21世紀 脱原発 市民ウォーク in 滋賀

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能登半島地震により 原子力防災計画の欠陥と 志賀原発(北陸電力)のリスクが露呈

2024-04-09 21:23:19 | 記事
《第120回 脱原発 市民ウォーク in 滋賀のご案内》

2月と3月は県内で原発問題に関する大きな集会などがあったため
脱原発市民ウォークは休止させていたがきましたが、
次回の脱原発市民ウォークを4月13日(土)に行います
(13時半JR膳所駅前広場)。

どなたでも、ご自分のスタイルで自由に参加できます。
都合のつく方はぜひ足をお運びください。


能登半島地震により原子力防災計画の欠陥と志賀原発(北陸電力)のリスクが露呈
確かな実効性を有する原子力防災計画を伴っていない原発は稼働させてはならない


朝日新聞が毎年行っている世論調査によれば、東電福島第一原発の事故後から2022年までは原発の再稼働に反対する市民の方が賛成する市民よりも多かったのですが、昨2023年、ついに賛成する市民が反対する市民を上回ってしまいました。このような状況は2021年10月に発足した岸田政権が原発への依存度を最小限に留めるとする福島原発事故後の原発政策を大きく転換したこと、特に昨年、原発関連法規を一挙に改正し原発推進の方針を鮮明にしたことの影響によるものではないかと考えられます。


朝日新聞2024年2月20日

しかしながら、今年の1月1日に起きた能登半島北部に位置する玖珠市を震源とした能登半島地震は、このような原発容認・推進の動きに冷水を浴びせるものとなりました。すなわち、震源地からおよそ60キロ離れた能登半島の南部に位置している志賀(しか)町に志賀原発が立地されていますが、この地震により能登半島一円の道路が寸断され、集落が孤立したり、広範囲に家屋やビルなどが倒壊したりしたため、住民が短時間のうちに避難できなかったり退避する場所がないなどの状態が続出しました。幸い震源地となった玖珠市には原発が立地されていないため(かつて立地計画がありましたが住民の強い反対により計画は放棄されました)原発事故という大事に至りませんでしたが、大きな地震が起きた際しれこのような能登地震によりもたらされたの同様の事態が原発が立地されている地域やその近辺の地域で生じたならば、住民が短時間のうちに安全に避難することも頑丈な建物内に退避することもできないという極めて危険な状態に陥りかねないということが明らかになりました。このことは国(原子力規制委員会)が「原子力災害対策指針」において、原発事故により外部に放射性物質が拡散される状態に至った場合は迅速に「避難」あるいは「屋内退避」を行うと決めているにもかかわらず、大きな地震が起きたならば実際には避難も屋内退避もできない事態が生じかねないこと、すなわち国の現行の原子力災害対策指針は極めて実効性に欠けるものであり原発で大事故が起きても住民の安全を守り得ないものであることを意味しているということができます。

一方、志賀原発は震源(能登半島の北端にある玖珠市)から約60キロ離れた地点に位置しており、大事には至らなかったとはいえ、原発の施設は様々な無視することができない深刻なトラブルに見舞われ、自然災害に起因した原発のリスクが露呈するに至り、あらためて原発そのものの安全対策が脆弱で不完全なものであることが明らかになりました。
上記のように、このたびの能登半島地震により、原発施設そのものの安全性だけではなく、住民の生命に直接関わる国の原子力防災対策に大きな問題点、致命的な欠陥が存在することが極めて鮮明になりました。このため、原発の安全性という原発問題との関連において、このたびの能登半島地震が意味している事柄を考えるために、以下に能登半島地震による被害がどのようなものであったか、その全容の概要を説明し、次いで能登半島に立地されている志賀(しか)原発において地震により生じた様々なトラブルの実態、原子力防災の法的背景、能登半島地震により明らかになった国の原子力災害対策(注:この用語は「原子力防災計画」と同義です)の欠陥、原発が立地されている自治体により策定される原発力災害対策の問題点、能登半島地震を踏まえての原子力災害対策に関する国・原子力規制委員会の姿勢・方針とその問題点などについて、わかる範囲で以下に説明いたします。

【能登半島地震の被災の全容について】

地震の発生は1月1日午後4時10分ごろでした。震源は石川県能登地方の玖珠(くす)市内、震源の深さは16キロ、地震の規模を示すマグニチュード(=地下における地震の規模)は7.6でした。阪神・淡路大震災を起こした地震や熊本地震のマグニチュードは7.3でしたから、それよりも大きな規模の地震であり、半島北部を中心に最大震度(地震動=地震に際しての地面の揺れの大きさ)が7の激しい揺れと津波、さらに地面が隆起するなどの地殻変動により、大災害が生じました。地震波形の分析の結果、木造家屋に大きなダメージを与える周期1~2秒の揺れが強かったことがわかっており、専門家は「阪神・淡路大震災を引き起こした地震に匹敵する」としています。これまで、2007年にマグニチュード6.8の新潟県中越沖地震が柏崎苅羽原発に大きな被害をもたらしており、また2011年3月には東日本大震災に際して東電福島第一原発の大事故をもたらした東北地方太平洋岸大地震(マグニチュード9.0)が起きていますが、これらの三つの一連の大地震は大自然による段階的警告であるというべきかもしれません。

能登半島地震による被災の状況の概要は以下のようなものです。

火事による家屋の焼失:最大震度7の揺れで多くの建物に倒壊するなどの被害が出ました。ビルも倒壊したほか、津波の危険がある中で断水するという事態が生じたために消火が遅れ、輪島市などでは大規模な火災も発生しており、専門家の調査では、火災の発生率は東日本大震災を上回っていたことが分かっています。輪島市と玖珠市の中心部では少なくとも3割の建物が全壊したとされています。

孤立状態に置かれた住民:道路が寸断されたために孤立状態に置かれた住民は1月8日の時点では3300人あまりに達していました。その後、孤立状態は解消されたものの、道路の状態などが不安定だとして引き続き支援が必要な「要支援集落」が数多く存在しています。

死者:1月19日の時点であわせて232人の死亡が確認されています(3月半ばの時点では244人。半島北部の輪島市が98人、玖珠市が99人で最大)。また、重軽傷者は1月19日の時点で、あわせて1061人が確認されています。
住宅の被害:全壊、半壊、一部損壊の被害を受けた住宅の数は、1月19日の時点で、石川県内では少なくとも2万9885棟が確認されおり、七尾市(原発が立地されている志賀町の東部)が7949棟と最も多くなっています。3月末の時点で全壊被害は8420棟に達しています。また、石川県によると2月5日現在、5万2000棟あまりの住宅が損壊しているとされています。


「能登半島地震 被害の全体像は 復旧は いまわかっていること 人的被害 住宅被害 避難 断水 停電【19日】 NHK 令和6年能登半島地震」より引用


避難者数:1月1日~10日ごろまでは最大で約3万4000人に達していましたが、1月19日現在、石川県内の市や町が設ける避難所では、あわせて1万3934人が避難生活を余儀なくされおり、3月末の時点でまだ8100人が避難しています。災害関連死を防ぐとともに、当面の落ち着いた生活環境を確保するため、ホテルや旅館などに移ってもらう「2次避難」は1月10日以降増え続けていますが、1月19日の時点で、県が確保した3万人分に対して2075人にとどまっています。

断水状態:厳しい状況が続いています。1月19日の時点で、合わせておよそ4万9990戸で断水が続いています。七尾市、輪島市、志賀町、能登町、珠洲市、穴水町では火災以降、ほぼ全域で断水が続いていました。3月末の時点では、玖珠市ではまだほぼ全域でまだ断水が続いています。

停電状態:1月19日の時点でおよそ7500戸が停電となっています。全体として減少傾向となっていますが、輪島市ではピーク時の約半数で停電が続くなど、依然、各地で厳しい状況が続いています。

道路の寸断:1月8日付け日経デジタル版によれば《国土交通省や石川県などによると、発生7日目の1月7日時点で「能登半島の大動脈」とされる国道249号は少なくとも25カ所で土砂崩れや道路陥没など、35路線83カ所が復旧されていません。不通となった道路には緊急道路も多く含まれていた》とされています。

この他に津波による被害(津波の高さは3メートル程度であったとされており、津波による浸水の被害が生じています)や海中の地盤が大きく隆起したために(最大でおよそ4メートル)漁港が使えなくなるなどの被害が生じています。また、通信インフラが被害を受け、非常時に携帯電話(スマホ)で通信ができないなどの障害が発生していたとされています。
(以上の各種の被害に関する数値は主に1月19日付けの上記のNHKのレポートにおけるものです)


【能登半島地震により生じた志賀原発のトラブルについて】

能登半島地震の震源地となった能登半島の先端に位置する玖珠市にはかつて「玖珠原発」の建設が計画されたことがありますが住民運動により計画は放棄されました。しかし、前述のように玖珠市から約60キロ隔てた地点に北陸電力の志賀原発が立地されており、緊急時に住民の避難あるいは屋内退避が必要とされる半径30㎞圏内にはおよそ6万世帯、約15万人が住んでいます。能登半島地震が起きた時には、1号機も2号機も運転を休止していました。しかし、地震の直撃は免れたものの、発電施設に様々なトラブルが発生していました。このため原子力規制委員会は1月10日に、再稼働に向けて現在審査中の2号機に関して、このたびの地震の知見を収集するように規制員会の事務局である原子力規制庁に指示しています。

能登半島地震による志賀原発への主な影響(トラブル)の内容

能登半島地震が起きた際、志賀原発の1号機も2号機も運転停止中でしたが、地震の影響・地震によるトラブルは北陸電力と原子力規制庁の資料によると以下のようなものとされています。

・1号機も2号機も、福島原発事故以前の旧原子力安全・保安院時代の揺れに関する想定をわずかに上回っていた(3月4日付の原子力資料情報室のレポートによれば、地表で震度5弱、1号炉の原子炉建屋最下階の床面で最大加速度399.3ガル(注参照)
(注:「ガル」は最大加速度のことで、地震の揺れの強さを表すのに用いる加速度の単位。「加速度」とは単位時間あたりの速度の変化率のこと)

・1号機の使用済み燃料プールの冷却ポンプが地震後に約40分間停止。672体ある使用済み核燃料を冷やすことができない状態になったが、プールの水温の上昇はなかった。

・1号機も2号機も、外部電源を受ける位置の変圧器が故障。別系統の外部電源からの受電に切り替ええた。2万リットル以上の油が漏れた。

・原発敷地前の海面で油膜の存在が確認された。2号機の変圧器から漏れ出た油が側溝を経て海へ流出した可能性が大きい。

・1号機で約95リットル、2号機で約326リットルの水が燃料プールからこぼれた。放射能の総量は約1万7000ベクレルと4600ベクレルであったが、外部への影響はなかったとされている。

・海側に設置されている波高計などから、高さ4メートルの津波が確認された。原発の敷地は標高11メートルであり、影響はなかったとされている。

・津波対策として、海水を引き込んでいる水槽の周囲に設けた高さ4メートルの防潮壁の一部が数センチ傾いた。

・1号機の原子炉建屋近くで道路の段差が生じていた。

・モニタリングポストのトラブル:これらのトラブルの外に、地震後、原発敷地外の周囲の区域に設置されていた放射線量を測定するモニタリングポスト116カ所のうち、主に北側15キロ以遠の18カ所で測定できない状態になっていたことが明らかになっています。
なお、北陸電力は3月25日に、志賀原発の敷地内を調査した結果、地震前と比べ平均4センチの地盤沈下を確認したと発表しましたが、記者会見で「変動は小さく(安全確保に)影響はない」としていました。

 震源から約60キロほど離れた地点において、震度5弱程度の揺れでこのような様々な影響やトラブルが生じていたのですから、このたびの地震が志賀原発により近接した地点を震源としていたならば、より重大な深刻なトラブルが生じ、ひいては大事故に至っていた可能性があるのではないかと考えられます。
(上記の志賀原発における各種のトラブルに関しては、原子力資料情報室の4月3日付のレポート「能登半島地震で志賀原発では何が起きているのか | 原子力資料情報室(CNIC)」がより詳細にその内容と問題点を報じています)。

【原子力防災問題:原子力防災計画の法的背景と懸念されるその実効性について】

このたびの能登半島地震による被害の概要と能登半島の志賀町に立地されている北陸電力志賀原発における地震に起因していたと考えられるトラブルの概要は以上のとおりですが、この地震に際して、被害の大きさとともに大きく問題として浮上したのは、原子力防災のあり方であると言わなければなりません。すなわち、原発の敷地外に放射性物質が大量に拡散するような重大な事故が起きた場合、果たして原発周辺の住ちが、避難や退避などを行うことにより、確実に無事に難を逃れることができるのかという問題が浮上しました。各地の原発に関して、原発が立地されている自治体がそれぞれ「原子力災害対策」と称される原子力防災計画を策定しています。しかし、これまでもその実効性については疑問が持たれていたのですが、このたびの能登半島地震により半島全域で道路が寸断されたり大規模に家屋・ビルなどが倒壊したなどの事実は、原子力災害から住民を守るための最も重要な手段であり、いわゆる「多重防護」(注:5段階のレベルから成る原発敷地内と敷地外における防災対策)の最後の段階における防護手段であるところの原発敷地外における原子力防災計画の中心的な内容である「迅速な避難あるいは屋内退避」に関する計画は実効性に著しく欠けているのではないかという疑念を抱かせるものであると言わざるを得ません。たとえば、このたびの地震では志賀原発は震源である玖珠市から約60キロ離れていたため、かろうじて地震の直撃を免れた形になりましたが、震源がもっと近くであり、そのために志賀原発で放射能漏れなどの重大事故が起きていたならば、志賀原発付近の避難路の多くが寸断されていたため、避難や退避の計画を実行することができず、志賀原発周辺の住民は避難ができない状態という非常に危険な状態に陥っていたのではないか、また多くの家屋が倒壊していたために自宅などで「屋内退避」を行うことができない状態に置かれたのではないかと考えられます。

原発への賛否に関係なく、現実に原発が存在している限りは、確実な実効性を有する原子力防災計画を欠かすことができないことは自明です。この意味から、能登半島地震による被害の実態を念頭において、現行の原子力防災計画の法的枠組み、その内容と問題点、原子力防災計画に関して責任を負うべき政府の機関すなわち原子力規制委員会の方針・姿勢などについて、以下に説明を記します。

1:原子力防災計画、その法的な枠組と主な内容

《原子力災害対策特別措置法》

原発に起因した原子力災害を防ぐための基本となる法制度として、「原子力災害対策特別措置法」が制定されています。この法律は1999年9月30日に東海村のJCO(ウラン関連施設を有する企業)で臨界事故が起き、強い中性子線を浴びために日本国内で初めて事故被曝による死亡者(2名)が出たことを契機に、1999年12月27日に制定されました。この法律では、主に原子力防災に関する電力事業者の義務、非常事態が生じた場合の政府が採るべき対応、すなわち原子力緊急事態宣言の発令(注参照)、原子力災害対策本部の設置などに関する事柄が規定されていますが、原発が立地されている自治体の原子力防災計画に関する具体的な事柄は主な対象とはされていません。
(注:2011年3月に起きた東電福島第一原発事故に際して初めて原子力緊急事態宣言が発令されましたが、この宣言は事故から13年経ているものの未だに解除されていません)

《原子力災害対策指針》

 現在、原発が立地されている自治体ならびにこれらの自治体に隣接している自治体(道府県)では原子力災害対策が策定されています。これらの自治体による対策は、上記の原子力災害対策特別措置法の下で原子力規制員会が定めた「原子力災害対策指針」に基づいて策定されており、この指針において、緊急事態における原発周辺の住民に対する放射能の影響を最小限に抑えるための防護措置などが示されています。また、各地域における原子力災害対策()原子力防災計画は「災害対策基本法」により定められた地域防災対策の一部という形で、すなわち「地域防災計画原子力災害編」として、地域の事情を把握している当該の自治体により策定されることになっており、そのため国は地域防災計画原子力災害編のひな型として、原子力災害対策マニュアルを当該の自治体に提供しています。2022年4月1日現在で対象となる37道府県、140市町のすべての地域で計画は策定済みとなっているとされています。

・原子力災害対策重点区域(PAZとUPZ)
 原子力災害対策指針における最も重要な内容は、「原子力災害対策重点地域」に関する事柄です。すなわち、原発で重大なトラブルが起きてその影響が及ぶ可能性がある区域には、重点的に原子力災害に特有の対策を講じておく必要があるため、「原子力災害対策重点地域」が定められています。原子力災害対策指針では、原発からの距離に応じて以下の示す2種類の区域が定められています。

「予防的防護措置を準備する地域」(略称PAZ):原発から半径おおむね5キロの地域:原子力災害対策指針によれば、原発に異変が生じた場合、原則5キロ圏の住民は避難するとされています。

「緊急防護措置を準備する地域」(略称UPZ):原発から半径おおむね5~30kmの地域:指針によれば、この地域では住民は屋内退避でしのぎ、空間線量が一定水準に達したら避難に移行します。

国際原子力機関(IAEA:国連の保護下にある自治機関)では、PAZの範囲は3~5km、特に5kmを推奨しており、UPZに関しては5~30kmを推奨しています。これらの範囲は、放射線による影響をはじめ1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故の事例や屋内退避や避難を速やかに行うことができるかどうかなど、対策の実行可能性を踏まえて提案されたものとされています。日本の原子力災害対策指針においては、これらのIAEAによる基準を踏まえ、さらには福島第一原発の事故で実際に影響が及んだ範囲なども考慮に入れて、原子力災害対策重点地域の範囲が設定されているとされています。

PAZは事故が急速に進展する場合に、何よりも住民の放射能による影響を回避することを優先することを念頭に置いたものとされており、住民の避難、安定ヨウ素剤の服用などの予防措置を準備する区域とされています。UPZは緊急事態の時に、放射線被曝によるリスクを最小限に抑えるために、屋内退避、安定ヨウ素剤の服用などの防護措置を準備するとされています。すなわち、原発で大事故が起き放射能が原発の敷地外に拡散することが懸念される場合には、事故直後に、PAZ内の住民は避難、UPZ内の住民には屋内退避を迫られることになります。

2 原子力災害対策の実効性が明らかに疑われる具体的な事例

以上に国が規定している原子力災害対策の主な内容の説明を記しましたが、次に原子力災害対策指針に基づいて策定された防災計画の実効性が明らかに疑われる具体的な例を示します。

《能登半島地震における具体的な例》

能登半島地震では志賀原発は震源から約60キロ離れていたにもかかわらず志賀原発周辺、半径30kmの範囲内の道路は以下の図から分かるように、志賀原発付近のほとんどの道路で実際に寸断箇所が存在していたことが明らかにされました(東京新聞デジタル2024年3月11日による下記の地図を参照)。


また、2024年3月8日付の朝日新聞によれば、11の避難ルートのうち7ルートが寸断されたと報じられています。このような能登半島地震に際しての志賀原発付近の道路に関する実態を考えるならば、志賀原発で重大な事故が発生したならば、少なくとも事故発生から短時間のうちに4市4町が位置している半径30kmの地域より以遠に住民が避難することが極めて困難であることは誰の目にも明らかです。また、能登半島地震に際して震源地であった玖珠市だけでなくこれらの志賀町を含むこれら4市4町の地域においても多数の家屋・ビルなどが倒壊していたことが明らかになっており(3ページに示した地図を参照)、このため志賀原発で事故が起きて屋内退避が必要になっても、退避する場所がほとんど存在していないことになります。すなわち屋内退避は事実上、不可能に近いと言えます。

また、石川県は志賀原発で重大な事故が起きた場合に備えて、高齢者らが一時避難するための施設である「放射線防護施設」(気圧を調整して放射性物質が入り込まないようにするなどの対策が講じられている学校や体育館、病院などがこの施設に指定されている)を21カ所に設けていましたが、能登半島地震によりそのうちの6施設において損傷や異常が生じていたことが2月21日に判明していました。このため、2施設は使用に耐えないため閉鎖され、患者らは病院など別の施設に移されました。さらに、断水状態が21のすべての施設で起きていました。また、閉鎖された1施設は被曝を防ぐ機能を維持することができず、残りの5施設も地震後長期間、機能の確認ができませんでした。これらの事実は緊急時に支援を必要とする住民を守ることができない恐れがあることを意味しています。内閣府によると、全国の原発周辺には計約300の防護施設があるものとされていますが、能登半島地震による上記のような被害の大きさを考えると、各地における防護施設による避難・退避計画の実効性に疑問を持たざるを得ません(以上の放射線防護施設に関する内容は主に2024年2月21日の共同通信の記事、同3月7日の朝日デジタル版記事による)。また、前述のように、志賀原発の敷地外に設置されているモニタリングポストが一部ではあるものの地震により機能しなくなっていたことが明らかになっています。

《原発が立地されている全国の市町に共通した原発災害対策の実効性が疑われる具体的な事例》


 建設中を含む国内19における原発の30キロ圏の地域を有する自治体のうち、18道府県の計109の市町村において、地震などの災害時の緊急輸送道路が土砂崩れなどにより寸断される恐れがあることが3月8日に明らかにされています(2024年3月8日の共同通信による)。これは国交省が公開している地理情報データに基づき、道路が土砂災害警戒区域を横断しているかを共同通信が分析した結果の数字です。この値は30キロ圏に含まれる21道府県の計138の市町村の79%に当たります。土砂災害警戒区域に指定されていることが必ず土砂災害が起きることを意味しているわけではありませんが、これらの数値は、原発が立地されている市町村の大半において、原発で重大な事故が起きた際に住民の避難に大きな支障が出る恐れが多分にあることを意味しています。避難道路を事前に定める必要がある原発30キロ圏に関する調査の結果、国道や県道など109市町村で延べ500本の緊急輸送道路が警戒区域を通っていたとされています。このような状態は、多くの原発が人口密度の低い地形が険しい不便な地域に近接して立地されていることが影響しているものと考えられます。すなわち、原発のこのような立地手法そのものが実効性を有する原子力災害対策を立案することを困難にしていると言えます。

【原子力防災に関する国の姿勢:原子力防災計画の実効性が疑わるにもかかわらず、原子力災害対策指針の抜本的な見直しを行おうとしない原子力規制委員会】

以上に記したように、原発事故が起きた際に原発周辺の道路が寸断され住民が避難できない事態に陥る懸念が存在していることなど、現行の原子力災害対策指針に従って原発が立地されている自治体が策定している原子力防災計画はその実効性に大きな疑問を抱かせるものであると言わざるを得ません。このため、最近、能登原発地震を受けて原子力災害対策に疑問を呈する声があちこちで挙がっています。   

たとえば、東電は3月28日に柏崎苅羽原発(新潟県)の7号機について、4月に原子炉内に核燃料を装填することを申請することを全体に再稼働の準備を進めていますが、能登半島地震を受け、原発の事故時の防災対策をめぐって県民の不安は高まっており、このため新潟県議会は3月22日の本会議で、国に原子力災害対策指針の見直しを求める決議を、自民党も含めて、全会一致で採択しています。能登半島地震により新潟県でも液状化(注:地下水位の高い砂地盤が振動により液体状になる現象)による家屋損壊や道路の陥没が起きたことを踏まえ、意見書は「現状の原子力災害対策指針では、住民を安全に避難させることはできない」と厳しく批判しています(以上は2024年3月28日の東京新聞デジタル版による)。また、自治体からも、今回の地震後から、住民の避難や退避に関して原子力災害対策指針の見直しが必要とする声が出始めており、たとえば志賀原発が立地されている志賀町の稲岡健太郎町長は、県などによる避難訓練に言及して「海にも空にも逃げらない」と述べています(以上は2024年2月6日東京新聞デジタル版による)。一方、運転開始から40年を超える老朽化原発である関電の美浜原発3号機と高浜原発1~4号機に関する住民による運転差し止めの仮処分申請に関して、3月29日に福井地裁が却下の決定を下しましたが、住民側は能登半島地震で道路寸断や建物の倒壊が生じていた事実に基づき「地震による原発事故が起きたら、屋内退避も避難もできない」と訴える書面を提出していました。福井地裁による判決は、避難計画の実効性の判断には踏み込みませんでしたが、弁護団は「機能しない避難計画しかなくても稼働を認めるとする決定は、救命ボートを備えていない船舶に航行することを認めて住民を見捨てるものだ」と批判しています(以上は3月30日付け朝日新聞による)。

しかしながら、原子力規制員会が策定した原子力災害対策指針の実効性に関して上記のような疑問が呈されているものの、原子力規制委員会の山中伸介委員長は1月17日の会見で「能登半島地震の状況を踏まえると、現在の原子力災害対策指針で不十分であったかというと、そうではない」としており、また1月31日の会見では「自然災害に対する防災に関しては、見直しが必要な部分があるだろうと思うが、自然災害への対策は、原発災害対策指針そのものの話ではない。原子力災害対そのものを見直さないといけないとは考えていない」と述べ、指針の本格的見直しではなく指針の微修正に留める考えであることを示していました。

その後2月14日の定例会合で、指針の見直しについて、原発の事故時に被ばくを避けるための住民の退避の手法(屋内退避を続ける日数や退避解除の判断基準など、現行の指針に明記されていない詳細な条件)に限定して議論するという方針を、5人の委員の全員一致で決めています。すなわち、能登半島地震に際して家屋の倒壊や道路の寸断が多発し屋内退避や避難が困難であることが判明したにもかかわらず、それらの課題を対象にせず、指針の細部に関する検討を行うことに決定しました。同日の会見で山中委員長は「家屋の倒壊や避難ルートの寸断などの問題は原発が立地されている自治体側の検討課題である」と強調し、「自然災害への対応は我々の範疇外」と繰り返し述べ、「(原発の事故時に)屋内退避ができるという前提で今後議論するのか」という質問に対して「そのような考え方で結構」と答えています。

このような避難や退避の可能性の有無やその程度に関しては議論しないという山中委員長の態度は、原発が立地されている自治体が策定するオフサイト(原発敷地外)における避難計画などの対策は規制委員会による審査の対象外であり、規制委員会は自治体による原発災害対策に関しては、その策定に際して助言を行うなど限定的な役割しか担っていないという考え方に由来したものではないかと考えられます。また、このような考え方の背景には、本格的に原子力災害対策指針の見直しを行ったならば、すなわち住民の避難や退避の可能性という問題も視野に入れて検討を行ったならば、原発が立地されている各自治体は実現可能な防災計画を作り上げることができず、その結果として原発を動かすことができなくなる事態に至ることを懸念しているという事情が存在しているのではないかとも推測されます。

 指針を微修正していくら避難や退避に関する細かな条件を定めても、退避や避難の実現可能性が改善されることにならないことはだれの目にも明らかです。今必要とされているのは指針の微修正ではありません。規制員会は、自然災害に対する原子力防災対策は検討の対象外とするご都合主義の方針を改め、避難や退避の対策に関する実効性を高めるために指針の本格的見直しに着手すべきです。

【原子力防災問題に関する結論】

国・原子力規制委員会は原発が立地されている地域における実効性を有する原子力災害対策を策定し実行することに責任を負わなければなりません。原子力災害対策が実効性に欠けるものである場合は原発の稼働を許してはならなりません。

 上記のように今後規制委員会が原子力災害対策指針の見直しを行うに際して、重大な原発事故が起きたならば住民が避難や退避を行うことができない状態に陥りかねないという原子力防災上最も重要な問題を視野に入れずに検討を行うことに終始するならば、実効性を有する原子力災害対策の策定を期待することができないことは、一目瞭然です。原発推進を国策としている限りは、国は、規制委員会は、確実な実効性を有する原子力災害対策の策定に関して責任を負わなければなりません。実効性を有する災害対策を策定することの責任は、少なくともその最終的な責任は、原発が立地されている自治体にあるのではありません。その責任は国と原子力発電の事業を行っている電力事業者にあるのです。

現在、運転期間が40年を超えており最長20年間の延長が認められている東海第二原発(日本原電、茨城県東海村)の再稼働に関して、再稼働させないよう求めてい茨城県内など9都・県の住民による訴訟の控訴審が東京高裁で進行中ですが、この訴訟の一審において水戸地裁は、2021年3月に、住民の避難計画に不備がある(注:半径30キロ以内に全国最多の94万人が住んでいます)として、運転を認めない判決を下しています。この判決は原子力災害対策が住民の避難や退避に関して実効性に欠けている場合は原発の運転を行ってはならないことを意味しており、これまでにない極めて重要な判決と言わねばなりません。原発の運転よりも住民の安全の方が大切という意味で、当然の判決であると言えます。国と原子力規制員会は司法によるこの判断を真摯に受け止め、このたびの能登半島地震における住民の被災の状況を直視し、確実な実効性を備えて原子力災害対策の策定に責任を負わなければなりません。

経産省の平成27年5月の資料「各国における原子力災害対策]によれば、日本では「(平時には)原子力災害対策を含む地域防災計画は自治体が策定し(国への提出義務はない)、国は策定に際して自治体への助言・勧告する」とされています。すなわち、原子力災害対策指針を策定している国の機関である原子力規制員会は、原発立地自治体による原子力災害対策に責任を負うのではなく、単に自治体に助言 や勧告を行うことに留まっています。一方、米国の場合は、日本と同様に「国は事業者及び地方自治体による緊急計画策定時の指針を作成する」とされていますが、それだけではなく「オフサイト(原発の敷地外)緊急計画の評価と審議を行う」ということも規定されており、評価や審議の結果その結果自治体が策定した対策が妥当なものとされれば、米国原子力規制員会が許可を与えるとされています(注:米国ではアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)による審査を経たうえで、規制委員会による審査が行われるとされています)。すなわち、米国の場合は、国(おそらく米国原子力規制員会NRCとFEMA)が、地元により策定された原子力災害対策が妥当なものであるか否かの判断を下すことにより、自治体による原子力災害対策に責任を負っていることを意味しています。すなわち評価と審議を行うことにより、国が原発災害対策の計画内容に責任を負っていると言えます。

原子力防災対策をより実効性を備えたものにするためには、ベストの方法であるか否かは明確ではありませんが、たとえば米国の例を見習って、国の機関すなわち原子力規制委員会が単に助言や勧告にとどまらず、原発立地自治体が策定した防災計画の実効性に関して審議・評価を行い、内容が妥当なものであれば自治体に許可を与えるという法的枠組みにしたほうが、国が責任を負うという意味において理にかなっていることは明らかです。さらには、上述の東海第二原発に関する水戸地裁の判決を念頭に置いて、規制委員会による評価・審議に際して自治体が策定した原子力防災対策が住民の安全な避難・退避に関して実効性が不十分であるとされた場合は、当該の原発の稼働を禁止することを法的に明確に規定しなければなりません。このような法整備を行わなければ、原子力規制委員会が原子力防災計画を審議し、その可否を判断することの意義は存在しません。

《終わりに》

地震の科学は地震学者らの研究により常に進歩しつつありますが、まだまだ未知の事柄が数多く存在しています。このため地震を正確に予知することは極めて困難です。このような状況の中で大地震に起因した原子力災害に完全に備えることは不可能に近いと言わざるを得ません。能登半島地震による惨状に鑑み、過酷な自然災害に加えて原子力災害という「人災」を二度と繰り返さないために、私たち市民は原発推進を国策としている国の方針に強く反対します。しかし、原発が現実に存在している限りは、自然災害に起因した原子力災害が起きる危険性は常に存在しています。この意味において、今後私たち市民は、能登半島地震を教訓に、できる限り高い実効性を備えた原子力防災対策を早急に実現するよう、政府・原子力規制委員会・電力業界に強く求めていかなければなりません。
 

2024年4月8日

《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進

〒520-0812
大津市木下町17-41
電話:077-522-5415
メールアドレス:ssmcatch@nifty.ne.jp
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脱原発 市民ウォーク in 滋賀 4月の予定

2024-01-24 00:08:01 | 記事
■地震が来るぞ!! 
■老朽原発高浜1・2号機&美浜3号機うごかすな!
■使用済み核燃料の行き場はないぞ!
■福島第一原発事故放射能汚染水流すな!
■止めろ!岸田政権の原発暴走!

 
◆ 第120回 脱原発 市民ウォーク in 滋賀 ◆

「老朽原発うごかすな!原発回帰への暴走をとめよう!-という声と行動が、
若狭・福井と関西・中京の都市圏をむすんで広がりつつあります。
・・・「一食断食」をよびかけます。

少しひもじさを体感しながら、フクシマの被災者に心を寄せ、
自らの子孫の未来に想いをはせるために、いつでも、どこでも、だれでも、
ひとりでもできる実践です。」(中嶌哲演・『はとぽっぽ通信』2023.6) 

1450万人の近畿の水源=びわ湖と私たちの未来=子どもたち孫たちを守りましょう!
ご一緒に歩きましょう! 参加無料! 予約不要! 

2024年 4月13日(土)13:30  JR・京阪膳所駅前集合  

★コース = ときめき坂 ~ 元西武大津ショッピングセンター前 ~ 関電滋賀支社前~
       ~ びわ湖畔

☆主 催=21世紀 脱原発市民ウォーク in 滋賀 実行委員会
☆呼びかけ人・・・池田進(原発を知る滋賀連絡会 電話077-522-5415)
         岡田 啓子(ふぇみん@滋賀 電話077-524-5743)
         稲村 守(9条ネット・滋賀 電話080-5713-8629)


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<トピックス> 










2月は、4日の井戸謙一講演会後のデモ、
3月は、9日のびわこ集会後のデモに参加します。


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「脱原発 市民ウォーク in 滋賀」 チラシのダウンロードは ⇒ コチラ

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核廃棄物を 地下深くに埋めて 最終的に処分するという国の方針は 誤りではないか?

2024-01-11 20:45:58 | 記事
《第119回・脱原発市民ウォーク・イン・滋賀のご案内》

あけましておめでとうございます。
今年最初の脱原発市民ウォークを1月20日(土)におこないます
(JR膳所駅前広場:午後1時半)。

どなたでも、ご自分のスタイルで自由に参加できます。
寒い中ですが、ご都合のつく方はぜひ足をお運びください。


■■ 核廃棄物を地下深くに埋めて最終的に処分するという国の方針は誤りではないか? ■■

◆地質学の専門家ら有志300人余が、核廃棄物の「地層処分」に根本的な疑問を呈する声明文を発表
 →→「世界最大級の地層の変動帯である日本に、核廃棄物の地層処分に適した場所は存在しない」◆


はじめに

原子力発電に伴う最大の問題は、言うまでもありませんが、大規模な事故が生じて人間を含む生物生息環境に取り返しのつかない大規模な被害を与える危険性が常に存在していることです。しかし、事故の問題以外に、たとえ事故が起きなくても、もう一つ、決して避けて通ることができない問題、解決が極めて困難な深刻きわまる問題が存在しています。それは、原子力発電を行えば必ず生じる危険な放射性廃棄物をどのような方法により十分な安全性を伴って最終的に処分するのかという問題です。たとえ原発が廃止されても核廃棄物の最終処分という難題は残ります。

原発を保有している欧米諸国で計画されている放射性廃棄物を最終的に処分するための方法の多くは、地下の深い場所(数百メートルの深さ)に処分場を設け、この処分場に放射性廃棄物が容れられた放射線を通さない容器に収容し、その後、人間が近づくことができないように処分場全体を埋め戻してしまうというものです。いわゆる「地層処分」と称されている方法です。

現在、日本は欧米における計画を見習って「地層処分」を行うことを前提に、使用済み核燃料を再処理した後に生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分場を建設することを計画しており、このため政府は現行の最終処分に関する法律に基づき設けた機関が処分場候補地の選定作業を積極的に進めています。

政府が高レベル放射性廃棄物の最終処分の方法として「地層処分」という方法を採用していることの法的根拠としているのは「特定放射性廃棄物(注参照)の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号)(以下「最終処分法」と記す)における規定です。すなわちこの法律の第2条(定義)の2項において「この法律において『最終処分』とは、地下300m以上の政令で定める深さの地層において、特定放射性廃棄物及びこれらによって汚染された物が飛散し、流出し、又は地下に浸透することがないように必要な措置を講じて安全かつ確実に埋設することにより、特定放射性廃棄物を最終処分することをいう」と「地層処分」の定義が定められており、また第3条(基本方針)の1項において「経済産業大臣は、特定放射性廃棄物の最終処分を計画的かつ確実に実施させるため、特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針を定め、これを公表しなければならない」と定められています。この法律の文言からは、最終処分に関する基本方針は「地層処分」を前提としたものであることが分かります。

(注:「特定放射性廃棄物」という用語は、正確には使用済み燃料の再処理後に生じる高レベル放射性廃棄物を溶融したガラスと混ぜ合わせた後に固体化したものを指します)。
しかしながら、地層処分という方法を核廃棄物の最終処分の方法として採用するためには、激しい地殻変動などにより地下深くに処分された放射性廃棄物を収容している容器が破壊されることなどにより、放射性物質が周囲に漏れ出て地下水により汚染が極めて広範囲に広がるという非常に危険な破局的な事態が生じることを確実に回避することが必要とされます。そのためには、処分場とされる土地の地質が少なくとも数十万年という長期にわたり激しい地殻変動が起きる可能性が極めて小さなものであることが必要とされます。ところが、日本は世界有数の火山国であり、地震の原因となる活断層が多数存在しているなど、日本の地質は欧米大陸などと比べて極めて地殻変動が生じやすいものであるという事実を考えるならば、日本に最終分に適した土地が存在するのか、日本が地層処分を計画することは果たして適切であるのか、疑問を抱かざるを得ません。

地質の専門家たちの中にも日本が地層処分を計画していることを疑問視している方々が少なからずいます。このため昨年の10月30日、日本地質学会会長の経験がある二人の人物を含む地質の専門家ら有志300人余りが、「世界最大級の(地殻)変動帯の日本に、地層処分の適地はない―現在の地層処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を」と題した、日本が高レベル放射性廃棄物の地層処分を行うことに根本的な疑問を呈し、現存の最終処分に関する法律を廃止し、原発政策の根本的見直しを求めるとする声明文を発表しました。この声明の呼びかけ人の代表者は赤井純治氏(元新潟大学)です。

この声明文は発表されたことは一般のメディアでは小さくしか報じられていませんが、呼びかけ人からの要請を受けて、「原子力資料情報室」がその全文を2023年11月21日付けのホームページで公表していました。このため以下に声明全文の内容と補足説明などを記します。ご一読くださり、放射性廃棄物の最終処分という、原発がある限り避けて通ることができない極めて厄介な問題について考え理解を深めてるための一助にして頂ければ幸いです。また、この声明に先立ち、日本学術会議と日本弁護士連合会も最終処分問題に関して、提言や決議を行っているため、その内容についても記しておきます。

【世界最大級の変動体の日本に、地層処分の適地はない。現在の処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を:2023年10月30日―地質の専門家ら有志】

以下に記す声明の内容は、より理解を容易にするために多少リライトして若干の説明を加えています。また、必要な個所に注釈を記しておきました)

現在、高レベル放射性廃棄物(以下、「核のゴミ」と記す)の最終処分場選定の第一段階である「文献調査」が北海道の寿都町と神恵内村で進められ調査結果の報告を待つ段階にあります(2023年5月現在)。文献調査の公募は2002年に開始され、その後2005年には「地層処分の適地・不適地」を示したとする「科学的特性マップ」を公表することにより候補地選定の働きかけを強めています。しかし、この「科学的特性マップ」は適地を示すというよりは、明らかな「不適地」を除外しただけにものに過ぎず、ただ処分地の選定を進めやすくすることを意図したものに過ぎないのではないかと思われる性質ものです。しかし、その後、政府は原発を積極的に推進するためにこれまでの原発政策を大幅に変更し、原子力基本法に原発推進の文言を盛り込むなど関連法規の改定案を国会で成立させており、そのため例えば原子炉の運転期間が延長され60年超の原発の運転が可能になっています。
このような原発推進政策の一環として、核のゴミの地層処分候補地をより広範に募集するために、これまでは「原子力発電環境整備機構」(NUMO:注参照)のみが行ってきた募集作業を、今後はより広範な地域を対象として、関連する政府の諸機関が一体となって主導し推進するとしています。このため今後、全国の様々な地域で核のゴミの処分を巡る議論が起きることが考えられます。

核のゴミは、その放射能が天然のウラン鉱石と同程度のレベルになるまでに10万年を要するとされており、このため、地下300mに10万年間埋設されることになるとされています。しかし、火山国・地震国とも言われ、地殻変動が活発に日本において、10万年ものあいだ核のゴミを地下に安全に埋設できる場所があるのでしょうか。私たちは地球科学を専門とする研究・技術・教育の現場に携わる立場から、以下に示す理由に基づき核のゴミを地層処分する計画の抜本的見直しを求めるものです。

〈理由1〉:日本の地質条件を無視した最終処分に関する法律 

核のゴミを地層処分することは2000年5月に国会の議決により制定された「特定放射性廃棄物の最終処分」に関する法律」(以下「最終処分法」と記す)に基づいて決定されました。次いで2000年10月に、地層処分を行う事業主体として「原子力発電環境整備機構」が設立されました。政府がこの法律を国会に提出したのは、1980 年代からの地層処分政策の延長として、1999 年に核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が作成した「我が国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性─地層処分研究開発第2次取りまとめ─」が総理府原子力委員会(2001 年からは内閣府)に提出され、そこに地層処分が技術的に実現可能であると述べられていたことによるものです。その根拠は、1984 年に出された総理府原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会中間報告書の「放射性廃棄物処理処分方策について」において、「地質条件に対応して必要な人工バリア設計で、地層処分システムとしての安全性を確保できる見通しが得られた」というものです。つまり未固結(注参照)の堆積物だけを除き、岩石の種類を特定しなくても、地質条件に対応した人工バリア技術で安全性が確保できるというものでした。人工バリア(人工の障壁)とは、以下のようなものです(注:未固結=土粒相互間の結合力が弱く、土粒子の分離が比較的容易である状態)。

まず、使用済み核燃料を直径40cm、高さ130 cmの円柱状のガラス固化体に封じ込め、それを厚さ20 cmの金属(炭素鋼)で覆い、さらに70 cmの粘土(ベントナイト)で覆います。これが「人工バリア」です。ガラス固化体は、製造当初は人が1メートル離れた場所に数10秒いるだけで死に至るほどの強い放射線を出します。最終的には、合計4万本を地下300m以深の処分地に置く計画であるとされています。しかし、人工バリアの安全性は実験段階であり、安定状態での仮説でしかありません。極めて長期に渡り強い放射線を浴び続けるものが日本のような地質条件の中で強い放射線のバリアとして機能し続けることは誰も保障できません。

日本の地質条件は果たして地層処分に適したものでしょうか。現在、地下の岩盤に核のゴミを貯蔵・処分する地層処分は、世界の国々で検討されています。フィンランドは世界で唯一処分場を建設中であり、スウェーデンでは処分場の場所が決定されています。北欧の地質条件は、楯状地(注1参照)である原生代(注2参照)の変成岩・深成岩であり、地震活動がほとんど起こらない安定陸塊(注3参照)であるのに対し、日本列島は複数のプレート(注4参照)が収束する火山・地震の活発な変動帯です。そのような地質条件の違いを無視して、北欧の地層処分と同列に扱い、人工バリア技術で安全性が保障されるとみなすのは論外と言わねばなりません。

(注1:楯状地=一般的に、構造地質学的に安定している、先カンブリア時代の結晶質火成岩と高度変成岩が露出する広い地域を指す。先カンブリア時代=地球上で研究できる最古の岩石の年齢である38億~40億年前に至る約34億年が「先カンブリア時代」と称されています)
(注2:原生代=真核単細胞生物から硬い骨格を持った多細胞生物 の化石が多数現れるまでの25億年前?約5億4,100万年前の時期を指す)
(注3:安定陸塊=長い間地殻変動を受けなかった地帯)
(注4:プレート=地球の表面を覆う、十数枚の、厚さ100kmほとの岩盤のこと)

〈理由2〉地殻変動の激しい、安定地塊でない日本列島

火山国とも地震国とも言われる日本は、地殻変動が極めて活発です。世界最大級の変動帯(注1参照)の日本において、今後10万年ものあいだ、核のゴミを安定的に保存できる場所を選定できないことは地球科学を学ぶ者にとっては、容易に理解できることです。変動帯であるがゆえに、構造運動の影響も受けやすく、岩盤も不均質で亀裂も発達し、脆弱な個所もみられ、割れ目に地下水が存在しやすくなります。火山活動と地震活動は、太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートがそれぞれ衝突・沈み込むことによる巨大で複雑な力を背景に発生していますが、日本はこれらの四つのプレートの境界という地球上で最も地殻変動が活発な地域に位置しています。活断層は、このような構造運動を原因とする上部地殻のひずみの集中域で発生する地震活動の現れと考えられます。その分布については研究がかなり進んでいるにもかかわらず、活断層が確認されていないところでも、しばしば大きな地震が発生しています。たとえば、2018 年の北海道胆振東部地震(M6.7)は、活断層である石狩低地東縁断層帯の東側約 15km、しかも 20~40 km の上部マントル(注2)に達する深度で発生しました。地下深部の地下水は、一般的にはきわめて流速が遅いと言われていますが、もしこのような地震が処分場を直撃したら、周辺の地質条件の変化で、いかようにも流動・流速に変化を生じ、人工バリアに亀裂が発生し、周囲の岩盤の無数の割れ目や断層に沿って地下水とともに放射性物質が漏れ出すことは避けられません。激しい変動帯の下におかれている日本列島において、今後 10 万年間にわたる地殻の変動による岩盤の脆弱性や深部地下水の状況を予測し、地震の影響を受けない安定した場所を具体的に選定することは、現状では不可能といえます。

(注1:変動帯=活発な地殻変動や火山活動がみられる帯状の地帯。プレートの境界に沿ってみられるとされている)
(注2:上部マントル=地表から5~60kmに位置する「地殻」の下方に位置する、「マントル」と称される地層における上部の部分)

〈提言3〉最終処分法の廃止と原発政策の見直しを

以上に述べた理由から、核のゴミを地下300メートル以深に埋設する最終処分法は、プレート境界域である活発な変動帯の地質条件を無視した、人口バリア技術を過信した法律に基づくものであると言わざるを得ず、このため抜本的な見直しが必要です。

日本学術会議は2012年9月に、原子力委員会からの審議依頼に対する回答を公表しています。その中で、超長期にわたる安全性と危険性に対処するにあたり、現時点での科学的知見には限界があるとして、核のゴミを地層処分することを前提とした従来の政策の抜本的見直しを求め、暫定保管と放射性廃棄物の総量管理を柱として、政策の枠組みを再構築することを提案しています。暫定保管というのは、一定期間地上で保管することを意味しています。この地上での保管の期間中に、核のゴミの最終処分の方法を確立する必要があります。総量規制とは、放射性廃棄物の量をこれ以上増やさないために、厳しく量の規制を行うことを意味しています。

これらの検討経過を見るならば、科学的根拠に乏しい最終処分法を廃止し、地上での暫定保管を含む原発政策の見直しを視野入れ、地層処分ありきの従来の政策を検討しなおすべきです。再検討にあたってはて、地球科学にたずさわる科学者、技術者、専門家の意見表明の機会を、日本学術会議などと協力しながら十分に保障することが欠かせません。さらに、中立で開かれた第三者機関を設置し、広く国民の声を集約して結論を導くことが重要だと考えます。
・・・・・・・・・・・
以上が地学の専門家ら有志300人による声明の全文の内容です。この声明は、一言で要約すれば、「日本は世界有数の火山国・地震国であり、このため欧州大陸などとは異なり、地震などにより地殻変動が生じる確率が高いため、十万年もの長期にわたり核廃棄物を安全に保管することが可能な処分場の適地が日本に存在しているとは考えられない。このため地層処分という国の従来の方針を撤回し、暫定的な地上での保管を視野に入れ、地上保管の間に、地球科学の専門家などをはじめとして各方面の協力を得て、地層処分ありきという従来の方針の見直しを行うべきである」というものです。

この地学の専門家らによる声明文において、日本学術会議が核廃棄物の最終処分に関する提言を過去に(2012年9月11日)行っていると記されていますが、学術会議だけではなく、昨年9月には、日本弁護士連合会も地層処分に関する決議を行っています。このため、以下に日本学術会議の提言(原子力委員会からの審議依頼に対する回答)ならびに日本弁護士連合会の決議について、その概要を紹介します。なお、日本学術会議は上記の提言を行った後、2015年4月に、2012年9月の原子力委員会に対する回答に関してより具体的方策を提言としてとりまとめ公表しています。

日本学術会議の原子量委員会に対する回答(提言内容)は詳細な内容を伴った長文のものであるため、冒頭の「要旨」として示されている部分を中心に、その概要を以下に記します。(出典:日本学術術会議のホームページ)

【日本学術会議の高レベル放射性廃棄物の処分に関する原子力委員会への回答:背景と提言、2012年(平成24年)9月11日:日本学術会議】

回答作成の背景: 2010 年9月、日本学術会議は、内閣府原子力委員会委員長から日本学術会議会長宛に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて」と題する審議依頼を受けた。高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づく基本方針と最終処分計画に沿って、関係行政機関や原子力発電環境整備機構(NUMO)などにより、文献調査開始に向けた取組みが行われてきているが、文献調査開始に必要な自治体による応募が行われない状態が続いている。原子力委員会委員長からの依頼は、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについての国民に対する説明や情報提供のあり方について審議」を求めたものであった。

この依頼を受け、第21期の日本学術会議は、2010 年9月 16 日に課題別委員会「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」を設置し、設置期限の 2011 年9月末日までに、内閣府原子力委員会に対する回答を作成することを目標とし た。しかし、委員会発足から約半年後の2011 年3月 11 日、東日本大震災が発生し、これに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、わが国では、これまでの原子力政策の問題点の検証とともに、エネルギー政策全体の総合的見直しが迫られることとなった。そこで同委員会は、このような原子力発電所事故の影響およびエネルギー政策の方向性を一定期間見守ることが必要と考え、それまでの審議を記録「中間報告書」として取りまとめて第 22 期の「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」に審議を引き継いだ

《原子力委員会への提言》

提言の内容:本委員会は以下の6つを提言する。なお、これらの提言は、原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない、という判断に立脚している。

提言1:高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
これまでの高レベル放射性廃棄物処分に関する政策は、2000 年に制定された 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき進められてきたが、今日に至る経過を反省してみるとき、基本的な考え方と施策方針の見直しが不可欠である。これまでの政策枠組みが、各地で反対に遭い、行き詰まっているのは、説明の仕方の不十分さというレベルの要因に由来するのではなく、より根源的な次元の問題に由来することをしっかりと認識する必要がある。また、原子力委員会自身が 2011 年9月から原子力発電・核燃料サイクル総合評価を行い、使用済み核燃料の「全量再処理」という従来の方針に対する見直しを進めており、その結果もまた、高レベル放射性廃棄物の処分政策に少なからぬ変化を要請するとも考えられる。これらの問題に的確に対処するためには、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻すくらいの覚悟を持って、 見直しをすることが必要である。

提言2:科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
地層処分をNUMO に委託して実行しようとしているわが国の政策枠組みが行き詰まりを示している第一の理由は、超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界があるということである。安全性と危険性に関する自然科学的、工学的な再検討にあたっては、自律性のある科学者集団(認識共同体)による、専門的で独立性を備えた、疑問や批判の提出に対して開かれた討論の場を確保する必要がある。

提言3:暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第二の理由は、原子力政策に関する大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行して扱われてきたことである。広範な国民が納得する原子力政策の大局的方針を示すことが不可欠であり、そのためには、多様なステークホルダー(利害関係者)が討論と交渉のテーブルにつくための前提条件となる、高レベル放射性廃棄物の暫定保管 (temporal safe storage)と総量管理の2つを柱に、政策枠組みを再構築することが不可欠である。

提言4:負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第三の理由は、従来の政策枠組みが想定している廃棄物処分方式では、受益圏と受苦圏が分離するという不公平な状況をもたらすことにある。この不公平な状況に由来する批判と不満への対処として、電源三法交付金などの金銭的便益提供を中心的な政策手段とするのは適切でない。金銭的手段による誘導を主要な手段にしない形での立地選定手続きの改善が必要であり、負担の公平/不公平問題への説得力ある対処と、科学的な知見の反映を優先させる検討とを可能にする政策決定手続きが必要である。

提言5:討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
政策決定手続きの改善のためには、広範な国民の間での問題認識の共有が必要であり、多段階の合意形成の手続きを工夫する必要がある。前述の暫定保管と総量管理に関する国民 レベルでの合意を得るためには、様々なステークホルダーが参加する討論の場を多段階に設置すること、公正な立場にある第三者が討論過程をコーディネートすること、最新の科学的知見が共有認識を実現する基盤となるように討論過程を工夫すること、ならびに合意形成の程度を段階的に高めていくことが必要である。

提言6:問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識
高レベル放射性廃棄物の処分問題は、千年・万年の時間軸で考えなければならない問題である。民主的な手続きの基本は十分な話し合いを通して合意形成を目指すものであるが、とりわけ高レベル放射性廃棄物の処分問題は、問題の性質からみて、時間をかけた粘り強い取組みを実現していく覚悟が必要である。限られたステークホルダーの間での合意を軸に合意形成を進め、これに当該地域への経済的な支援を組み合わせるといった手法は、かえって問題解決の過程を紛糾させ、行き詰まりを生む結果になることを再確認しておく必要がある。また、高レベル放射性廃棄物の処分問題は、その重要性と緊急性を多くの国民が認識する必要があり、長期的な取組みとして、学校教育の中で次世代を担う若者の間でも認識を高めていく努力が求められる。
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 以上が高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、日本学術会議による原子力政策の決定過程の現状に関する問題点の指摘と今後の取り組みに関する具体的提言の内容です。一方、先述の地学の専門家らによる声明は、「質学的に観て日本の最終処分場を設けるための、近くが十分に安定している適地は日本には存在していない。このため現行の人工バリア技術で安全性が確保できると見なすのは論外」という地質学的観点に前提とし、現行の最終処分法の廃止し「地層処分ありき」とする従来の政策を再検討すること、ならびに再検討にあたっては「地上での暫定保管を行うこと、放射性廃棄物を総量規制すること」(この「暫定保管」と「総量規制に」に関する部分は上述の学術会議による提言を踏まえたものであると推測されます)を視野に入れて、広範な関係者(科学者、専門家、技術者など)の意見表明の機会を保障すること)、中立的な第三者機関を設け国民の声を集約して結論を導くことなどを求めたものです。このため、学術会議の原子力委員会に対する回答の内容は、大筋において、「日本には最終処分場の適地は存在していない」とまでは言い切っていないものの、地学の専門家らによる声明の内容と共通している部分が多いのですが、学術会議による提言内容の底流にあるのは、これまでの様々な原子力政策と政策を実行するための方針を決定する過程に対する本質的な厳しい批判です。すなわち、「東日本大震災により2011年3月11日に東京電力福島第一原発が大事故を起こしたことにより、わが国ではこれまでの原子力政策の問題点の検証と共に、エネルギー政策全体の総合的見直しを迫られることになった」という現状認識と真摯な反省に基づき、「原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない」と厳しく批判したうえで、「超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界がある」という認識を明確に示しています。

また、提言内容は地質の専門家などによる声明におけるよりも一段と具体的かつ明確なものであり、広い視野に立ったものです。たとえば、暫定保管(最終処分の方法が適切に決定されるまで、一定期間、地上の暫定的に地上で保管すること)と放射性廃棄物の総量規制を行う必要があることがより明確に示されており(注参照)、一方において、現存の科学的知見では限界がある超長期にわたる安全性と危険性に関して検討することを目的として自律性のある科学者集団による開かれた討論の場を確保することの必要性を指摘しています。それだけではなく、最終的な合意に形成に関しても、これまで政府が行ってきた手法の問題点を極めて具体的に指摘したうえで提言を行っています。すなわち、これまで最終処分問題だけでなくその他の原発問題に関して政府が行ってきたような限られた関係者のみによる合意を軸に合意形成を進めるという手法は、問題解決の過程を紛糾させ、行き詰りを生む結果に終わるだけであるため避けるべきであると厳しく批判したうえで、最終処分の方法が決定されるに至るまでの合意形成の具体的な手法と過程が極めて重要であること、討論の場の設置により多段階を経ての合意を形成するが必要であることを強調しています。

(注:日本学術会議は上記の原子力委員会に対する回答を行った後、2015年4月24日に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」と題された提言を公表しており、その中で「(地上での)暫定保管の期限は原則50年とし、最初の30年までを目途に、最終処分のための合計形成と適地の選定、さらに立地候補地選定を行い、その後20年内を目途に処分場を建設する」という具体的内容を有する方策を示しています。この文面からは、いかなる科学的条件・手段によるのかは別として、結局のところ、場合によっては「地層処分」という方法を選択することもあり得るのではないか
とも考えられます。そうであるとするならば、先述の地質の専門家らによる「地層処分は、日本には適地が存在しないため認められない」とする声明と学術会議の提案の内容は異なっていることになります。ただ、日本学術会議が指している「適地」が「地層処分」のみを意味しているものであるの否かは定かではありなせん。大地震などにより放射線が漏れ核汚染が広範囲に及ぶなどの重大な事態が生じることが懸念される場合に人間の手で対応するため、人間が近づくことができるように、地下深くではなく、地上あるいは比較的浅い地下に処分場を設けるという方法など、将来的に搬出があり得ることを視野にいれた処分場も考えられるからです)。

 次に、20239月30日に、日本弁護士連合会が現行の地層処分という方針の見直しを求める決議を行っているため、先述の地質の専門家らによる声明と日本学術会議による原子力委員会への回答・政策提言と内容的に重なりあう部分が多いのですが、その概要を紹介しておきます。

【高レベル放射性廃棄物の地層処分方針の見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議:2022年9月30日、日本弁護士連合会】(出典:日弁連のホームページ)

〈決議文の概要〉
必然的に放射性廃棄物を生み出す原子力エネルギーの利用や地球温暖化による気候危機は、いずれも将来世代に対しリスクや負担をもたらすものであり、持続可能な社会とは相容れないものである。

当連合会は、すでに1967年に原子力エネルギーの危険性について懸念を表明したが、2011年に福島第一原子力発電所事故が発生した後、2013年の第56回人権擁護大会において、既設の原子力発電所についてできる限り速やかに全て廃止することを決議し、2014年の第57回人権擁護大会において高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を撤回することを求めるなど、一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた。

原子力発電に関しては、その危険性もさることながら、処分困難な高レベル放射性廃棄物をこれ以上生み出し続けることは到底容認できない。長期にわたり強い放射能を有する高レベル放射性廃棄物は、現在の科学的・技術的知見では、日本において将来にわたり安全性を確保できる地層処分を行うことは困難である。高レベル放射性廃棄物の処分方針については、科学的・技術的知見の進展と世代間倫理を踏まえ、国民的議論を経て決める必要がある。

1 国及び地方自治体は、気候危機問題、エネルギー政策及び原子力政策において、世代間の公平性と将来世代の人権に配慮し、短期的な利益追求や課題への対処にとらわれずに政策決定をすべきである。
2 国と原子力発電事業者・核燃料の再処理業者等は、使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物について、以下の方策をとるべきである。
 (1)再処理施設等の核燃料サイクルを速やかに廃止すること。
 (2)使用済み核燃料については、原発をできる限り速やかに廃止してその総量を確定させ、また、再処理せず直接処分すること。
 (3)地層処分を前提とする現行の最終処分に関する法律を一旦廃止し、一時的な保管を含む廃棄物の処分方針について、
  以下の内容を踏まえた新たな枠組みを持つ法制度を設け、処分方針は同制度の下で合意した内容を基本とすること。
  ①新たな法制度に基づく会議体等は、高い独立性を有し、多様な意見や学術分野の知見を反映するような人選とし、
   その人選については公開性・透明性が確保されること。
  ②十分な情報公開の下、市民が意見を述べる機会が保障され、話合いの過程を公開・記録し、後日、意思決定過程が
   検証できるようにするなど、市民の参加権・知る権利を保障すること。
  ③会議等の議論においては複数の選択肢及びそれぞれの選択肢のリスクと安全性を示すこと。
  ④将来世代の利益・決定権を不当に侵害しないよう、一定期間ごとに処分方針の見直しをおこない、
   いつでも従前の方針を全面的に変更することができる制度とすること。(以下省略)
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以上が日弁連の決議の概要です。上記の内容から分かるように、日弁連は当初から原発技術が有する危険性を懸念しており、福島第一原発の事故後、2013年に既存原発の全廃、2014年に高レベル放射性廃止を地層処分するという方針に対する反対を表明しており、このように「一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた」ことを踏まえて、さまざまな提言を行っていますが、その内容は大筋において前述の地質学の専門家らによる声明、日本学術会議の提言と実質的に大差がないものであると考えられます。ただ、日弁連の場合は、再処理施設などの核燃サイクルを廃止し、使用済み核燃料は、再処理は行わずに、そのまま直接処分(注:核燃料を一回使用したきりにして、再利用を行わずに最終処分に供するという、いわゆる「ワンスルー」方式での処分)すべきであると明言しています。この「直接処分」か「再処理を経ての処分か」という問題点に関する三者の見解の差異は必ずしも明らかではありません。日弁連は再処理を否定していますが、学術会議は「全量再処理という方針は問題である」と指摘するに留まっており、一方、地質学の専門家らによる声明はこの問題点には特には触れていません。しかし、核廃棄物の最終処分問題を考える場合、一番のポイントが「地層処分か否か」という問題であることは言うまでもないものの、「直接処分か再処理後の処分か」という点も、今後の原発政策に極めて大きな影響を与えるため、その意味で非常に非常に重要な問題点であり、今後議論が積み重ねられることが必要であると考えられます。

おわりに

以上、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、政府が進めつつある使用済み燃料の再処理により生じる高レベル廃棄物を地下深くに埋設するという処分方法に対する地質の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士連合会の見解と提言を紹介しました。日本において「地層処分」を行うことの致命的な欠陥は、万一激しい地殻変動などにより処分場そのものや廃棄物が収容されている容器が破壊されたならば、大規模な核汚染を防ぐために対応策がなく、そのため原発の大事故をはるかに上回る破局的事態にいたりかねないということですが、「地層処分」関するこれら三者の見解は、その方向性に関してほぼ一致しているということができるのではないでしょうか。すなわち、1)政府は現行の最終処分に関する法律に基づいて「地層処分」を行うことを決定し、計画を推進しつつあるものの、十万年もの想像を絶する長期にわたり「地層処分」を行っても安全であるとする政府の見解は科学的根拠を欠いたものであるため、「地層処分」を前提としている現行の最終処分法を廃止し、高レベル廃棄物の最終処分の方法を一から検討しなおすこと、2)新たな処分方法に関する十分な合意が得られるまでは暫定的に廃棄物を地上で保管すること、3)合意に達するためには、国民的合意を視野に入れて、一部の関係者のみによる合意の場を設けるのではなく、十分に中立的で開かれた広範な討論・審議の場を制度的に保障する必要があること、これらの3点において、上記の三者の見解は一致していると考えられます。

しかし、政府は、2023年4月28日、前述の現行の最終処分法の第3条における基本方針の策定に関する規定に基づき、地層処分を前提とした最終処分の基本方針の改定案をすでに閣議了承しており、この了承に則って、今後はNUMOのみに任せるのではなく、政府が前面に立ち、交付金などの金銭的手段を含めた様々な形で最終処分地選定の作業を押し進めようとしています。このことは最終処分の方法を決定するに際して政府関係者、大手電力会社や原子力関係の事業者、政府の方針に賛成している専門家・学者らなど、直接的な利害関係を有する狭い範囲の利害関係者だけでによる審議を行うのではなく、広く市民も含めた利害関係者による公正で丁寧な議論を積み重ねることが必要であるとする、前述の地質学の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士会による提言・要請を全面的に否定するものであることを意味しています。しかし、政府の計画に基づいても、最終的に処分場の場所を決定し建設に着手するまでには、候補地の地質などの調査だけでも20年を要し、処分場の場所が決定されるに至るまでに、さらにかなりの年月を要します。まだ時間はあります。その間に、私たち市民は専門家などと協力して、政府に「地層処分」を断念させることに向けて活動を積み重ねていかなければなりません。

2024年1月10日

《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進

〒520-0812
大津市木下町17-41
電話:077-522-5415
メールアドレス:ssmcatch@nifty.ne.jp

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脱原発 市民ウォーク in 滋賀 1月の予定  2024年

2023-12-18 09:42:16 | 記事
■老朽原発高浜1・2号機&美浜3号機うごかすな!
■中間貯蔵地どこでも嫌だ!
■使用済み核燃料の行き場はないぞ!
■岸田政権の原発暴走反対!
■福島第一原発事故放射能汚染水流すな!
 
◆ 第119回 脱原発 市民ウォーク in 滋賀 ◆

「老朽原発うごかすな!原発回帰への暴走をとめよう!-という声と行動が、
若狭・福井と関西・中京の都市圏をむすんで広がりつつあります。
・・・「一食断食」をよびかけます。

少しひもじさを体感しながら、フクシマの被災者に心を寄せ、
自らの子孫の未来に想いをはせるために、いつでも、どこでも、だれでも、
ひとりでもできる実践です。」(中嶌哲演・『はとぽっぽ通信』2023.6) 

1450万人の近畿の水源=びわ湖と私たちの未来=子どもたち孫たちを守りましょう!
<とき・ところ> ご一緒に歩きましょう! 参加無料! 予約不要! 


2024年 1月20日(土)13:30  JR・京阪膳所駅前集合  

★コース = ときめき坂 ~ 元西武大津ショッピングセンター前 ~ 関電滋賀支社前~
       ~ びわ湖畔

☆主 催=21世紀 脱原発市民ウォーク in 滋賀 実行委員会
☆呼びかけ人・・・池田進(原発を知る滋賀連絡会 電話077-522-5415)
         岡田 啓子(ふぇみん@滋賀 電話077-524-5743)
         稲村 守(9条ネット・滋賀 電話080-5713-8629)

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<トピックス> 


2023年12月3日、大阪うつぼ公園での「とめよう!原発依存社会への暴走 全国集会」。
「特別アピール」をする大島堅一龍谷大学教授



同集会で発言する「原発のない社会へ びわこ集会実行委員会」の福田医師



同集会で掲げたポテッカー(プラカード)

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「脱原発 市民ウォーク in 滋賀」 チラシのダウンロードは ⇒ コチラ

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脱原発 市民ウォーク in 滋賀 12月の予定

2023-10-13 15:31:57 | 記事
■老朽原発高浜1・2号機&美浜3号機うごかすな!
■中間貯蔵地どこでも嫌だ!
■使用済み核燃料の行き場はない!
■上関や仏国に持出すな!
■対馬市長の英断支持!
■岸田政権の原発暴走反対!
■原発放射能汚染水流すな!
■世界の海を汚すな!

 
◆ 第118回 脱原発 市民ウォーク in 滋賀 ◆

「老朽原発うごかすな!原発回帰への暴走をとめよう!-という声と行動が、
若狭・福井と関西・中京の都市圏をむすんで広がりつつあります。
・・・「一食断食」をよびかけます。

少しひもじさを体感しながら、フクシマの被災者に心を寄せ、
自らの子孫の未来に想いをはせるために、いつでも、どこでも、だれでも、
ひとりでもできる実践です。」(中嶌哲演・『はとぽっぽ通信』2023.6) 

1450万人の近畿の水源=びわ湖と私たちの未来=子どもたち孫たちを守りましょう!
<とき・ところ> ご一緒に歩きましょう! 参加無料! 予約不要! 


2023年 12月9日(土)13:30  JR・京阪膳所駅前集合  

★コース = ときめき坂 ~ 元西武大津ショッピングセンター前 ~ 関電滋賀支社前~
       ~ びわ湖畔

☆主 催=21世紀 脱原発市民ウォーク in 滋賀 実行委員会
☆呼びかけ人・・・池田進(原発を知る滋賀連絡会 電話077-522-5415)
         岡田 啓子(ふぇみん@滋賀 電話077-524-5743)
         稲村 守(9条ネット・滋賀 電話080-5713-8629)


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<集会案内> 













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「脱原発 市民ウォーク in 滋賀」 チラシのダウンロードは ⇒ コチラ

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