突然、風邪をひいてぐったりとしてしまった。何もしたくないし、考えたくなかった。
その上、歯が痛む。神経を抜いて治療が終わっているはずの歯が痛む。夜中に、痛み止めを飲んだり冷やしたりと大変だった。
そんな風邪もだいぶ良くなり、少し不安だったが、風呂に入った。
伸びていたヒゲを剃り、身体の鬱陶しさを汗と一緒に流しさろうと、使い慣れた、垢すりにボディーシャンプーをつけ、洗い始めた。
泡立ちが良いのだが、よく見ると随分いたんでいる。
ナイロン製の黄色い垢すり。これは三年前、リハビリで入院した時に病院の売店で妻が買ってきてくれたものだ。
病院では当然一人では入浴出来ない。看護師さんや看護助手の人がついてくれる。
高圧洗浄機のようなものでいきなりお湯をかけられる。そして、頭と身体を洗ってくれるのだ。
もっとも、僕の場合はほかの人よりは元気だったので、男の大事な所は自分で洗った。
というよりは、「あなた、手が動くのでしょ。大事な所は自分で洗いなさい」と洗わされたのである。
「もう大事なものなんか何もないんだ」とか言って全部助手のおばさんに洗ってもらった人もいた。
お湯をかけて石鹸を流すと、座っている椅子のままリフトで湯船の中にいれてくれる。これは便利だし、楽だった。
黄色い垢すりで身体を洗いながらそんなことを思い出していた。