私の音楽 & オーディオ遍歴

お気に入りアーティストや出会った音楽、使用しているオーディオ機器を紹介します(本棚8)。

『MASTER TAPE ~荒井由実「ひこうき雲」の秘密を探る~』

2010年01月28日 | ポピュラー
NHK-BS放送でタイトル名の番組を観ました。
ユーミンこと松任谷由実(旧姓:荒井由実)さんのデビューアルバムである「ひこうき雲」(1973年作品)のマスターテープを当時製作に関わった人たちが集まり、同窓会気分で聴いてみようという企画です。

37年前に作ったアルバムを聴くってどんな気持ちなんだろう。
苦労して作った卒業文集をひもとくときの気持ちに似ているのかな。

当時のユーミンの声はややアンニュイ、でもストレートに伸びる爽やかさも兼ね備えた不思議な魅力をまとっています。
雲を突き抜けて天に届くような鋭く美しい高音も聴かれます(今はもう出せないでしょう・・・)。
バックを担当するのは強者揃いの「キャラメル・ママ」というバンド(?)。
キーボード:松任谷正隆、ベース:細野晴臣、ドラム:林立夫、・・・その後の日本ポップス界の屋台骨を支えた人達です。
演奏は至ってシンプル。
オーケストラとか大がかりな伴奏が入らなかったおかげでしょうか、今でも新鮮な耳触り。
歌詞は詩的で夢のある言葉で綴られています。
当時流行していた四畳半フォークは細々とした日々の生活を歌っていたので、ユーミンの登場は衝撃的だったことでしょう。

私自身がユーミンを知ったのは「守ってあげたい」(1981年)だと記憶しています。
当時既に「松任谷由実」さんでした。
ふとしたきっかけでもっと昔の曲を耳にし、「荒井由実」時代のシンプルな世界に惹かれるようになりました。
今では冬になるとオフコースと並んで荒井由実時代のユーミンのCDがカーステレオの常連となっています。

番組は「ひこうき雲」の製作秘話にも迫ります。
いくつか驚かされた発見がありました。

■ ユーミンは10代半ばから音楽活動を始めた根っからの音楽人間で、当初ブリティッシュロックに傾倒していた。歌手になるつもりはなく、作曲家志望だった。

■ ディレクターの有賀恒夫さんの好みでユーミンの「ノンビブラート唱法」が決まった。
松任谷:「どうしてこの歌い方を指示したんですか?」
有賀:「ユーミンがビブラートをかけると細かいちりめんビブラートなってしまい、そういうの嫌いだったんだよねえ」と回答!

■ 有賀さんは音程チェックに厳しく、ボーカルの録音は1年以上かかった。
 有賀さんは複数のテイクから一番良い部分を切り取り繋げて曲を構成していくが、ユーミンはそれが許せない。
「音程は合ってるかもしれないけど、気持ちが繋がらない。こんなのイヤ。」と抗議する。
 しかし有賀さんは譲らない。
「10年後に聴いても恥ずかしくないアルバムを作るのがプロの仕事」と言い切る。
 スタジオの隅でユーミンは泣いていたそうです。

■ ブリティッシュ・ロック志向のユーミンと、アメリカン・ロック志向のキャラメル・ママ。
 初めのうちは「どうもちぐはぐで、ぎこちなかった」そうです。
 しかし後半になるとがっぷり四つに組んで、二つの音楽が融合した今までにない新しい音楽を造り出します。
 なぜって、松任谷正隆さんとユーミンが意気投合して職場恋愛に発展したから。
 グループサウンズや四畳半フォークと一線を画す「ニューミュージック」の誕生秘話です。


2月に再放送されるそうです。
ユーミンファンは必見!

長屋和哉

2010年01月28日 | 一曲・一枚との出会い
先日「神々の響きを求めて 熊野・千年の時を超えてこだまする音」(BS-i)という番組を見ました。
「長屋和哉」・・・こんなアーティストが日本にいたとは!
と驚かされた次第です。

長屋和哉さんの外見は、痩せて髭を蓄え、ロン毛をひと束に縛り、あたかも仙人のよう。
自然派ミュージシャンである喜多郎やオカリナの宗次郎を想起させます。
そしてこの長屋さんも自然の中に身を置いて澄んだ音世界を創り出す職人です。

彼の音造りの基本は「金属音」。
金属を叩いたり、擦ったりして発生する音を拾って音楽に構築します。
鐘、鈴から始まり、ナベやフライパンまで楽器にしてしまいます。

彼の音楽人生はロックから始まったそうです。
あるときジャワのガムラン音楽に出会い、その絢爛豪華で厳かな音世界に打ちのめされたとのこと。
日本人である自分にもあのような音楽が創り出せるだろうか・・・彼の模索が始まりました。
そして日本に古来から伝わる寺院の鐘の音をはじめとする金属音の豊かな余韻に魅せられ、いろんな金属音を楽器として取り込むようになりました。

番組の中で刀鍛冶を取材し、鉄をハンマーで叩いて鍛える音を聞いて「いい音ですねえ」とニコニコ嬉しそうにしている姿はちょっと笑えました。
純粋なヒトなんですね。

しかし、シンプルすぎて「聴く音楽」になり得るのかな、と素朴な疑問が生まれました。
そこでCDを一枚購入して聴いてみました。
「千の熊野」という作品です。

ウ~ン、心地よい。
静寂の中に済んだ金属音とその余韻が響き渡り、共鳴して空間に広がります。
ざわめく精神が沈静化していくのが自分でわかります。
いいですねえ。
1000年前の日本人が聴いても心にしみる音世界ではないかと感じ入りました。
数十年前、シンセサイザー奏者の「喜多郎」の音楽を初めて聴いたときの印象に通じるモノがあります。
ジャワのガムラン音楽が「夢幻・恍惚」なら、長屋さんの音楽は「静謐・瞑想」という言葉が合いそう。

彼の初期3枚のアルバムは「吉野三部作」と呼ばれているそうです。

「うつほ」
「千の熊野」
「魂は空に 魄は地に」

日本人の魂の源郷と云われる吉野~熊野には濃厚で独特の雰囲気が漂っています。
作家「中上健次」が描いた世界ですね。

実は、長屋さんは中上健次と接点がありました。
長屋さんは作家として賞を取ったこともある才人(※)で、その時の審査員に中上健次さんがいたそうです。
番組の中で、中上さんの実家にお線香を上げに行ったエピソードが紹介されていました。
二人とも、日本の魂の伝道者ですね。

※ 1987年に小説「インディオの眩しい髪」で文芸春秋文学界新人賞佳作を受賞。