先日の18日(金)の早朝4時半ごろ、突然電話が鳴った。
僕は間違い電話だろうとほっておいたのだが、妻が出た。
「救急隊から電話で、お母さんが入院したそうよ」
僕は驚いて、飛び起きてそのままズボンをはいて上着を着て車に飛び乗った。
病院に着いたのが5時ごろ、看護婦さんに告げて母の様態を聞くが、心不全で今手当て中とのこと、全く様子は分からない。
廊下の長椅子に腰かけて待つように言われどうする事も出来ずにただ待つ。
看護士さんに様子をもう少し詳しく聞こうかと妻に言うと、待っていなさいと言うのだからそのまま待とうと言う。
どれだけの時間待てばいいのか、何処の部屋にいるのかもわからない。このフロアーのどこかにいるようなのだが。
この救急の部屋で、時間など聞いても看護婦さんだって困るのだろう。
しかたなく長椅子に腰かけて待つ。
この病院はまだ出来て3年くらいか、とってもきれいだ。
時間外の受付から天井の黄色いラインを見ながら来るとここに着いた。
まだブルーのラインも引いてあり、途中から別れて他に行っていた。これは何処へ行くのだろう。
こんなときなのにに関係ないことが気になる。それに、きれいさがかえって固く冷たい感じがする。
横をみると置いてある空いた点滴の台には”ER"と書いたテープが貼ってある。
あ、ここは救急なんだな、と再認識したら4年前を思い出した。今月でちょうど4年になる。
僕が救急車で運ばれてきたのはもう一時間ほどあと、病院もまだ古い時で、廊下はせまく汚かった。
あのときは頭が混乱していて、記憶は断片的に色々な画面を思い出させる。
部屋が空いていなくて、診察室にいた。移動する簡易なベッドに寝かされていた。
横を見ると他にも数台置いてあり沢山の人が寝かされていた記憶がある。
当然、寝かされているだけでなく点滴を受け、そこから検査にベッドごと移動されていた。
やっと部屋に入ったのは夕方。
そのころから数日は記憶はますます分からなくなり、数日は目が覚めると朝だったり夜だったり友人がいたり家族の顔が見えたりしていた。
周りを見ると、やはり母を待っているのだろう年配の夫婦がいる。
奥さんは落ち着いた様子。ご主人もおたおたはしていないが少し口数が多い。
なんとなく、ご主人のお母さんかなと思ってみたりした。
すぐそばには、40才ぐらいだろうか、すらりとした男性がじっと座っていた。横には車椅子をたたんでおいてある。
きれいな椅子で、椅子にはきらきらと光るかわいいアクセサリーが付いている。
この車椅子はきっと奥さんのものなんだろうな。娘のものにしては大きい。だいいち奥さんがいるだろう。
日ごろから体の具合が悪く発作が起きてここへ来たのかな。
ERの担当の医師から状況の説明があった。テキパキとした女性の医師。
「血圧が200を超え肺に水がたまっています。心臓も以前の写真とくらべても大分張れています、パンパンですね。
今は点滴で血圧を下げる薬を入れいます。利尿剤も入れています。落ち着いてから検査をします」
もうすぐ、病室に行くときに一緒に行けますとのこと。
さっきの40ぐらいの男性を見ると奥さんらしき女性がベッドに乗って来てカーテンの陰で二人で話していた。
ベッドに乗って母が来た。酸素マスクをつけ点滴も付けている。しかし、思ったより元気そうだ。
そのままICUに入る、ベットを移り、尿のバックを下げられ、点滴、心電図、酸素計、酸素マスク付け心拍数や酸素の状態を見る器械につながる。
落ち着いたところで、心臓の担当のM医師が来た。
まだ若いスリムな先生。優しい口調に関西のなまりが言葉の語尾に少し出てくる。
「まずは酸素マスクが取れることですね。そうすれば歩けますよ」と優しく丁寧に話してくれる。
若いけれど良い先生だなとの印象を抱いた。ほっとしていると、酸素マスク越しに母が、
「先生、私もう歩けますよ」なんて言う。
「まだ、歩かないほうがいいですよ」
先生はちょっとあわてて言ったが僕は母が元気なのに安堵。
「今日の午後、豆乳の配達に来るから受け取っておいて」と母は言う。
「救急車で来たのだから、鍵は開けたままだろうから間に合わなくても置いておいてくれるよね」と言うと
「救急車に乗る前に鍵はかけた」そうだ。
二日ほどで一般病棟に移り酸素が取れ酸素計が取れ点滴も取れた。
でも母の語録は続く、椅子型のポータブルトイレを見て
「便を測っているようなので、この便器も一週間ぐらいはこのままためて測るの」だって。まさか!
テレビカードを買ってきたら
「これ1日ぐらい使える?前の時にも1日でつかっちゃたよ」
ほんとかよ、思わずいくらかかるのだろうと計算してしまった。
本を沢山持ってこよう。
そんな毎日が続き今日カテーテルの検査をした。
結果はだいぶ良くなり、明日退院と決まった。
日に何度も様子を見に来てくれる優しい関西なまりのM先生を気に入って、
10日間の入院も終わる。