おはようございます。
神奈川県横浜市にある設計事務所・株式会社コア建築設計工房の野上です。
お盆中、外出し難い時期だったので本を読んでいました。
文豪が建築について言及していることが面白いので取り上げます。
※没後50年経過しているので、存分に引用します。
妖しい耽美を描いた谷崎潤一郎と、捻くれてるけど実は優しい坂口安吾は随筆をのこしています。
建築に関わる記述(どちらもあらかじめ「建築については門外漢であるが…」と丁寧に前置きしています。謙虚ですね)が多くあり、日本の西洋化への考えの相違が面白いです。
ひとつめ、『陰翳礼讃』(いんえいらいさん)は建築業界では有名で、羊羹から建築に至るまで、その名の通り陰翳を礼讃する旨です。
個人的な解釈では「影」は姿がわかるカゲを、「陰」「翳」は薄ぼんやりとしたカゲリを表し、その暗さの文化を語っています。そして、その描写がいちいち凄まじく耽美なのです。
▲ 陰翳礼讃 谷崎潤一郎 中央公論新社 (青空文庫もおすすめです)
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玉のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを啣んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。クリームなどはあれに比べると何と云う浅はかさ、単純さであろう。だがその羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。
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軒を深く出す建築で暗い部屋に住まねばならなくなった先祖は、陰翳のうちに美を発見し、それに合わせて陰翳を利用するようになりました。
よって美は常に生活の実際から発達すると述べています。
そして、西洋文化は順当に発達したのに対し、日本は優秀な西洋文化に急に出会ったがゆえに損をしていると主張し、嘆いています。
LEDに白く照らし出された部屋で生きる我々は、現実の陰翳を愛でる心はどれほど残っているのか哀しみを覚えました。
論理的に日本文化を語られても完全な理解はできませんが、本によって、その世界に没入すれば見えるものもあると思います。
対して、感覚的に理解していること、例えば「わびさび」を外国人に説明することがあれば、言語化された谷崎の文学をもってすれば幾らかは伝えられるかもしれないと思いました。
長くなるので安吾は次回書きます。
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