「いまの奴の話は面白くないね。 ぺらぺらしゃべるんだが、全然自分の批判もないし、感情もなくて、きいたまま、みたままをしゃべるからだ。 子供はきいたことみたことをうまく話せないだろう。 自分の感情でいっぱいになるからだよ。 きいたものは自分の腹でよくこなして、自分のものとして話さなけりゃね。 うのみにしてはき出しちゃ面白くないよ 」
「 今の人は個性がなくなったからでしょう 」
「 個性だってそうさ。 自分勝手な非常識なことをして社交性がないのを、あの人は個性が強いなんていうが、個性が強いんじゃなくて、自己が強いんだ。 個性なんてものは、ひとりよがりの思い上がりで、できるもんじゃない。 柔軟な心で、素直に社会と交わなければ、生まれないものだ。 社会的なものがあってこそ、個性は成長するんだよ 」
「この人を見よ」 202頁 新潮文庫 ( 最近の兄 高見澤潤子 )