ホワイエでコーヒーを飲みながら♪

観劇の感想もろもろな備忘録。
「つれづれな日々のつぶやき♪」からお引越し中。

『その男』ストーリーと感想

2009-08-15 17:14:16 | テレビ
NHK芸術劇場の舞台中継『その男』を観ました。
ストーリーと感想を備忘録として書きます。

※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【原作】
池波正太郎


【脚本】
鈴木聡


【演出】
ラサール石井


【音楽】
上妻宏光


【出演】
上川隆也(杉虎之助)、内山理名(礼子)、キムラ緑子(秀)、池田成志(中村半次郎)、波岡一喜(伊庭八郎)、六平直政(山口金五郎)、平幹二朗(池本茂兵衛)ほか


【公演】
2009年4月22日 東京芸術劇場 中ホール


【ストーリー】
主人公・杉虎之助は微禄ながら旗本の嫡男。生みの母はお産で亡くなり、継母には疎まれ、我が身を儚んでわずか十三歳の時、大川に身投げをする。この時に謎の剣士・池本茂兵衛に助けられ、父親とも剣の師ともいえる間柄になる。
その後、十九歳になった虎之助は、叔父や友人との再会を果たし、謎の女・秀や後に妻になる隠密の礼子と出会う。
幕末の風雲急をつげる頃、茂兵衛と礼子は薩摩の手の者によって切られてしまう。


【感想】
幕末、明治、大正、昭和とひたむきに生き続けた虎之助。老いた名もなき男の胸に去来するものは何だったのだろう…。
池本茂兵衛の言葉が胸に沁みた。
「人は獣。人として、足を地につけて生きてゆけ」
「生きるということは、川の流れのようなもの。飛び込むもよし、眺めるもよし」

上川隆也のきれのある美しい殺陣、笑いをとる場面でのお茶目なかわいらしさ、ストイックな純粋さが、この舞台にぴったりとはまっていたと思う。他にも、池田成志の色気と存在感、キムラ緑子の艶っぽさ、平幹二朗の比類なき重厚さと存在感など。とても見ごたえのある舞台だった。
ただ、放送時間の都合で割愛部分が多く、観ていて舞台の流れが途切れてしまうのが残念だった。


【余談】
『鬼平犯科帳』や『剣客商売』などの時代小説で名高い、池波正太郎の初舞台化作品。






『浮標(ブイ)』ストーリーと感想

2009-08-08 16:09:44 | テレビ
NHK BS2 ミッドナイトステージ館 劇場中継『浮標(ブイ)』を観ました。
ストーリーと感想を備忘録として書きます。

※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【作】
三好十郎


【演出】
栗山民也


【出演】
生瀬勝久(久我五郎)、七瀬なつみ(美緒)、佐々木愛、長谷川稀世、北村有起也、大鷹明良、石田圭祐、須賀佐代子 ほか


【公演】
2003年 新国立劇場


【ストーリー】
主人公の久我五郎は実力はあるのに落ち目の画家で、結核を患っている妻 (美緒)と細々と暮らしている。献身的で無私なお手伝いのおばさん、久我の友人夫婦、美緒の身内、医者、金貸したち。
久我を取り巻く人々のそれぞれの思い、人が生きていく苦悩と困惑などが絡み合い、傷つけ合うことばかりが多くなっていく。


【感想】
戦時中の特殊な時代の中で、苦悩する市井の人々を描いている作品。
久我の画家というより、自分自身の人生に対する立ち方さえわからなくなっていく中で、妻の美緒に死期が迫っていることに脅え、苦悩し、時には狂気さえも感じられるその様は、ぞっ…とするものがあった。
最後に久我が妻にいつものように、万葉集を読み解説する中で、彼女は静かに死を迎えた。絶望ともいえる状況なのに、何故か温かいものがこの空間に流れているような気がした。

生瀬勝久の時折見せる、狂気を感じさせる演技はやはり秀逸。本当に役者としての振り幅の広い方だなと思う。
七瀬なつみも以前に観た舞台、岸田國士の戯曲『出征前夜』、この時も思い詰めた妻の女の業のようなものが、ものすごくよく出ていて怖かった記憶がある。その時の感じと同じような、静かなのに、どこかすごみのある、死期を眼前に控えた妻を観せてくれたと思う。
この二人だけでも十分に舞台が成り立つと思うが、ほかにも北村有起哉など芸達者な方が周りをかためていて、とても完成度の高い舞台だったと思う。


【余談】
この戯曲を書いた三好十郎は、戦前から戦後にかけて活躍された方。時代的なこともあり、放送中にはおそらく放送禁止用語を消すためと思われる、無音声がところどころに入っていた。

そういえば、最近めっきりと生の舞台を観に行っていない。
やっぱり舞台は、その場で味わう空気感がよいのだから、劇場で観劇するにこしたことはないな~。