これらは、国内で脊椎インプラントを販売している大手医療機器メーカーの添付文書からのコピーとなります。
側弯症に対する最終的な治療法は「手術」となります。
ときおり、ガン(癌)に対する手術を避け、治すことの望みをかけて民間療法をした (最終的には死亡) という
ニュースを見ることがあります。
癌に関していえば、治らない癌は“治らない”のだから、手術はするな (抗がん剤や手術による弊害で死期を早める)
という考え方も存在します。
このブログを読んでいただいている皆さんには、側弯症の治療において、最終手段である「手術」の代わりになる
民間慮法は存在しない、ということはご理解いただけていると思います。
短期間に急激に進行する場合もあれば、数年という単位でゆっくりと進行する場合もあれば、10年・20年という
単位で非常にゆっくりと進行する場合もある、という具合に、個人によってその進行度合いに大きな差があるため
手術をすべきかどうかで悩むのが、側弯症という病気です。
発症が幼児・小児であれば、固定手術は身長の成長を機械的に止めることになるために、できるだけ身長が得られる
まで「(装具療法で対処しながら)待つ」ことになります。
そして、固定手術を行った後に、医師と患者さんを悩ませるのが、
「骨癒合は無事得られた」
「では背中のインプラントをどうすべきか? このままにするか? 抜くか ? 」
という問題です。
この問題に対する「医学的統一見解」「医学的正解」はいまだに存在していない、というのが現実だと思います。
私の不勉強から、私が知らずにいるだけかもしれませんが、残念ながら これが医学的統一見解というものを
見つけることはできていません。
今回タイトルに「全ての利益は医療メーカーに、全ての責任は医師に、そして全ての苦労は患者に」
と書きました。
おそらくこれを読まれた先生方からは納得を得られるのではないかと思います。
この問題について、何回かに分けて述べていきたいと思います。
背景として
1. たとえば、思春期側弯症で脊椎固定手術をした場合、標準的な例として
インプラント費用はどれくらいになるのか ?
私たちは、何かの病気・ケガで病院で治療を受けた場合、その医療費の大半は「国民皆保険制度」のおかげで
健康保険証を持っている限り、自己負担は一般的には 3割負担 ですむことになります。
加えて高額医療費制度により、負担が少なくなるシステムがあり
また特発性側弯症の場合は「育成医療制度」により、負担はさらに少なくなります。
ですから、一般的に患者さんの目には、身体の中に埋められたインプラント
(インスツルメンテーションと呼ばれる)製品が高額なものである、
ということを意識するのはほんの一瞬のことになるでしょう。
しかし、現実として、金属インプラント等の医療機器は「製品」として販売されているものであり
そこには「価格」が存在します。
そして、医療機器における体内に埋め込まれて使用される製品は「特定保険医療材料」といわれ、
最終的には、社会保障費の一部として、健康保険機構や国の財政から負担されることになります。
このような保険制度については、専門に解説されているサイトがあると思いますので
ここでは詳しい説明は省略させていただきますが
簡単に図式的に示しますと
医療機器メーカー「製品A」(特定保険医療材料)
販売
↓
(病院への納入業者 )
販売
↓
病 院
↓
手 術 (患者へ請求)
↓
3割負担 残り7割は健保組合や国の財源の負担となる
上図では、製品の金額を書きませんでしたが、その金額、脊椎固定材料の特定保険医療材料費が
どのくらいのものであるかを例として示してみます
下の手術後のレントゲン写真を示すことで、さらに具体的にイメージできると思います
つまり、単純な言い方をしますと、250万円を患者さんと国が医療機器メーカーに支払っている。
ということになります。
2. 医療機器メーカーの儲けはどれくらいになるのか ?
日本は自由な資本主義の国ですから、企業が正当なビジネスにより「利益」を上げて経済活動が動くことを
前提として国は運営されています。
ですから、医療機器メーカーがどれだけの莫大な利益を上げたとしても、それをもって非難することは
できません。
ただ、どれだけの利益率があるか、ということは情報として知っていてもよいと思います。
例えば、新聞・マスコミの経済記事では、たとえば、新車1台の利益率は数パーセントとか、
デパート・コンビニの利益率は1~2パーセント、という数字を目にすることはありますが
医薬品や医療機器メーカーの利益率が一般の人たちの目に触れることは非常にまれです。
昔から「薬九層倍」という言葉がありますように、医療に係る製品が非常に高価で
そして利益のでるものであることは知られていました。
その実例を探すために、いまグーグル検索に「ジョンソンエンドジョンソン 利益率」で検索しますと
“ジョンソンエンドジョンソン S&P格付け 驚異のAAA。営業利益率30%。”
こういう記事を見つけることできます。
営業利益が 30%ある、 ということのいかに凄いか、ということはビシネスに携わっている立場の方々でしたら
すぐにおわかりなると思います。
単純な示し方をしますと、上記の250万円から原材料、製造費、開発費、人件費、物流コスト、営業費用etcを
引いた残り 75万円が、「利益」として金庫におさまる、ということ。
一回の手術が行われるたびに、75万円が会社の金庫に入ってくるわけです。
そして、メーカーによっては、この利益が、30パーセントどころか、数十パーセントになる企業も
医療ビジネス業界には存在します。
企業が儲けて、そこで働くひとたちが高給を得ることは資本主義社会では非難の対象ではありません。
例えば、脊椎固定機器を販売する30代のメーカー営業マンが年収1千万であったとしても
部長クラスで、2千万円であったとしても
社長が数千万円であったとしても
そのことは非難の対象ではありません
何が問題なのか !
「骨癒合完成後は、インプラントは抜くこと」
それを決めるのは
「最終的なインプラント抜去は医師が決定する」
「インプラントの抜去は、医師と患者が相談して決めること」
医療機器メーカーは特殊な製品を開発し市場に供給している。
これがなければ、医師は手術ができない。
これがなければ、患者は治療されない。
だから、製品が高額になるのは当然だ。
だから、利益率が大きいのは当然だ。
だから、高額な給与をもらうのは当然だ。
この製品は、骨癒合が得られるまでのいわば仮固定のようなものであり
骨癒合が得られれば、役目は終わる
ゆえに、抜いてもいいはず
でも、それを決めるのは、医師と患者
我々(医療機器メーカー)の役目ではない
でも、骨癒合が得られるまえに、 (以下は某大手メーカーの添付文書より引用)
・骨癒合の完成前に、過度及び早すぎる体重支持又は筋肉運動により、インプラントの緩み、変形、
破損、転移及び脱転の危険性が増加する可能性がある
そして、さらには
・インプラントがその使用目的を完遂した後も抜去されない場合、下記のような不具合が起こる可能性がある
(1) 局所的な組織反応又は疼痛を伴う腐食
(2) 損傷に至る可能性のあるインプラントの転移及び移動
(3) 抜去を不可能又は困難にする変形、緩み及び破損
このように記載されていたのでは、インプラントは抜くのが当然と考えるのが自然です
しかし、現実には、次のような問題も存在します
この問題に関連する記事 (カテゴリー:脊椎インスツルメンテーション抜去のリスクとベネフィット)
「AIS側弯症脊柱固定術後のインスツルメンテーションの抜釘は必要?」
「(重要) 術後何年かでインスツルメンテーションは抜去する? No.2」
「術後何年かでインスツルメンテーションは抜去する?」
どうすればいいのか? 当然、患者さんにはわかりません
医師は?
おそらく 自信をもって、〇〇〇〇でいきましょう と言える先生も少ないと思います
責任をもって、という表現にした場合、さらに多くの先生は躊躇すると思います
様々な原因があり、様々な対処方法があるはずなのですが.......
そして、そのひとつが 患者さんのデータ という切り口です
側弯症の手術で脊椎固定術をされた患者さんは、国内だけでも数万人以上は存在するでしょう
術後2年目の患者さん、術後5年目の患者さん、術後10年目の患者さん ......
その方々の状態がどうなっているのか?
それを知ることができたら
きっと、先生がたは、そのような多数のデータを分析して
現状以上のなんらかの目安、指針のようなものを得ることができることでしょう
......そして、本来であれば、そのようなデータ・情報を収集する役目を担うのが
医療機器メーカーのはずなのですが
現状の法律では、メーカーにはそのような義務は課されてはいません
(正確には「字面的には」安全性情報の収集という義務がメーカーには課せられているのですが
実態は、患者の役に立つ情報はなんら収集されていないのが実態)
この問題については、別途トピックスとして書きたいと思います
(体調不良のため、長時間作業ができないので、毎回舌足らずの書き方になることをご容赦ください)
august03