と医療事故の境界

2016-04-29 01:31:50 | 手術による合併症


手術を受ける患者さん、そしてご家族の皆さんにとっては、手術によって治ることができるならこれほど嬉しいことはないと感じるとともに、それはそれで「怖い、大丈夫なの?」と不安を感じるのも当然です。
そして、昨今の医療をとりまく環境のなかでは、医療事故という用語が大きく闊歩していることによる課題・トラブルも大きくなっているのも事実です。
ここに取り上げました文献は、残念ながらgoogle検索でもダウンロードすることはできません。専門誌を購入するか、文献検索サイトから購入することで得られる範疇の文献になります。
医療従事者(脊椎外科医)の立場からの記述となりますが、手術を受ける立場の患者さんにもぜひとも学んでいただくことで無用の誤解やトラブルを予防することになると考え、ここに取り上げてみました。

⇒矢印はaugust03のコメントを示します。 ・点以下の記載は文献からの抜粋を示します。

同文献よりの抜粋:
・医療の現場ではともすると医療事故と合併症を混同してしまう場面を経験する。整形外科で行う検査・治療に際しても一定の確率で合併症が生じることがある。

⇒患者さんにとっては「合併症って何 ?」というところから始まると思います。実はこの内容というのは、医療従事者(医師、看護師等)の方々も、ときに誤解されていることが多々あります。あるいは同じ事象でありながら、あるケースでは合併症として判断され、あるケースでは行為であれば医療事故として、あるいは医薬品や医療機器であれば不良品・不具合品という判断がされる場合もあります。状況や、見る人の立場、そのインシデントに係る事前説明の有無によっても、判断が分かれることがあるために非常に厄介な内容ということになります。

・例えば,人工膝関節全置換術の術後は麻痺がなかったのに,手術当日の夜,腓骨頭部近辺を圧迫しないように注意して患肢を保持していたにもかかわらず腓骨神経麻痺が生じた症例を考えてみる.圧迫による腓骨神経麻痺や橈骨神経麻痺は1~2時間の短時間でも生じることは整形外科医の常識である。例えば図書館でうたた寝をした後に橈骨神経麻痺が生じたり,飛行機で脚を組んで少し寝ただけで腓骨神経麻痺を生じた症例は日常の外来で散見される.下肢の手術後には腓骨神経麻痺は避けなければならない合併症で,最大限の注意を払って下肢の位置や方向を調節するように看護師を訓練しているのが一般的であろう.しかし,患者が睡眠している時に1時間ごとに起こして,足関節の背屈をしてもらうわけにはいかない.前述のように,腓骨神経麻痺は,健康な若年者でも通常の生活内で生じるわけであるので,下肢手術後であるからといって100%防止することは不可能である.したがって,これは「合併症」であって「医療事故」というべきではないと
考える.

⇒手術は成功した。しかしその夜の患者の寝姿勢が原因で、神経麻痺が生じた。という事例になります。
 おそらくこの場合は、法律で争うとなりますと「善管注意義務」という切り口になるでしょう。医療機関
 側としては、すべきこと、最善の注意は払っていた、ゆえに責任はない。という視点でしょう。
 しかし、それでも防ぎ得ずに患者には神経麻痺が生じた。最悪は、歩行するのに難儀な状態が回復せずに
 後遺症的に残存してしまった、ということになります。
 これを医療事故と見るか、合併症と見るかは、それぞれの皆さまの思想や思考方法や医学への理解度、
 医療の不確実性への許容度に左右されるでしょう。
 .....ただ、裁判という形で争うことになった場合は、患者さんの側には相当な不利があるのが、現実
    ということも知っておかれたほうがいいかと思います。

・このような合併症について、患者側から「医療事故」あるいは「医療ミス」としてクレームがつくことが増えているのが現状である。「クレームがつけば医療事故あるいはミスである」という考えは厳に改めなければならない。このためには常から勤務者すべてが合併症を熟知して合併症の予防に努めるとともに、「予防すれば合併症は起こらない」という認識を捨て、「合併症は最大限の努力をして予防せねばならないが、予防を行っても一定の確率で生じ、事故ではない」という認識を共通して持つことが必要である。

⇒東京地方裁判所平成19年4月9日判決事例の紹介 (メディカルオンライン医療裁判研究会より引用)
概要】H保健センターが実施した健康診査において,O医師が行った血液検査のための採血後,患者A(女性,37歳)に採血部位の変色,痛み,痺れ,腫れ等が生じ,左内側前腕皮神経及びこれと左尺骨神経との交通枝が損傷され,左上肢にカウザルギーを発症したとして,健診を実施したH保健センターを開設する自治体に対し損害賠償請求をした。

健康診断の採血後に出血、痛み、腫れ、さらには神経マヒが生じた、という事例です。患者さんには全く何の落ち度もないのは明らかです。
落ち度はないのに、神経マヒという障害を生じたのですから、患者さんが損害賠償を請求するのは当然と思います。
そして、裁判の結果は、下記は報告内容をさらに省略したものとなりますが、
「前腕に分布する皮神経の走向は体表からは判断が困難であり神経分布も個人により異なり事前に走向を全て知ることは不可能であることが指摘されている。これらのことから,O医師が選択した血管,刺入箇所に不適切な点はなく,適切な手技での採血によっても神経損傷が生じ得るのであって,事前に認識することはできないから,仮に神経損傷が生じたとしても不可避な合併症であって,O医師に採血手技上の義務違反があったとはいえない。」
裁判のポイントには、次のように説明されています。
「注射の手技の基本的な注意事項であり,責任の有無はまさに基本的手技を確実に行ったか否かに力点がおかれている。したがって,各種医学文献において推奨されている注意事項にしたがい基本的操作を意識することが求められる。この点については,個人の意識の問題だけでなく,医療機関としても基本的手技の確認を行う定期的研修の開催や,採血の標準マニュアルの作成などが適切になされることが推奨される。」
つまり、その当時の医学的水準として適切な処置を行っていた場合、合併症が生じたとしても、合併症はある確率で避け得ない事象であることから、合併症の発症を理由としては医師の行為はミスとしては認識されない。 ということです。



採血を実施した医師の手技に義務違反がなかったとして過失が否定された事例。
 





この続きは後日にて
august03


☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
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