ドクターイエロー、どこに行けば「会える」? 「幸せの黄色い新幹線」の舞台裏
夏休み期間中の7月25〜26日にJR東海の浜松工場で開催された「新幹線なるほど発見デ―2015」のサプライズ展示は、ドクターイエローT4編成の「車体上げ・載せ作業実演」だった。
例年なら新幹線の営業用車両がクレーンアップされるが、この時期、T4編成は同工場に「全般検査」のためメンテナンス中。その会期中に先頭車がクレーンアップされ、それが公開されることは極めて珍しいことだ。会期中はこの作業実演には見学希望が殺到して、整理券配布により一回約2000人で数回の見学になった。
ドクターイエローのクレーンアップというだけでも話題性抜群だが、実はこのクレーンアップ作業は今回でどうも終わりなのでは……という憶測があった。というのは現在、浜松工場では新工場建屋を建設中で、完成すると車体上げはクレーンではなく、作業能率が良いジャッキアップにより行われるからである。
したがって次回の全般検査からクレーンを使ったメンテナンスは行われない……。こんな憶測が人気に拍車をかけた。また、現在N700Aにより東海道新幹線の最高時速は285kmにアップしている。「最高時速270kmのドクターイエローでは限度があるのでは」という“マニア”のうわさも加わってのドクターイエロー人気なのである。
運行時刻がわからない隠密電車
なぜ、こうまでもドクターイエローは人気があるのであろうか。
ドクターイエローの走る日を嗅ぎつけた私はある日、東京駅のホームで黄色い電車の登場を待った。午前11時半を回ったところで有楽町方面から黄色い車体が回送列車で姿を現すと、ホームにいた乗客からは「あ、ドクターイエローだ!」という歓声があがった。
ホームに停車したドクターイエローにはたまたま周囲にいた乗客が殺到、たちまち鉄道マニア以外の携帯やスマホカメラの洗礼を受けることになった。
この人気の秘密。それはいつ走るかわからない「隠密電車」ということに尽きる。滅多に見られないからその姿を見れば「幸福」になれるという都市伝説が人気に拍車をかけ、特に若い女性や“ヤンママ”たちの絶大なる人気を博し、いつのころから「幸せの黄色い新幹線」とまで呼ばれるようになった。
これだけ人気のある電車ながら運行しているJR東海も西日本もその運転日や時刻は公表していない。出会いの偶然がラッキーに通ずるところであろう。
東海道新幹線の開業直後から「検測車・試験」車両は走っていた。国鉄時代の1979年に登場した3代目試験車の922形T3編成は0系新幹線電車をベースにした「電気軌道総合試験車」といわれ、黄色いボディにブルーの帯をまとった電車だった。
さらに1982年の東北・上越新幹線の開業当初に活躍したのが200系電車をベースにしたS1、S2試験電車であった。この電車は黄色いボディに東北新幹線の200系のシンボルカラーであるグリーンの帯をまとっていた。この両車と0系ベースのT3編成を新幹線のお医者様、すなわちドクターイエローと呼ぶようになったのだ。
国鉄分割民営後に発足したJR東日本は、S1、S2をEast-iと言われる試験車両に置き換えた。色も黄色から白と赤をベースに変わり、JR東日本からドクターイエロー神話は消えていった。
東海道・山陽新幹線では2001年から700系をベースに開発された時速270km対応の7両編成のT4(JR東海)、ついで2005年にはT5(JR西日本)編成がデビューした。当時700系は「カモノハシ」と呼ばれ、その独特のスマートな流線型が、ドクターイエローの人気を不動のものにした。JR西日本所属のT5編成も東京をベースに運用され、メンテナンスもJR東海の手によって行われている。また、この新型ドクターイエローの登場によって0系タイプは引退し、現在は「リニア・鉄道館」(愛知県名古屋市)に保存されている。
安全運行に必要不可欠な存在
ドクターイエローは基本的には一般乗客は乗ることができないし、機器類の細部も公開されていない。
私はドクターイエローT4編成がデビューした2001年に走行中の試運転電車に同乗取材することができた。東京駅に姿を現した700系タイプのボディラインとまばゆいばかりの黄色いボディは衝撃的だった。
この日は横浜を出ると名古屋までほぼ時速270kmでノンストップ運転。車内でレクチャーを受けたあと、コンピューターなどの機器を見学。現在はより良いIT機器が搭載されているが、それでも機器類や液晶モニターは当時としては新鮮なものだった。
観測ドームといわれる屋根に突き出たガラス張りのドームからのパンタグラフと架線の状態を見た。架線が正しい位置にあるか、摩耗していないかを走行しながら測定しており、それがテレビカメラなどでデータとしてリアルタイムに、車内の測定台へ表示されるようになっている。
また小さな不具合があった時には要注意データとして取り扱い、指令所へほぼリアルタイムに転送される。早ければ当日、終電後の深夜にメンテナンスされるという。定員1323名16両編成の電車が3〜5分間隔で走るという、世界に例を見ない運行を行う新幹線の安全にはドクターイエローは必要不可欠の存在なのである。
ドクターイエローの運転日や時刻は公開されていない。マニアの非公式サイトで情報が出ている場合があるが、これらの中には信用はできないものもある。私の経験では週末の東京発午前11時30分から12時までの間に臨時電車として運行される確率が高そうだが、はたしてどうか。
撮影ポイントとしては、東京駅を発車してすぐの有楽町・日劇付近の高架。7両編成だから編成もきれいに収まる。多摩川鉄橋では中央部に防護柵がなく7両編成が収まる。夏場の夕方通過する上り列車が狙い目だ。
富士山をバックにしたベストポイント
ハイライトは何といっても富士山をバックにしたドクターイエロー。これは晴天で富士山が見えることが条件。冬場の晴天率が良い時が狙い目だ。写真を撮影したのは岳南電車須津(すど)駅下車15分の場所にある。
関ヶ原近辺では春は桜、冬は雪と格闘するドクターイエローが狙える。関ヶ原トンネルを越えれば伊吹山とドクターイエローの組み合わせが素晴らしい。東海道本線、近江長岡駅か柏原駅からアクセスできる。くれぐれも立ち入り禁止区域には入らないよう、安全に撮影したい。
取材協力・JR東海・JR東日本・旧国鉄新幹線総局
先日、新新バイパスを走っていたら、横を通る新幹線に見慣れない車両が走っていました。
窓の配置が違うので、「あれっ?」と思った次の瞬間にピンときましたよ。
「East-i だ!」