2017年5月14日 聖教新聞
決定した入賞作品から
厚生労働省、日本看護協会が主催する第7回「忘れられない看護エピソード」の表彰式が今月7日、東京都渋谷区の日本看護協会JNAホールで開催されました。
「忘れられない看護エピソード」は、「看護の日・看護週間」に当たり、看護の現場で体験した心温まるエピソードを募集。7回目となる今回は、全国から過去最多の3578作品が集まり、厳正な審査を経て入賞20作品が決定しました。
表彰式には、特別審査員を務める脚本家の内館牧子さんらが出席。入選作の発表や、受賞作をもとに制作されたショートムービーの上映、トークショーなどが行われました。
ここでは、看護職部門、一般部門で最優秀賞を受賞した2作品を紹介します。
●忘れられない親子の姿 ~血のつながりってなんだろう~
福岡県 瀬上希代子さん(49)
長くNICU(新生児集中治療室)で看護師長として勤務してきた。その中で、忘れられない「親子の姿」がある。
ある日、1人の赤ちゃんが入院してきた。Aちゃんは低体温で入院した。しかし、もう1つの理由は「育児者がいない」というものだった。
周りの赤ちゃんは両親が面会に来ている。看護師たちは、面会のないAちゃんを抱っこしたり、目を合わせて話し掛けながら授乳するなど、できる限りの愛情を注いでいた。
担当看護師Yさんは、Aちゃんの日記をつけていた。毎日少しずつ大きくなっていく体重、増えていくミルクの量をはじめ、看護師がどれだけAちゃんをかわいいと思っているかをつづり、写真や手・足型を取って、日記に貼っていた。「大好きだよ」のメッセージと一緒に。
3週間の入院で、Aちゃんは乳児院へと退院し、その後のAちゃんについての情報が病院に入ってくることはなかった。
それから5年後。Aちゃんの里親さんから「担当していた看護師に話を聞きたい」と連絡があった。Yさんは他部署へ異動していたが、連絡をとり、お会いする機会を持った。
特別養子縁組をしてB家の長女となった、5歳の笑顔のかわいいAちゃんは、お母さんと一緒に会いに来てくれた。お母さんはAちゃんが物心つくころには事実を話していたこと、愛情深く育てていること、そして生まれてすぐに入院した病院で看護師たちにとてもかわいがってもらっていたことを、Yさんの日記を見せて話をした、と教えてくださった。
「『愛されていた』ということの証となる日記を作ってくださってありがとうございます」とお礼を言っていただいた。
NICUという環境の中で、時には血のつながりって何だろう、と考えることがある。Aちゃんを取り巻いた色んな形の愛情からは、人と人とのつながりの奥深さと、愛情をもって接することの偉大さが感じられた。
若い看護師であったYさんも、今は一児の母である。とても愛情深い育児をしながら、看護師としてがんばっている。
●赤い星
兵庫県 洲本美智代さん(39)
秋も深まり冬の気配が近づく夜のことだった。
「お母さん、僕は星空を見たことがないねん。夜にお出掛けしたことないやろう? 本物の星空を見てみたいなあ」。そう話す息子には、もう時間がない。
難病で肺を患い、入退院を繰り返して9歳になった。夏の終わりまで、酸素ボンベを乗せた車いすで病院の周りを散歩することができた。しかし、今では外出もままならず、病室の天井と壁を見つめる日々が続いている。
外の世界といえば、わずかに見える窓からの景色とテレビ、そして大好きな図鑑を眺めることだった。「図鑑があれば何でも分かるから」と、いつも枕のそばに置いていた。
少しの時間だけでも星空を見せてやりたいと医師に相談してみたが、容体は安定せず、外出の許可は下りなかった。私は「願いをかなえてやることができなくて悔しい」と担当の看護師にぽつりと漏らした。
すると次の日、看護師が家庭用の小さなプラネタリウムを持ってきてくれた。手のひらサイズの宇宙の登場に息子はとても喜んだ。夜を待ち、個室の電気を消してスイッチを入れると、天井と壁一面に冬の星空が広がった。図鑑で覚えたオリオン座を見つけると、「ベテルギウスは一等星で赤い星やで。僕は赤が好きやから、ベテルギウスは僕の星やな。もう寂しくないわ」とうれしそうに笑った。
病室で星空を見た数日後、息子は眠るように逝った。
看護師の仕事といえば点滴の交換や患者の世話をすることだと思っていた。しかし、体に触れるだけではなく、患者と家族の気持ちに寄り添いそっと支えることも看護ではないだろうか。
プラネタリウムのおかげで息子も私も救われた。最期の自由を与えてくれた看護師の優しさに心から感謝している。
今回の「最優秀賞」「内館牧子賞」「優秀賞」「入選」の20作品のパネル展が6月30日まで開催されています。
ご来場の方には、入賞作品を収めた小冊子「第7回『忘れられない看護エピソード』集」がプレゼントされます(なくなり次第終了)。入場は無料です。
場所=日本看護協会ビル3階「JNAプラザ」(東京都渋谷区神宮前5の8の2)
開場時間=午前10時半~午後5時(午後1時~2時を除く)
併せて、看護職部門で内館牧子賞を受けた作品がショートムービー化され、日本看護協会ホームページ(http://www.nurse.or.jp)で公開されています。
また、入賞作品を収めた小冊子「第7回『忘れられない看護エピソード』集」を希望する方は次の①~⑥を明記の上、はがき、ファクス、メールのいずれかでお申し込みください(なくなり次第終了)。
①郵便番号②住所③氏名④年齢⑤職業⑥電話番号
〈申込先〉
はがき=〒150―0001 東京都渋谷区神宮前5の8の2 日本看護協会広報部「冊子プレゼント係」
ファクス=03(5778)8478(件名に「冊子プレゼント希望」と明記)
メール=koho@nurse.or.jp(件名に「冊子プレゼント希望」と明記)
毎回、心が洗われるんだなぁ。