21世紀 脱原発 市民ウォーク in 滋賀

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核廃棄物を 地下深くに埋めて 最終的に処分するという国の方針は 誤りではないか?

2024-01-11 20:45:58 | 記事
《第119回・脱原発市民ウォーク・イン・滋賀のご案内》

あけましておめでとうございます。
今年最初の脱原発市民ウォークを1月20日(土)におこないます
(JR膳所駅前広場:午後1時半)。

どなたでも、ご自分のスタイルで自由に参加できます。
寒い中ですが、ご都合のつく方はぜひ足をお運びください。


■■ 核廃棄物を地下深くに埋めて最終的に処分するという国の方針は誤りではないか? ■■

◆地質学の専門家ら有志300人余が、核廃棄物の「地層処分」に根本的な疑問を呈する声明文を発表
 →→「世界最大級の地層の変動帯である日本に、核廃棄物の地層処分に適した場所は存在しない」◆


はじめに

原子力発電に伴う最大の問題は、言うまでもありませんが、大規模な事故が生じて人間を含む生物生息環境に取り返しのつかない大規模な被害を与える危険性が常に存在していることです。しかし、事故の問題以外に、たとえ事故が起きなくても、もう一つ、決して避けて通ることができない問題、解決が極めて困難な深刻きわまる問題が存在しています。それは、原子力発電を行えば必ず生じる危険な放射性廃棄物をどのような方法により十分な安全性を伴って最終的に処分するのかという問題です。たとえ原発が廃止されても核廃棄物の最終処分という難題は残ります。

原発を保有している欧米諸国で計画されている放射性廃棄物を最終的に処分するための方法の多くは、地下の深い場所(数百メートルの深さ)に処分場を設け、この処分場に放射性廃棄物が容れられた放射線を通さない容器に収容し、その後、人間が近づくことができないように処分場全体を埋め戻してしまうというものです。いわゆる「地層処分」と称されている方法です。

現在、日本は欧米における計画を見習って「地層処分」を行うことを前提に、使用済み核燃料を再処理した後に生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分場を建設することを計画しており、このため政府は現行の最終処分に関する法律に基づき設けた機関が処分場候補地の選定作業を積極的に進めています。

政府が高レベル放射性廃棄物の最終処分の方法として「地層処分」という方法を採用していることの法的根拠としているのは「特定放射性廃棄物(注参照)の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号)(以下「最終処分法」と記す)における規定です。すなわちこの法律の第2条(定義)の2項において「この法律において『最終処分』とは、地下300m以上の政令で定める深さの地層において、特定放射性廃棄物及びこれらによって汚染された物が飛散し、流出し、又は地下に浸透することがないように必要な措置を講じて安全かつ確実に埋設することにより、特定放射性廃棄物を最終処分することをいう」と「地層処分」の定義が定められており、また第3条(基本方針)の1項において「経済産業大臣は、特定放射性廃棄物の最終処分を計画的かつ確実に実施させるため、特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針を定め、これを公表しなければならない」と定められています。この法律の文言からは、最終処分に関する基本方針は「地層処分」を前提としたものであることが分かります。

(注:「特定放射性廃棄物」という用語は、正確には使用済み燃料の再処理後に生じる高レベル放射性廃棄物を溶融したガラスと混ぜ合わせた後に固体化したものを指します)。
しかしながら、地層処分という方法を核廃棄物の最終処分の方法として採用するためには、激しい地殻変動などにより地下深くに処分された放射性廃棄物を収容している容器が破壊されることなどにより、放射性物質が周囲に漏れ出て地下水により汚染が極めて広範囲に広がるという非常に危険な破局的な事態が生じることを確実に回避することが必要とされます。そのためには、処分場とされる土地の地質が少なくとも数十万年という長期にわたり激しい地殻変動が起きる可能性が極めて小さなものであることが必要とされます。ところが、日本は世界有数の火山国であり、地震の原因となる活断層が多数存在しているなど、日本の地質は欧米大陸などと比べて極めて地殻変動が生じやすいものであるという事実を考えるならば、日本に最終分に適した土地が存在するのか、日本が地層処分を計画することは果たして適切であるのか、疑問を抱かざるを得ません。

地質の専門家たちの中にも日本が地層処分を計画していることを疑問視している方々が少なからずいます。このため昨年の10月30日、日本地質学会会長の経験がある二人の人物を含む地質の専門家ら有志300人余りが、「世界最大級の(地殻)変動帯の日本に、地層処分の適地はない―現在の地層処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を」と題した、日本が高レベル放射性廃棄物の地層処分を行うことに根本的な疑問を呈し、現存の最終処分に関する法律を廃止し、原発政策の根本的見直しを求めるとする声明文を発表しました。この声明の呼びかけ人の代表者は赤井純治氏(元新潟大学)です。

この声明文は発表されたことは一般のメディアでは小さくしか報じられていませんが、呼びかけ人からの要請を受けて、「原子力資料情報室」がその全文を2023年11月21日付けのホームページで公表していました。このため以下に声明全文の内容と補足説明などを記します。ご一読くださり、放射性廃棄物の最終処分という、原発がある限り避けて通ることができない極めて厄介な問題について考え理解を深めてるための一助にして頂ければ幸いです。また、この声明に先立ち、日本学術会議と日本弁護士連合会も最終処分問題に関して、提言や決議を行っているため、その内容についても記しておきます。

【世界最大級の変動体の日本に、地層処分の適地はない。現在の処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を:2023年10月30日―地質の専門家ら有志】

以下に記す声明の内容は、より理解を容易にするために多少リライトして若干の説明を加えています。また、必要な個所に注釈を記しておきました)

現在、高レベル放射性廃棄物(以下、「核のゴミ」と記す)の最終処分場選定の第一段階である「文献調査」が北海道の寿都町と神恵内村で進められ調査結果の報告を待つ段階にあります(2023年5月現在)。文献調査の公募は2002年に開始され、その後2005年には「地層処分の適地・不適地」を示したとする「科学的特性マップ」を公表することにより候補地選定の働きかけを強めています。しかし、この「科学的特性マップ」は適地を示すというよりは、明らかな「不適地」を除外しただけにものに過ぎず、ただ処分地の選定を進めやすくすることを意図したものに過ぎないのではないかと思われる性質ものです。しかし、その後、政府は原発を積極的に推進するためにこれまでの原発政策を大幅に変更し、原子力基本法に原発推進の文言を盛り込むなど関連法規の改定案を国会で成立させており、そのため例えば原子炉の運転期間が延長され60年超の原発の運転が可能になっています。
このような原発推進政策の一環として、核のゴミの地層処分候補地をより広範に募集するために、これまでは「原子力発電環境整備機構」(NUMO:注参照)のみが行ってきた募集作業を、今後はより広範な地域を対象として、関連する政府の諸機関が一体となって主導し推進するとしています。このため今後、全国の様々な地域で核のゴミの処分を巡る議論が起きることが考えられます。

核のゴミは、その放射能が天然のウラン鉱石と同程度のレベルになるまでに10万年を要するとされており、このため、地下300mに10万年間埋設されることになるとされています。しかし、火山国・地震国とも言われ、地殻変動が活発に日本において、10万年ものあいだ核のゴミを地下に安全に埋設できる場所があるのでしょうか。私たちは地球科学を専門とする研究・技術・教育の現場に携わる立場から、以下に示す理由に基づき核のゴミを地層処分する計画の抜本的見直しを求めるものです。

〈理由1〉:日本の地質条件を無視した最終処分に関する法律 

核のゴミを地層処分することは2000年5月に国会の議決により制定された「特定放射性廃棄物の最終処分」に関する法律」(以下「最終処分法」と記す)に基づいて決定されました。次いで2000年10月に、地層処分を行う事業主体として「原子力発電環境整備機構」が設立されました。政府がこの法律を国会に提出したのは、1980 年代からの地層処分政策の延長として、1999 年に核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が作成した「我が国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性─地層処分研究開発第2次取りまとめ─」が総理府原子力委員会(2001 年からは内閣府)に提出され、そこに地層処分が技術的に実現可能であると述べられていたことによるものです。その根拠は、1984 年に出された総理府原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会中間報告書の「放射性廃棄物処理処分方策について」において、「地質条件に対応して必要な人工バリア設計で、地層処分システムとしての安全性を確保できる見通しが得られた」というものです。つまり未固結(注参照)の堆積物だけを除き、岩石の種類を特定しなくても、地質条件に対応した人工バリア技術で安全性が確保できるというものでした。人工バリア(人工の障壁)とは、以下のようなものです(注:未固結=土粒相互間の結合力が弱く、土粒子の分離が比較的容易である状態)。

まず、使用済み核燃料を直径40cm、高さ130 cmの円柱状のガラス固化体に封じ込め、それを厚さ20 cmの金属(炭素鋼)で覆い、さらに70 cmの粘土(ベントナイト)で覆います。これが「人工バリア」です。ガラス固化体は、製造当初は人が1メートル離れた場所に数10秒いるだけで死に至るほどの強い放射線を出します。最終的には、合計4万本を地下300m以深の処分地に置く計画であるとされています。しかし、人工バリアの安全性は実験段階であり、安定状態での仮説でしかありません。極めて長期に渡り強い放射線を浴び続けるものが日本のような地質条件の中で強い放射線のバリアとして機能し続けることは誰も保障できません。

日本の地質条件は果たして地層処分に適したものでしょうか。現在、地下の岩盤に核のゴミを貯蔵・処分する地層処分は、世界の国々で検討されています。フィンランドは世界で唯一処分場を建設中であり、スウェーデンでは処分場の場所が決定されています。北欧の地質条件は、楯状地(注1参照)である原生代(注2参照)の変成岩・深成岩であり、地震活動がほとんど起こらない安定陸塊(注3参照)であるのに対し、日本列島は複数のプレート(注4参照)が収束する火山・地震の活発な変動帯です。そのような地質条件の違いを無視して、北欧の地層処分と同列に扱い、人工バリア技術で安全性が保障されるとみなすのは論外と言わねばなりません。

(注1:楯状地=一般的に、構造地質学的に安定している、先カンブリア時代の結晶質火成岩と高度変成岩が露出する広い地域を指す。先カンブリア時代=地球上で研究できる最古の岩石の年齢である38億~40億年前に至る約34億年が「先カンブリア時代」と称されています)
(注2:原生代=真核単細胞生物から硬い骨格を持った多細胞生物 の化石が多数現れるまでの25億年前?約5億4,100万年前の時期を指す)
(注3:安定陸塊=長い間地殻変動を受けなかった地帯)
(注4:プレート=地球の表面を覆う、十数枚の、厚さ100kmほとの岩盤のこと)

〈理由2〉地殻変動の激しい、安定地塊でない日本列島

火山国とも地震国とも言われる日本は、地殻変動が極めて活発です。世界最大級の変動帯(注1参照)の日本において、今後10万年ものあいだ、核のゴミを安定的に保存できる場所を選定できないことは地球科学を学ぶ者にとっては、容易に理解できることです。変動帯であるがゆえに、構造運動の影響も受けやすく、岩盤も不均質で亀裂も発達し、脆弱な個所もみられ、割れ目に地下水が存在しやすくなります。火山活動と地震活動は、太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートがそれぞれ衝突・沈み込むことによる巨大で複雑な力を背景に発生していますが、日本はこれらの四つのプレートの境界という地球上で最も地殻変動が活発な地域に位置しています。活断層は、このような構造運動を原因とする上部地殻のひずみの集中域で発生する地震活動の現れと考えられます。その分布については研究がかなり進んでいるにもかかわらず、活断層が確認されていないところでも、しばしば大きな地震が発生しています。たとえば、2018 年の北海道胆振東部地震(M6.7)は、活断層である石狩低地東縁断層帯の東側約 15km、しかも 20~40 km の上部マントル(注2)に達する深度で発生しました。地下深部の地下水は、一般的にはきわめて流速が遅いと言われていますが、もしこのような地震が処分場を直撃したら、周辺の地質条件の変化で、いかようにも流動・流速に変化を生じ、人工バリアに亀裂が発生し、周囲の岩盤の無数の割れ目や断層に沿って地下水とともに放射性物質が漏れ出すことは避けられません。激しい変動帯の下におかれている日本列島において、今後 10 万年間にわたる地殻の変動による岩盤の脆弱性や深部地下水の状況を予測し、地震の影響を受けない安定した場所を具体的に選定することは、現状では不可能といえます。

(注1:変動帯=活発な地殻変動や火山活動がみられる帯状の地帯。プレートの境界に沿ってみられるとされている)
(注2:上部マントル=地表から5~60kmに位置する「地殻」の下方に位置する、「マントル」と称される地層における上部の部分)

〈提言3〉最終処分法の廃止と原発政策の見直しを

以上に述べた理由から、核のゴミを地下300メートル以深に埋設する最終処分法は、プレート境界域である活発な変動帯の地質条件を無視した、人口バリア技術を過信した法律に基づくものであると言わざるを得ず、このため抜本的な見直しが必要です。

日本学術会議は2012年9月に、原子力委員会からの審議依頼に対する回答を公表しています。その中で、超長期にわたる安全性と危険性に対処するにあたり、現時点での科学的知見には限界があるとして、核のゴミを地層処分することを前提とした従来の政策の抜本的見直しを求め、暫定保管と放射性廃棄物の総量管理を柱として、政策の枠組みを再構築することを提案しています。暫定保管というのは、一定期間地上で保管することを意味しています。この地上での保管の期間中に、核のゴミの最終処分の方法を確立する必要があります。総量規制とは、放射性廃棄物の量をこれ以上増やさないために、厳しく量の規制を行うことを意味しています。

これらの検討経過を見るならば、科学的根拠に乏しい最終処分法を廃止し、地上での暫定保管を含む原発政策の見直しを視野入れ、地層処分ありきの従来の政策を検討しなおすべきです。再検討にあたってはて、地球科学にたずさわる科学者、技術者、専門家の意見表明の機会を、日本学術会議などと協力しながら十分に保障することが欠かせません。さらに、中立で開かれた第三者機関を設置し、広く国民の声を集約して結論を導くことが重要だと考えます。
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以上が地学の専門家ら有志300人による声明の全文の内容です。この声明は、一言で要約すれば、「日本は世界有数の火山国・地震国であり、このため欧州大陸などとは異なり、地震などにより地殻変動が生じる確率が高いため、十万年もの長期にわたり核廃棄物を安全に保管することが可能な処分場の適地が日本に存在しているとは考えられない。このため地層処分という国の従来の方針を撤回し、暫定的な地上での保管を視野に入れ、地上保管の間に、地球科学の専門家などをはじめとして各方面の協力を得て、地層処分ありきという従来の方針の見直しを行うべきである」というものです。

この地学の専門家らによる声明文において、日本学術会議が核廃棄物の最終処分に関する提言を過去に(2012年9月11日)行っていると記されていますが、学術会議だけではなく、昨年9月には、日本弁護士連合会も地層処分に関する決議を行っています。このため、以下に日本学術会議の提言(原子力委員会からの審議依頼に対する回答)ならびに日本弁護士連合会の決議について、その概要を紹介します。なお、日本学術会議は上記の提言を行った後、2015年4月に、2012年9月の原子力委員会に対する回答に関してより具体的方策を提言としてとりまとめ公表しています。

日本学術会議の原子量委員会に対する回答(提言内容)は詳細な内容を伴った長文のものであるため、冒頭の「要旨」として示されている部分を中心に、その概要を以下に記します。(出典:日本学術術会議のホームページ)

【日本学術会議の高レベル放射性廃棄物の処分に関する原子力委員会への回答:背景と提言、2012年(平成24年)9月11日:日本学術会議】

回答作成の背景: 2010 年9月、日本学術会議は、内閣府原子力委員会委員長から日本学術会議会長宛に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて」と題する審議依頼を受けた。高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づく基本方針と最終処分計画に沿って、関係行政機関や原子力発電環境整備機構(NUMO)などにより、文献調査開始に向けた取組みが行われてきているが、文献調査開始に必要な自治体による応募が行われない状態が続いている。原子力委員会委員長からの依頼は、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについての国民に対する説明や情報提供のあり方について審議」を求めたものであった。

この依頼を受け、第21期の日本学術会議は、2010 年9月 16 日に課題別委員会「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」を設置し、設置期限の 2011 年9月末日までに、内閣府原子力委員会に対する回答を作成することを目標とし た。しかし、委員会発足から約半年後の2011 年3月 11 日、東日本大震災が発生し、これに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、わが国では、これまでの原子力政策の問題点の検証とともに、エネルギー政策全体の総合的見直しが迫られることとなった。そこで同委員会は、このような原子力発電所事故の影響およびエネルギー政策の方向性を一定期間見守ることが必要と考え、それまでの審議を記録「中間報告書」として取りまとめて第 22 期の「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」に審議を引き継いだ

《原子力委員会への提言》

提言の内容:本委員会は以下の6つを提言する。なお、これらの提言は、原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない、という判断に立脚している。

提言1:高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
これまでの高レベル放射性廃棄物処分に関する政策は、2000 年に制定された 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき進められてきたが、今日に至る経過を反省してみるとき、基本的な考え方と施策方針の見直しが不可欠である。これまでの政策枠組みが、各地で反対に遭い、行き詰まっているのは、説明の仕方の不十分さというレベルの要因に由来するのではなく、より根源的な次元の問題に由来することをしっかりと認識する必要がある。また、原子力委員会自身が 2011 年9月から原子力発電・核燃料サイクル総合評価を行い、使用済み核燃料の「全量再処理」という従来の方針に対する見直しを進めており、その結果もまた、高レベル放射性廃棄物の処分政策に少なからぬ変化を要請するとも考えられる。これらの問題に的確に対処するためには、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻すくらいの覚悟を持って、 見直しをすることが必要である。

提言2:科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
地層処分をNUMO に委託して実行しようとしているわが国の政策枠組みが行き詰まりを示している第一の理由は、超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界があるということである。安全性と危険性に関する自然科学的、工学的な再検討にあたっては、自律性のある科学者集団(認識共同体)による、専門的で独立性を備えた、疑問や批判の提出に対して開かれた討論の場を確保する必要がある。

提言3:暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第二の理由は、原子力政策に関する大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行して扱われてきたことである。広範な国民が納得する原子力政策の大局的方針を示すことが不可欠であり、そのためには、多様なステークホルダー(利害関係者)が討論と交渉のテーブルにつくための前提条件となる、高レベル放射性廃棄物の暫定保管 (temporal safe storage)と総量管理の2つを柱に、政策枠組みを再構築することが不可欠である。

提言4:負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第三の理由は、従来の政策枠組みが想定している廃棄物処分方式では、受益圏と受苦圏が分離するという不公平な状況をもたらすことにある。この不公平な状況に由来する批判と不満への対処として、電源三法交付金などの金銭的便益提供を中心的な政策手段とするのは適切でない。金銭的手段による誘導を主要な手段にしない形での立地選定手続きの改善が必要であり、負担の公平/不公平問題への説得力ある対処と、科学的な知見の反映を優先させる検討とを可能にする政策決定手続きが必要である。

提言5:討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
政策決定手続きの改善のためには、広範な国民の間での問題認識の共有が必要であり、多段階の合意形成の手続きを工夫する必要がある。前述の暫定保管と総量管理に関する国民 レベルでの合意を得るためには、様々なステークホルダーが参加する討論の場を多段階に設置すること、公正な立場にある第三者が討論過程をコーディネートすること、最新の科学的知見が共有認識を実現する基盤となるように討論過程を工夫すること、ならびに合意形成の程度を段階的に高めていくことが必要である。

提言6:問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識
高レベル放射性廃棄物の処分問題は、千年・万年の時間軸で考えなければならない問題である。民主的な手続きの基本は十分な話し合いを通して合意形成を目指すものであるが、とりわけ高レベル放射性廃棄物の処分問題は、問題の性質からみて、時間をかけた粘り強い取組みを実現していく覚悟が必要である。限られたステークホルダーの間での合意を軸に合意形成を進め、これに当該地域への経済的な支援を組み合わせるといった手法は、かえって問題解決の過程を紛糾させ、行き詰まりを生む結果になることを再確認しておく必要がある。また、高レベル放射性廃棄物の処分問題は、その重要性と緊急性を多くの国民が認識する必要があり、長期的な取組みとして、学校教育の中で次世代を担う若者の間でも認識を高めていく努力が求められる。
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 以上が高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、日本学術会議による原子力政策の決定過程の現状に関する問題点の指摘と今後の取り組みに関する具体的提言の内容です。一方、先述の地学の専門家らによる声明は、「質学的に観て日本の最終処分場を設けるための、近くが十分に安定している適地は日本には存在していない。このため現行の人工バリア技術で安全性が確保できると見なすのは論外」という地質学的観点に前提とし、現行の最終処分法の廃止し「地層処分ありき」とする従来の政策を再検討すること、ならびに再検討にあたっては「地上での暫定保管を行うこと、放射性廃棄物を総量規制すること」(この「暫定保管」と「総量規制に」に関する部分は上述の学術会議による提言を踏まえたものであると推測されます)を視野に入れて、広範な関係者(科学者、専門家、技術者など)の意見表明の機会を保障すること)、中立的な第三者機関を設け国民の声を集約して結論を導くことなどを求めたものです。このため、学術会議の原子力委員会に対する回答の内容は、大筋において、「日本には最終処分場の適地は存在していない」とまでは言い切っていないものの、地学の専門家らによる声明の内容と共通している部分が多いのですが、学術会議による提言内容の底流にあるのは、これまでの様々な原子力政策と政策を実行するための方針を決定する過程に対する本質的な厳しい批判です。すなわち、「東日本大震災により2011年3月11日に東京電力福島第一原発が大事故を起こしたことにより、わが国ではこれまでの原子力政策の問題点の検証と共に、エネルギー政策全体の総合的見直しを迫られることになった」という現状認識と真摯な反省に基づき、「原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない」と厳しく批判したうえで、「超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界がある」という認識を明確に示しています。

また、提言内容は地質の専門家などによる声明におけるよりも一段と具体的かつ明確なものであり、広い視野に立ったものです。たとえば、暫定保管(最終処分の方法が適切に決定されるまで、一定期間、地上の暫定的に地上で保管すること)と放射性廃棄物の総量規制を行う必要があることがより明確に示されており(注参照)、一方において、現存の科学的知見では限界がある超長期にわたる安全性と危険性に関して検討することを目的として自律性のある科学者集団による開かれた討論の場を確保することの必要性を指摘しています。それだけではなく、最終的な合意に形成に関しても、これまで政府が行ってきた手法の問題点を極めて具体的に指摘したうえで提言を行っています。すなわち、これまで最終処分問題だけでなくその他の原発問題に関して政府が行ってきたような限られた関係者のみによる合意を軸に合意形成を進めるという手法は、問題解決の過程を紛糾させ、行き詰りを生む結果に終わるだけであるため避けるべきであると厳しく批判したうえで、最終処分の方法が決定されるに至るまでの合意形成の具体的な手法と過程が極めて重要であること、討論の場の設置により多段階を経ての合意を形成するが必要であることを強調しています。

(注:日本学術会議は上記の原子力委員会に対する回答を行った後、2015年4月24日に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」と題された提言を公表しており、その中で「(地上での)暫定保管の期限は原則50年とし、最初の30年までを目途に、最終処分のための合計形成と適地の選定、さらに立地候補地選定を行い、その後20年内を目途に処分場を建設する」という具体的内容を有する方策を示しています。この文面からは、いかなる科学的条件・手段によるのかは別として、結局のところ、場合によっては「地層処分」という方法を選択することもあり得るのではないか
とも考えられます。そうであるとするならば、先述の地質の専門家らによる「地層処分は、日本には適地が存在しないため認められない」とする声明と学術会議の提案の内容は異なっていることになります。ただ、日本学術会議が指している「適地」が「地層処分」のみを意味しているものであるの否かは定かではありなせん。大地震などにより放射線が漏れ核汚染が広範囲に及ぶなどの重大な事態が生じることが懸念される場合に人間の手で対応するため、人間が近づくことができるように、地下深くではなく、地上あるいは比較的浅い地下に処分場を設けるという方法など、将来的に搬出があり得ることを視野にいれた処分場も考えられるからです)。

 次に、20239月30日に、日本弁護士連合会が現行の地層処分という方針の見直しを求める決議を行っているため、先述の地質の専門家らによる声明と日本学術会議による原子力委員会への回答・政策提言と内容的に重なりあう部分が多いのですが、その概要を紹介しておきます。

【高レベル放射性廃棄物の地層処分方針の見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議:2022年9月30日、日本弁護士連合会】(出典:日弁連のホームページ)

〈決議文の概要〉
必然的に放射性廃棄物を生み出す原子力エネルギーの利用や地球温暖化による気候危機は、いずれも将来世代に対しリスクや負担をもたらすものであり、持続可能な社会とは相容れないものである。

当連合会は、すでに1967年に原子力エネルギーの危険性について懸念を表明したが、2011年に福島第一原子力発電所事故が発生した後、2013年の第56回人権擁護大会において、既設の原子力発電所についてできる限り速やかに全て廃止することを決議し、2014年の第57回人権擁護大会において高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を撤回することを求めるなど、一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた。

原子力発電に関しては、その危険性もさることながら、処分困難な高レベル放射性廃棄物をこれ以上生み出し続けることは到底容認できない。長期にわたり強い放射能を有する高レベル放射性廃棄物は、現在の科学的・技術的知見では、日本において将来にわたり安全性を確保できる地層処分を行うことは困難である。高レベル放射性廃棄物の処分方針については、科学的・技術的知見の進展と世代間倫理を踏まえ、国民的議論を経て決める必要がある。

1 国及び地方自治体は、気候危機問題、エネルギー政策及び原子力政策において、世代間の公平性と将来世代の人権に配慮し、短期的な利益追求や課題への対処にとらわれずに政策決定をすべきである。
2 国と原子力発電事業者・核燃料の再処理業者等は、使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物について、以下の方策をとるべきである。
 (1)再処理施設等の核燃料サイクルを速やかに廃止すること。
 (2)使用済み核燃料については、原発をできる限り速やかに廃止してその総量を確定させ、また、再処理せず直接処分すること。
 (3)地層処分を前提とする現行の最終処分に関する法律を一旦廃止し、一時的な保管を含む廃棄物の処分方針について、
  以下の内容を踏まえた新たな枠組みを持つ法制度を設け、処分方針は同制度の下で合意した内容を基本とすること。
  ①新たな法制度に基づく会議体等は、高い独立性を有し、多様な意見や学術分野の知見を反映するような人選とし、
   その人選については公開性・透明性が確保されること。
  ②十分な情報公開の下、市民が意見を述べる機会が保障され、話合いの過程を公開・記録し、後日、意思決定過程が
   検証できるようにするなど、市民の参加権・知る権利を保障すること。
  ③会議等の議論においては複数の選択肢及びそれぞれの選択肢のリスクと安全性を示すこと。
  ④将来世代の利益・決定権を不当に侵害しないよう、一定期間ごとに処分方針の見直しをおこない、
   いつでも従前の方針を全面的に変更することができる制度とすること。(以下省略)
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以上が日弁連の決議の概要です。上記の内容から分かるように、日弁連は当初から原発技術が有する危険性を懸念しており、福島第一原発の事故後、2013年に既存原発の全廃、2014年に高レベル放射性廃止を地層処分するという方針に対する反対を表明しており、このように「一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた」ことを踏まえて、さまざまな提言を行っていますが、その内容は大筋において前述の地質学の専門家らによる声明、日本学術会議の提言と実質的に大差がないものであると考えられます。ただ、日弁連の場合は、再処理施設などの核燃サイクルを廃止し、使用済み核燃料は、再処理は行わずに、そのまま直接処分(注:核燃料を一回使用したきりにして、再利用を行わずに最終処分に供するという、いわゆる「ワンスルー」方式での処分)すべきであると明言しています。この「直接処分」か「再処理を経ての処分か」という問題点に関する三者の見解の差異は必ずしも明らかではありません。日弁連は再処理を否定していますが、学術会議は「全量再処理という方針は問題である」と指摘するに留まっており、一方、地質学の専門家らによる声明はこの問題点には特には触れていません。しかし、核廃棄物の最終処分問題を考える場合、一番のポイントが「地層処分か否か」という問題であることは言うまでもないものの、「直接処分か再処理後の処分か」という点も、今後の原発政策に極めて大きな影響を与えるため、その意味で非常に非常に重要な問題点であり、今後議論が積み重ねられることが必要であると考えられます。

おわりに

以上、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、政府が進めつつある使用済み燃料の再処理により生じる高レベル廃棄物を地下深くに埋設するという処分方法に対する地質の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士連合会の見解と提言を紹介しました。日本において「地層処分」を行うことの致命的な欠陥は、万一激しい地殻変動などにより処分場そのものや廃棄物が収容されている容器が破壊されたならば、大規模な核汚染を防ぐために対応策がなく、そのため原発の大事故をはるかに上回る破局的事態にいたりかねないということですが、「地層処分」関するこれら三者の見解は、その方向性に関してほぼ一致しているということができるのではないでしょうか。すなわち、1)政府は現行の最終処分に関する法律に基づいて「地層処分」を行うことを決定し、計画を推進しつつあるものの、十万年もの想像を絶する長期にわたり「地層処分」を行っても安全であるとする政府の見解は科学的根拠を欠いたものであるため、「地層処分」を前提としている現行の最終処分法を廃止し、高レベル廃棄物の最終処分の方法を一から検討しなおすこと、2)新たな処分方法に関する十分な合意が得られるまでは暫定的に廃棄物を地上で保管すること、3)合意に達するためには、国民的合意を視野に入れて、一部の関係者のみによる合意の場を設けるのではなく、十分に中立的で開かれた広範な討論・審議の場を制度的に保障する必要があること、これらの3点において、上記の三者の見解は一致していると考えられます。

しかし、政府は、2023年4月28日、前述の現行の最終処分法の第3条における基本方針の策定に関する規定に基づき、地層処分を前提とした最終処分の基本方針の改定案をすでに閣議了承しており、この了承に則って、今後はNUMOのみに任せるのではなく、政府が前面に立ち、交付金などの金銭的手段を含めた様々な形で最終処分地選定の作業を押し進めようとしています。このことは最終処分の方法を決定するに際して政府関係者、大手電力会社や原子力関係の事業者、政府の方針に賛成している専門家・学者らなど、直接的な利害関係を有する狭い範囲の利害関係者だけでによる審議を行うのではなく、広く市民も含めた利害関係者による公正で丁寧な議論を積み重ねることが必要であるとする、前述の地質学の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士会による提言・要請を全面的に否定するものであることを意味しています。しかし、政府の計画に基づいても、最終的に処分場の場所を決定し建設に着手するまでには、候補地の地質などの調査だけでも20年を要し、処分場の場所が決定されるに至るまでに、さらにかなりの年月を要します。まだ時間はあります。その間に、私たち市民は専門家などと協力して、政府に「地層処分」を断念させることに向けて活動を積み重ねていかなければなりません。

2024年1月10日

《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進

〒520-0812
大津市木下町17-41
電話:077-522-5415
メールアドレス:ssmcatch@nifty.ne.jp

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脱原発 市民ウォーク in 滋賀 1月の予定  2024年

2023-12-18 09:42:16 | 記事
■老朽原発高浜1・2号機&美浜3号機うごかすな!
■中間貯蔵地どこでも嫌だ!
■使用済み核燃料の行き場はないぞ!
■岸田政権の原発暴走反対!
■福島第一原発事故放射能汚染水流すな!
 
◆ 第119回 脱原発 市民ウォーク in 滋賀 ◆

「老朽原発うごかすな!原発回帰への暴走をとめよう!-という声と行動が、
若狭・福井と関西・中京の都市圏をむすんで広がりつつあります。
・・・「一食断食」をよびかけます。

少しひもじさを体感しながら、フクシマの被災者に心を寄せ、
自らの子孫の未来に想いをはせるために、いつでも、どこでも、だれでも、
ひとりでもできる実践です。」(中嶌哲演・『はとぽっぽ通信』2023.6) 

1450万人の近畿の水源=びわ湖と私たちの未来=子どもたち孫たちを守りましょう!
<とき・ところ> ご一緒に歩きましょう! 参加無料! 予約不要! 


2024年 1月20日(土)13:30  JR・京阪膳所駅前集合  

★コース = ときめき坂 ~ 元西武大津ショッピングセンター前 ~ 関電滋賀支社前~
       ~ びわ湖畔

☆主 催=21世紀 脱原発市民ウォーク in 滋賀 実行委員会
☆呼びかけ人・・・池田進(原発を知る滋賀連絡会 電話077-522-5415)
         岡田 啓子(ふぇみん@滋賀 電話077-524-5743)
         稲村 守(9条ネット・滋賀 電話080-5713-8629)

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<トピックス> 


2023年12月3日、大阪うつぼ公園での「とめよう!原発依存社会への暴走 全国集会」。
「特別アピール」をする大島堅一龍谷大学教授



同集会で発言する「原発のない社会へ びわこ集会実行委員会」の福田医師



同集会で掲げたポテッカー(プラカード)

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「脱原発 市民ウォーク in 滋賀」 チラシのダウンロードは ⇒ コチラ

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脱原発 市民ウォーク in 滋賀 12月の予定

2023-10-13 15:31:57 | 記事
■老朽原発高浜1・2号機&美浜3号機うごかすな!
■中間貯蔵地どこでも嫌だ!
■使用済み核燃料の行き場はない!
■上関や仏国に持出すな!
■対馬市長の英断支持!
■岸田政権の原発暴走反対!
■原発放射能汚染水流すな!
■世界の海を汚すな!

 
◆ 第118回 脱原発 市民ウォーク in 滋賀 ◆

「老朽原発うごかすな!原発回帰への暴走をとめよう!-という声と行動が、
若狭・福井と関西・中京の都市圏をむすんで広がりつつあります。
・・・「一食断食」をよびかけます。

少しひもじさを体感しながら、フクシマの被災者に心を寄せ、
自らの子孫の未来に想いをはせるために、いつでも、どこでも、だれでも、
ひとりでもできる実践です。」(中嶌哲演・『はとぽっぽ通信』2023.6) 

1450万人の近畿の水源=びわ湖と私たちの未来=子どもたち孫たちを守りましょう!
<とき・ところ> ご一緒に歩きましょう! 参加無料! 予約不要! 


2023年 12月9日(土)13:30  JR・京阪膳所駅前集合  

★コース = ときめき坂 ~ 元西武大津ショッピングセンター前 ~ 関電滋賀支社前~
       ~ びわ湖畔

☆主 催=21世紀 脱原発市民ウォーク in 滋賀 実行委員会
☆呼びかけ人・・・池田進(原発を知る滋賀連絡会 電話077-522-5415)
         岡田 啓子(ふぇみん@滋賀 電話077-524-5743)
         稲村 守(9条ネット・滋賀 電話080-5713-8629)


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<集会案内> 













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「脱原発 市民ウォーク in 滋賀」 チラシのダウンロードは ⇒ コチラ

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「交付金」など様々な手段で地方に原発施設を押しつける国の原発推進政策: 交付金漬けになる地方の中小自治体 山口県上関の使用済み燃料中間貯蔵施設、青森県六ケ所村の再処理工場・むつ市の中間貯蔵施設

2023-10-03 20:27:11 | 記事
《 2023年10月:第117回・脱原発市民ウォーク in 滋賀のご案内 》

これまでにない猛暑の夏が過ぎ、ようやく過ごしやすい季節になりました。
次回の脱原発市民ウォークを10月7日(土)におこないます
(JR膳所駅前広場:午後1時半)。

どなたでも自由に自分のスタイルで参加できます。
都合のつく方はぜひ足をお運びください。


「交付金」など様々な手段で地方に原発施設を押しつける国の原発推進政策:
交付金漬けになる地方の中小自治体
山口県上関の使用済み燃料中間貯蔵施設、青森県六ケ所村の再処理工場・むつ市の中間貯蔵施設



去る8月18日に、山口県上関(かみのせき)町で、町長が中国電力・関西電力の使用済み燃料の中間貯蔵施設建設に関する調査の受け入れを表明しており、また、9月12日には長崎県対馬市の議会が、高レベル放射性廃棄物の最終処分場を選定するための第一段階である「文献調査」の受け入れの促進を求める請願が賛成多数で採択するなど(注参照)、今年になって地方での原発施設の受け入れに関する動きが活発になっています。(注:しかし、比田勝尚・対馬市長は文献調査に応募しない方針を9月27日に市議会本会議で表明しました)

上関町や対馬市に限った話ではありませんが、原発施設の誘致を考えるのは、ほとんどの場合、過疎化による人口減少や高齢化、地場産業の衰退などにより財政状態が厳しい小さな地方自治体(市町村)です。これらの自治体は財政状態の悪化をくいとめ改善するための手段として、様々な形で国が用意している原発関連の交付金に頼ることを考えます。このため、国は原発政策を推進するために、すなわち原発関連施設を地方に受け入れさせるために、原発そのものだけではなく関連施設も対象にして、様々な交付金制度を設けています。特に、岸田政権が脱炭素実現のためと称して原発を最大限に活用する方針を掲げてからは、原発の再稼働の促進、原発の新設などを視野にいれた新たな交付金制度が考えられ、実行に移されつつあります。

国の原発に関連した交付金の制度は複雑でわかりにくいのですが、私たちが思っている以上に交付金の対象は多方面に広がっており、その金額も膨大なものとなっています。このため交付金の影響力も極めて大きなものになりつつあります。このため私たち市民は国による原発関連の交付金の動きに無関心でいるわけにはいきません。以上の意味から、原発関連の交付金など、いわゆる「原子力マネー」の実情・実体を理解していただくために、まず初めに、原発施設を誘致した場合に関連した国の交付金の類がどのように支払われることになるのか、最近注目されている山口県上関町の使用済み燃料の中間貯蔵施設の建設を実例として、具体的に説明します。次いで、「電源三法交付金」と称されている原発施設の建設に関する国の交付金制度の全体像について、その概要を示すとともに、原発推進のための最近新たに設けられている交付金制度などについて説明します。

Ⅰ:山口県上関町が燃料中間貯蔵施設の調査を受け入れた背景と建設に関連した各種交付金について

上記のように去る8月18日、山口県上関町の西哲夫町長が、中間貯蔵施設(注参照)の建設に向けた中国電力と関電による調査を受け入れることを表明しました。あくまでもまだ調査受け入れの段階ですが建設が実現されれば、完成すれば、青森県むつ市に次いで国内で二カ所目の中間貯蔵施設になります。

(注)「中間貯蔵施設」:本来であれば各原発の使用済みの核燃料は原発内のプールで保管された後、青森県六ケ所村の使用済み燃料の再処理工場に搬入されるはずなのですが、再処理工場の完成が大幅に遅れているため現在のところ搬入できません。このため使用済み燃料は原発敷地内のプールに保管されていますが、プールの保管容量に余裕が少なくなりつつあり、原発によっては、このまま放置するとプールは満杯になり使用済み燃料の保管場所がなくなり、その結果、原発による発電を続けることができなくなりかねません。電事連の調査では、今年3月末の時点で、国内にある原発内の貯蔵容量2万Ⅰ350トンのうち7割以上が埋まっています。関電高浜原発では、あと4年で発電敷地内の貯蔵施設が満杯になります。このような事態を避けるために窮余の策として計画されたのが中国電力と関西電力の共用による中間貯蔵施設です。再処理工場への搬入が可能になるまで、一時的に使用済み燃料を原発の敷地外に保管するための施設です。いつ再処理工場に搬入され実際に再処理が実施されるようになるかは現時点ではまったく不明です。このため、中間貯蔵施設が最終処分場と化してしまうのではないと懸念する声もあります。

中間貯蔵施設に関しては、調査受け入れだけでも、知事が同意するまでに、最大1.4億円が国から交付され、次いで知事同意後の2年間に最大9憶8000万円が交付されます。さらに、建設や運転段階では貯蔵容量に応じて(保管料を意味していると考えられる)交付金が出されます。また、実際に建設されれば固定資産税が入ります。このため、上関町の町長は「交付金や固定資産税が入れば、町の財政が安定するのは間違いない」としています。また、西日本新聞(2023年9月8日デジタル版)の社説によれば「立地調査から50年間の操業期間が終えるまでに、約350憶円の交付金が支給されることになる。これが受け入れの決め手になった」とされています。

上関町の場合、同町内に原発を建設する中国電力の計画が以前からあるため、関連の交付金がすでに支払われてきました(注1参照)。原発建設計画は福島原発事故後に中断されていますが、再開されれば、上記の中間貯蔵施設に関連した交付金以外に、原発建設に関連した交付金の収入が今後期待できるとされています。また一方において、上記のように原発関連の交付金が中断されているため、その後、高齢化・過疎化などにより財政が窮迫しているとして(注2)中国電力から何度も多額の寄付を受けています(注3参照)
(注1)発建設計画に関して国からすてに多額の交付金が出ています(金額:1984~2010に総額45憶円:原子力発電施設等立地地域特別交付金、当時の人口3500人)。以上は〈「原発のコスト」:大島堅一、岩波新書,2011年12月刊〉より。しかし2009年4月から敷地造成などの準備工事に着手していたものの、福島原発事故後に工事が中断され、交付金の支給も止まっています)

(注2)この40年で人口は3分の1の2310人に。高齢化率6割近い。町税収入は2億円に満たない。

(注3)中国電力は07~100年に24億円、震災後の18年に8億円、19年に4億円を上関町へ寄付しています。


Ⅱ:原発施設に関する国の交付金制度:電源三法交付金の概要について

次に、原発・原発関連施設を対象とした国の交付金制度について、その概要を示します。原発に関する地方自治体への交付金は「電源三法」と称される法律に基づいた「電源三法交付金」の制度に基づいています。この交付金は基本的には原発の立地に関するコストを対象としたものです。しかし、実際には交付金の対象は原発だけでなく原発関連施設(使用済み燃料再処理工場や使用済み燃料の中間貯蔵施設、高レベル放射性廃棄物最終処分場など)をも含めた多様なものとなっています。特に岸田内閣が脱炭素の手段として原発を推進することを、原子力基本法などの関連法規を改正することにより、政策として正式に決定しており、このため、最近は原発の再稼働や新増設、プルサーマル発電などを推進するための交付金などが設けられるようになっています。

電源三法とは、具体的には「電源開発促進税法」、「特別会計に関する法律(旧 電源開発促進対策特別会計法)」、「発電用施設周辺地域整備法」と称される法律を意味しています。これらの法律の主な目的は、電源開発が行われる地域に対して補助金を交付し、これによって電源の開発(発電所建設など)の建設を促進し、運転を円滑にすることであるとされています。

1960年代以降、日本の電力は、火力発電所に比重を強めていましたが、1973年に起きた第1次石油危機のために、火力発電所に依存する日本経済は大きく混乱しました。この経験を受けて、1974年に火力発電以外の電源を開発することによって電力に関するリスクを分散し、火力発電への過度の依存を脱却することを目的として、電源三法が制定されたとされています。電源三法による地方自治体への交付金は「電源三法交付金」と称されています。このような電源三法の体系は1974年に作られました(以上の電源三法に関する説明は主に「ウィキペディア」などによる)。

原発の新設が決まると、環境への影響に関する評価の開始時点から交付金の支払いが開始され、その後は、運転開始、稼働期間を通じて支払われることになります。支払われる交付金は、大きくは5種類の交付金から成る「電源立地地域対策交付金」と「原子力発電施設立地地域共生交付金」です。

・原発1基あたり45年間に1240憶円の電源三法交付金(2010年当時)
資源エネルギー庁による2010年3月の資料(「電源立地制度の概要」)に基づけば、135万キロワットの原発の場合、建設期間を10年とした場合、運転開始までに449憶円が自治体(立地市町村に支給される場合もあれば立地道県に支払われる場合もあります)に支払われ、さらに運転開始後も年間20億円程度の交付金が出され、運転開始後30年を超え原発が老朽化すると「原子力発電施設立地地域共生交付金」が追加され、30~34年目には30億円程度が自治体に入ります。これらをすべて合計すると、原発1基当たり1240憶円が45年間の間に支給されることになります。(以上、資源エネルギー庁の資料に関しては前掲書「原発のコスト」による)。福島原発事故後から現在までに、とくに岸田政権により脱炭素を理由に原発推進の政策が決定されてからは、後に述べるように新たな内容の交付金制度なども設けられているために、また関連法の改正により運転期間が60年超になる場合も考えられるため、上記の1基あたり1240億円という電源三法に基づく交付金の総額は、今後さらに大きなものになるものと考えられます。

・交付金の財源
電源交付金の財源は「電源開発促進税」と称される税金です。この税は消費者が支払う電気料金に含めて徴収されるため、税制に基づく需要がなくても、すなわち交付金支払いの必要性がなくても、資金的には毎年確保されます。このように税収に余裕があるため、使途が次第に拡大され、2003年度からは地場産業振興、コミュニティバス事業、外国人講師の採用による外国語授業などにまで支援の対象になっている事例も存在しています。もともと交付金の使途は、公民館や体育館、温水プールなどの公共施設に限定されていましたが、現在も公共施設が主な使途となっています。以下に交付金の使途の例として、山口県上関町、再処理工場が建設中の青森県六ケ所村、中間貯蔵施設を誘致した青森県むつ市の場合を示します。


Ⅲ:交付金使途の実態:原発施設を立地している自治体の財政に大きな影響を及ぼしている交付金

《山口県上関町の例(町予算歳入の大きな部分を占める原発と中間貯蔵施設の交付金)》

先に述べたように、山口県の上関町(人口約3500人)は上関原発の建設を対象に1984~2020の間に約45億円の交付金が支払われており、その結果、2011年度一般会計当初予算歳入(44億円)のうち、税収部分は歳入部分の5%にあたる約2億千万であったのに対して、原発がらみの歳入はおよそ3分の1に当たる約14億円に達していました。このため、交付金は中国電力からの多額の寄付(2007年以降24億円)とともに、原発受け入れの原動力になっています。このように、交付金は地元自治体を原発がらみの資金漬けとも言うべき状態にしてしまいます。その後、福島第一原発の大事故のため原発の建設が中断されたために原発建設に関係した交付金は中断されていますが、中間貯施設の建設が決まれば前述のように中間貯蔵施設の建設に伴う交付金が長期〈50年間〉にわたり支給されることになるため、町の予算において交付金が占める割合が高い状態が今後も長期にわたり続くものと考えられます。

《青森県六ケ所村の例(使用済み核燃料の再処理工場):「再処理の事業がなくなれば、貧しい過去に逆戻りだ」の声も》

青森県六ケ所村((人口2021年3月31日現在:約1万100人)に建設中の核燃料サイクルの中核施設である再処理工場は、1993年に着工されたのですが、未だに完成しておらず今後の見通しは不透明です。しかし、これまでに極めて膨大な費用が投入されており、2021年6月28日の 日経(デジタル版)によれば、「経済産業省の認可法人である〈使用済燃料再処理機構〉(青森市)が、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の総事業費が14兆4400億円になったと発表した」とされています。

核燃料サイクルの中核施設である再処理工場の計画は、上記のように、通常の原発新設とは比較にならない、これまでに例がない極めて大規模の事業です(通常の原発の建設費は、以前は5000億円~6000憶円程度、最近は安全対策費などにより大幅に増えており、場合によっては1兆円超になるとされています)。このため、建設工事開始から今年で30年が経ちますが、この間、通常の原発建設に伴う交付金をはるかに上回る膨大な額の交付金や関連費用が国から支出されているものと考えられます。しかし、交付金など関連費用の総額がどの程度のものであるか、その全体像は定かではありません。このため、交付金などに関して、最近明らかにっている事柄だけを以下に記すものとします。

六ケ所村は春から夏にかけて吹く「やませ」のために農業は振るわず、不漁も続き、農家は出稼ぎをせざるを得ませんでした。高度成長期に石油コンビナート建設計画が国策として浮上したものの、賛否で村を二分されましたが計画はとん挫、そのあと1980年代に再処理工場建設が計画され、1993年から建設工事が開始されました。

六ケ所村では、再処理工場に関して、かつて賛否で村が二分されることもありましたたが、高齢化や転出などにより、今では反対派はわずかであるとされています。工事着工の1993年以降、様々な交付金が入り続けるため、再処理工場はいまだに未完成なのですが、「再処理の事業がなくなれば、貧しい過去に逆戻りだ」、「ずっと未操業が一番」との声さえあるとされています。村内には再処理事業を担う日本原子力燃料㈱や関連会社の関係者も多数いるため、今では表立って反対する声はわずかであるとされています。再処理施設に関する1985~2021年の工事発注額は約5兆円ですが、そのうち9000億円超を県内の企業が受注しています。そのうえ、多額の固定資産税が地元自治体に入るなど、稼働せずとも村や県は経済的に潤うことになります。さらには、再処理工場が稼働すれば税収が増えることが期待できます。

・六ケ所村、交付金漬けの構図:
六ケ所村の2022年度の一般会計の歳入は約150億円ですが、このうち日本原燃にかかわる電源立地地域対策交付金が約15%を占めており、約22億円に達しています(朝日デジタル版2022年9月8日による)。再処理工場は建設から操業段階に変わると交付単価が上がり、固定資産税も入るため、村の財政にとって再処理工場が操業するに至るかどうかは大きい問題です。村の幹部は「稼働すれば税収が30億円増える」と期待しています。

 使用済み燃料が搬入されなくても、再処理工場が稼働しなくても、誘致に手を上げた六ケ所村には国から交付金が入ることになります。肝心の使用済み燃料が搬入されない以上、核のリスクにさらされることもありません。このため、上記のように「ずっと未操業が一番だ」という地元の本音も聞かれるという有様です。原子力施設の是非を巡って住民が分裂し、施設受け入れに賛成した住民だけ残った結果、このような、まさに「交付金漬け」という状況が生じていると言えます。

(以上、六ケ所村の状況に関する説明は、主に2023年9月10日付け「47News」デジタル版の「核のまちを受け入れたら、今後どうなる」と題された共同通信の記事によるものです)

・青森県むつ市の例(中間貯蔵施設):財政悪化の打開策は50年間で1000億円の「核燃料税」
青森県むつ市(人口約5万4000人)は2003年に東電と日本原電との合弁会社による中間貯蔵施設の誘致を表明しましたが、一方において、交付金獲得の手段として、貯蔵される使用済み核燃料の量に合わせて課税する独自の「核燃料税」を導入することに関して、国の同意を得ました。このため貯蔵開始か50年間で1000億円以上の税収が独自財源として見込まれています。最終的に5千トンを最長50年間保管とされています。むつ市の今年度(2023年度)の一般会計当初予算総額は405億とされていますから、今後予算総額が大きく変動しないとすると、「核燃料税」により2年半分の予算が賄われることになります。むつ市の場合、税金として事業者から徴収する形をとっていますが、この独自の税制は国の許しを得たものであるため、実質的には、国による交付金に代わるものであると言えます。
むつ市は赤字団体へ転落するかもしれないとい危機感から中間貯蔵施設を誘致したという経緯があります。当時、宮下宗一市長(現青森県知事)は「国策に依存していると皆さんは見ると思う。だが自主財源として確保できれば、未来をつくる資金になる」としていました。


Ⅳ:電源三法交付金に代わる原発施設立地自治体への対策、原発の強力な推進を意図した様々な名目による新たな制度や交付金の出現

電源三法交付金の制度による様々の内容の交付金は福島原発事故よりも以前から支給されていますが、交付金という形式以外にも、上記の青森県むつ市の例にみられるように、「核燃料税」と称される地方税を電力会社から徴収することを原発施設が立地されている道県や市町村に特別に許可することにより、国が自治体へ財政支援を行うとなどの方法も採られています。

一方、福島原発事故後における国のエネルギー基本計画では、事故を反省して「原発への依存度をできる限り減らす」ことが原則とされてきましたが、岸田政権になってからは脱炭素社会実現のためという名目で原子力政策を大きく転換しています。すなわち、原発の運転期間を60年以上にするための法改正に伴い、原子力基本法までをも改正して基本法に原発推進を明記するなど、原発推進に大きく舵を切っており、今年の2月には、原発を「最大限活用」する方針を閣議決定するに至っています。このような背景の下に、最近、強力な原発推進を可能とする新たな交付金が次々に設けられようとしています。以下に、電源三法による交付金制度と並ぶ立地自治体支援策である「核燃料税」と福島原発事故後の新たな交付金制度などについて具体的な内容を記します。

・核燃料への課税
《核燃料税》:これは各原発が使用することを計画している核燃料に対して課せられる、法定外普通税(地方税法に定めのある以外の税目の地方税で、普通税であるものを指します)の一つであり、電源三法交付金と並ぶ「原子力マネー」の一つです。都道府県が条例で定めることができる税金であり、原子力発電所の原子炉に挿入する核燃料の価格を基準にして、原子炉の設置者である電力会社に課せられます。原子力発電所だけでなく再処理施設での取扱いなどにも課税されており、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場に関しても、「核燃料物質等取扱税」として徴収されています。

直接的には電力会社がこの税を負担することになるのですが、課税された分は必要経費に算入することにより、最終的に総括原価方式(必要経費よりなる供給原価に一定の利潤を上乗せして料金を決定する、電気・ガス・水道に適用される方式)により消費者の電気料金に転嫁されることになります。つまり核燃料税は、最終的には消費者が負担することになります。

核燃料税は、福島原発事故後、稼働している原発の数が減っているにもかかわらず、大幅に増えています。たとえば、福島原発の事故直後の2011年の税収総額は201億円でしたが、2020年度には467億円に達する見込みであり、10年間で2倍に達しており、事故前の水準を上回っています。福島原発事故以前、各地の原発が動いていた2020年度の総額403億と比べても大きくなっており、電気料金に影響を及ぼす可能性も考えられます。

核燃料税は原発を動かす際に使用する核燃料の価格に応じて課税するという方式で始まったのですが、福島原発事故の影響で各地の原発が止まり、2011年度には立地6県で税収がゼロになりました。このような状況の中で、福井県が2011年秋、原子炉の出力に応じて課税する「出力割」という課税制度を始めました。これは原発が止まっていても一定の税収が得られる仕組みであり、他の道県も続いて導入しています。愛媛県は2014年に廃炉になった原発にも「出力割」の制度を導入、佐賀県なども同様の措置を講じています。

《使用済み核燃料税》:使用済み核燃料に対する課税に関しては、福井県が2016年に、使用済み燃料の県外への持ち出しを促すとする「搬出促進割」と称される制度を導入しています。次いで、2019年に、愛媛県と佐賀県が、四国電力伊方原発と九電玄海原発に保管されている使用済み燃料に関して課税を開始しています。また県だけはなく、立地されている伊方町と玄海町も課税を初めており、同一の原発に二重に課税するという状況になっています。また、前述のように、青森県むつ市は中間貯蔵施設に保管される使用済み燃料に関して課税を行うとしており、5年間で93億円の税収を見込んでいるとされています。
 使用済み核燃料税を全国で最初に福井県が開始した1976年からの全立地自治体による税収は、2020年度までに計1兆円を超えており、今後さらに増える見込みです。

このように課税が強化されていることの背景には、原発が止まって廃炉が進む一方で、立地自治体の収入となる固定資産税や電源三法交付金が減っているという事情があるものと考えられます。立地自治体の多くは「原発が動いていなくても、避難道路の整備など、財政需要がある」などとしていますが、税収の使途には、実際には温泉施設の維持管理など直接関係のない支出も目立っています。

 2016年の電力自由化までは、核燃料税と使用済み核燃料税の電力会社に対する課税分は利用者の電気料金に上乗せされていましたが、自由化後もこれらの課税分は電気料金に含めて回収されるため、消費者が負担する電気料金に影響を及ぼす可能性が存在しています。(以上、核燃料税、使用済み核燃料税などの税収額に関しては主に2021年1月11日付け朝日新聞デジタル版による)

・プルサーマル発電を推進拡大するための交付金
エネルギー資源の乏しい日本は、使用済み燃料を再処理して得られるプルトニウムを高速増殖炉「もんじゅ」の燃料として再利用すること、ならびにプルトニウムをMOX燃料(ウランとプルトニウムの混合燃料)の形で核燃料として再び利用することを意図して核燃料サイクル計画を進めてきましたが、高速増殖炉の開発計画は完成の見込みがなく事実上放棄されているため、プルトニウムの使い道は通常のウラン燃料とMOX燃料を併用する、いわゆる「プルサーマル発電」しか存在していません。一方、プルトニウムは核兵器にも転用できるため、保有量を減らすよう米国など国際社会から強く求められていることから、国内でプルサーマル発電を通じてプルトニウムの保有量が減らすことが必要とされています。

この二つの理由から、国はプルサーマル発電を推進するよう電力会社に求めています。政府は当面、2030年度までに12基以上の原発でプルサーマル発電の実現を目指していますが、現時点ではわずか4基の原発に留まっています。このため経済産業省は2022年度に、再処理により得られたプルトニウムをプルサーマル発電に用いることに新たに同意した原発立地自治体に交付金を出す方針を決定しています。
電気事業連合会によると、原子力規制員会による安全審査に合格し、再稼働を準備中の中国電力島根原発2号機や日本原子力発電の東海第二原発などでのプルサーマル発電が想定されているとのことです。

1993年に着工した青森県六ケ所村の再処理工場はトラブル続きで完成時期が何度も延長されており、現時点では2024年度中に完成とされています。再処理工場が実際に本格稼働すればプルトニウムの保有量がさらに増える可能性も考えられます。一方、プルサーマル発電には、運転中の原子炉の安定性がウラン燃料のみによる通常の発電よる場合よりも劣るこという欠点や、MOX燃料の価格がウラン燃料よりも格段に高いため、プルサーマル発電を行うことはエネルギー資源の有効利用という意味は有していても経済的メリットは存在していないという欠点が存在しています。このため、国がプルサーマル発電を推進拡大することを意図しても、実際にどこまで拡大することができるかは、大いに疑問です。
また、プルサーマル発電に関しては、2009年までに同意した自治体へ向けての別の交付金制度が存在していましたが、現在は打ち切られています。(上記の電気事業連合会による情報は2022年1月3日の日経デジタル版による)

・原発の再稼働を促進するための交付金

岸田政権は原子力政策を大きく変更し、脱炭素社会実現のためとして原発を積極的に推進することを掲げていますが、当面は福島原発事故後運転を停止している原発を1基でも多く稼働させることに注力することを方針としています。

現在、国内には33基の発電用原子炉が存在しています。このうち、福島原発事故のあと新しい規制基準の審査に合格して再稼働しているのは、去る9月15日に再稼働した高浜原発2号機を加えて、全国で12基となりました。すなわり、これまでに九州電力が川内原発1号機と2号機、玄海原発3号機と4号機を、四国電力が、伊方原発3号機を、関西電力が高浜原発1号機から4号機、大飯原発3号機と4号機、美浜原発3号機を再稼働させています。
原発が再稼働された際、立地道県は、地域振興計画を策定して国に申請すれば、最大5億円を受け取ることができます。ところが、2022年11月に経産省は、原発が再稼働された場合に立地自治体が受け取ることができる交付金について、原発が立地されている市町村に隣接する県にもこの交付金の対象を広げており、隣接県には最大2.5憶円を支給するとしています。

この改正は島根原発がある松江市に隣接する鳥取県が、原子力防災に等に要する費用について、国に財政支援を求めていたことを受けて拡充したものであり、特例として2023年3月までに再稼働に同意するなどの条件を満たした場合は、立地する県には最大10億円、隣接県は最大5億円とする規定も盛り込まれています。このような特例を設けるという措置を講じていることからも、国が再稼働に至る原発を1基でも増やすことに非常に注力していることが分かります。

原発が立地されている市町村に隣接している県は、この他に、敦賀原発2号機がある福井県敦賀市に隣接する滋賀県があります(以上、島根原発に関する説明は2022年11月10日のNHKデジタル版)。
     
また、2021年に福井県が老朽化原発の再稼働を受け入れた際には、国は1発電所当たり最大25億円の交付金を出すという支援策を提示していたとされています(2023年9月18日付け朝日新聞)。

・原発の安全対策を公的に支援することを意図した新たな制度の導入
 経産省は去る7月26日、脱炭素に関する審議会を開催しました。この審議会は、再生可能エネルギーの発電所を新設したり、火力発電所などで二酸化炭素の排出を減らす改修を行ったりした際、電気の小売り事業者の負担で原則20年間は発電容量に応じた固定収入が保証されるようにすることにより、投資の回収を支援する仕組み内容とする「長期脱炭素電源オークション」と称される新たな制度を今年度中に導入することを目指して行われたものです。ところが、経産省はこの会議において、既存の原発の再稼働を促すため、原発の安全対策にかかる費用は脱炭素の実現に貢献する投資であると位置づけることにより、上記の新たな支援制度の対象に加える検討を始めることを明らかにしました。

 全国の原発では、新たな規制基準に合格するために追加の安全対策が講じられており、電力各社によると、その額は再稼働した原発1基当たり2000億円前後と巨額の負担になっているとされています。昨年8月の時点で、大手電力11社における負担は少なくとも計5兆4千億円に達するものと見積もられていますが、総額は今後さらに膨らむ見込みとされています。

原発の安全対策に要する費用が脱炭素促進のための上記の新制度に対象とされることになった場合、安全対策のための費用は電気の小売り会社(大手電力会社、新電力)を介して、家庭などの消費者が負担する仕組みになっています。このため、再生可能エネルギーによる電気を売る新電力の利用者も原発推進を下支えすることになります。当初の条件は原発の新設や建て替えなど「運転開始前」の原発に対象が限定されていたのですが、この条件に既存の原発も含められることになると、この新制度自体は原発支援の色彩を強めることになります。審議会では「原発の安全対策で二酸化炭素が減るわけではないため、脱炭素促進を意図した新制度の趣旨に沿わない」などとする反対意見も出されましたが、原発の安全対策費がこの新制度の対象とされる可能性は大きいものと考えられます。(以上は2023年7月26日のNHKデジタル版、同日の朝日新聞デジタル版などによる)

・電力会社から原発立地自治体への多額の寄付
以上は国による原発立地自治体あるいは原発を保有する大手電力会社への支援策ですが、立地自治体への支援策の一つとして、これらの支援策に加えて、電力会社から立地自治体への寄付という手段が存在しています。電力会社により巨額の寄付が行われていることは、各地の原発が立地されている自治体で確認されています。電力会社による寄付は電源三法に基づく交付金とは異なり、法律に基づくものでありません。しかし、またその財源は元を正せば消費者が支払う電気料金です。

 たとえば、前述のように中間貯蔵施設の建設を受け入れようとしている山口県上関町は、これまでに中国電力による多額の寄付を受けています。以前から中国電力による原発建設計画がありました。福島原発事故後に計画は中断されているため原発建設に関連した交付金は途絶えましたが、計画中断後、上関町はこれまでに何度も町の財政難を理由に中国電力に寄付を要請しており、このため前述のように中国電力は2007~2010年に24億円、震災後の18年に8億円、19年に4億円を寄付しています。

また、関西電力は1970~2009年度に17回にわたり少なくとも44億円を原発が立地されている福井県高浜町に寄付してことが知られています。このうち6回は関電による寄付であることが明記されていますが、3回は匿名にされていました(以上は2019年10月20日付け朝日新聞デジタル版による)。

一方、原発の運転が停止されている、福井県敦賀市に立地されている日本原電(日本原子力発電㈱)の敦賀原発(3基,内1基は廃炉が決定)に関して、関電と日本原電が市道整備費として2018~2021年に15億円を提供することが明らかになったとされています(これは実質的に寄付ですが、両社は道路法に基づく負担金としています)。また、これとは別に、日本原電は2009~2013年に計19憶8千万円をこの市道建設のために寄付しており、原発災害発生時のアクセス道路として費用を負担したとしています。 

(おわりに)
以上、国の電源三法に基づく交付金を中心に、原発推進ために「原発マネー」がどのように投入されているのか、実例を交えて、ごく大雑把な説明を記しました。電源三法に基づく交付金の財源は電源開発促進税であり、この税は電気料金に含められる形で消費者が負担しています。また、大手電力会社による立地自治体への寄付など地元対策のための費用も、結局は消費者が負担することになります。大手電力の電気の消費者だけではなく、再生可能エネルギーによる「新電力」の消費者も同様に負担することになります。すなわち、原発は不要と考える市民も知らぬ間に原発推進に協力することになるというのが原発マネーの巧妙な仕組みなのです。原発施設の立地自治体を様々な形で「原発マネー漬け」にすることにより原発を推進しようとする国の姿勢は、今後強まる一方であろうと考えられます。この意味から、私たち電気の消費者である市民は常に「原発マネー」の動きに目を向けていかなければなりません。 

2023年10月1日

《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進

〒520-0812
大津市木下町17-41
電話:077-522-5415
メールアドレス:ssmcatch@nifty.ne.jp

福島第一原発のトリチウム汚染水の海洋放出問題 福島の漁民のみなさんによる漁業再開に向けての努力を台無しにする海洋への放出は中止すべきです

2023-09-03 22:36:03 | 記事
《 2023年9月:第116回・脱原発市民ウォーク in 滋賀のご案内 》

まだ残暑が厳しい日々ですが、次回の脱原発市民ウォークを9月9日(土)に
おこないます(午後1時半、JR膳所駅前広場に集合)。

どなたでも自由にご自分のスタイルで参加できます。
都合のつく方はぜひ足をお運びください。

■■ 福島第一原発のトリチウム汚染水の海洋放出問題 ■■
■福島の漁民のみなさんによる漁業再開に向けての努力を台無しにする
                   海洋への放出は中止すべきです■


皆さんもご存知のように、去る8月24日、国と東電は福島第一原発の事故により生じたトリチウム汚染水(注参照)の海洋への放出を開始しました。2011年に起きた大事故の後2~3年の間は、事故により原子炉などの原発施設内に拡散乱した各種の放射性物質を含んでいる原子炉の冷却水や原発敷地内に流れ込んだ雨水・地下水などは、何の処理も施されずそのまま海へ垂れ流されていました。その後、ALPS(Advanced Liquid Processing System:多核種除去設備、様々な核物質を除去する装置)が導入・設置され、そのため様々な核物質を基準値以下にまで除去してから原発敷地内に設置された多数のタンクに保管されるようになりました。一方、国と東電はタンクに保管されているいわゆる「処理水」(正確には「ALPS処理水」)の処分方法に関して検討を開始し、ALPSでは除去することができない放射性物質トリチウム(水素の放射性同位体)よりなるトリチウム水(水の分子を構成する2個の水素のうち1個がトリチウムに置き換わったもの)を海水で薄めてWHOが定めた基準値以下にした後に海へ放出するという方針を決定するに至りました。その後、国際機関である国際原子力機関(IAEA)が海洋への放出という処分方法は科学的観点から問題がないと評価したことを受けて、国と東電は海洋放出を実行することを最終的に決定し、2023年8月24日に放出が開始され、今日に至っています。

 放射性物質であるトリチウムが明らかに含まれている水を海へ放出することの是非という問題は、科学技術的問題と社会的な問題が入り組んだ複雑な問題であり、科学的に未解明・未確定な要因も少なからず存在しているため、簡単に結論的なことを述べることは容易ではありません。したがって、以下に記す内容は、あくまでも様々な資料や報道内容などに基づく私の個人的な見解に過ぎません。このため何らかの点において考えを異にする方もおられるかと思いますが、この問題を考えるに際して参考にしていただければ幸いです。
(注:トリチウムが含まれている廃水についてはメディアではほとんどの場合「処理水」という用語が使われていますが、「汚染水」と称するべきだという声もあります。ウィキペディアではALPSで処理された水という意味で「ALPS処理水」と称するのが適切としています。単に「処理水」や「汚染水」としたのでは意味するところが曖昧です。しかし問題の中心はトリチウムです。このため、後に記すIAEAの文書では「ALPS処理水(ALPS treated water)」という用語が使われていますが、この私の一文では「トリチウムで汚染されている水」という意味で、以下「トリチウム汚染水」という言葉を用いることにします)

私はこのたびの国・東電による「トリチウム汚染水」の海への放出に強く反対します。その主な理由は以下のとおりです。

・政府は「関係者の理解を得ずにはいかなる処分も行わない」とした漁業関係者との事前の明確な約束を意図的に反故にしました。しかし、重要な公的約束を一方的に破棄し反故にすることは、権力の濫用とも言うべき行為に他なりません。民主的な社会においては、とりわけ多くの人々が関係する事柄に関しては、権力の濫用が許されないことは言うまでもありません。したがって、たとえ海洋への放出に何ら科学的な問題がないとしても、このような国の行為を市民として看過するわけにはいきません。

・このたび海洋への放出の可否に関して評価を行った国際機関IAEA(注1参照)はその報告書で、人体への影響は無視できる程度であると結論付けてはいますが、一方において、国・東電による放出計画に関して「これは日本政府による国家の決定であり、報告書は推奨するものでも、支持するものでもない」と一定の距離を置いていることを明記しています(注2)。すなわちIAEAは海洋への放出が唯一かつ最適の方法であるとしているわけではありません。したがって、環境中に有害物を放出するという処分方法ではなく、より適切な別の方策を検討し、講じるべきです。

・間違いなく風評被害が起きます。風評による被害に最もさらされるのは福島を中心とした漁業関係者たちです。たとえ金銭的補償や賠償などの措置が講じられようとも、十年に及び本格的な漁業再開を目指してきた福島の漁民の方々の努力は台無しになります。
(注1:国際原子力機関:国連の保護下にある自治機関。目的は原子力と放射線医学を含む核技術の平和的利用の促進ならびに原子力の軍事利用すなわち核兵器開発の防止)。
(注2:また、2023年9月1日付けのプレジデント・オンラインは「IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、ロイターのインタビューで、『IAEAは(処理水放出の)計画の支持も推奨もおこなっていない。計画が基準に合致していると判断した』と述べ、処理水放出の最終決定は日本政府が行うものだとゲタを預ける形になった」と報じています)

上記の反対理由が根拠を有するものであることを裏付けるために、以下に「トリチウム汚染水」問題を取り巻く最近の状況と問題点などを記すことにします。

【海への放出に至るまでの、国による処分方法の検討経過などの概要】

2015年:政府と東電が、処理水の処分を巡り、福島県漁連に「関係者へ丁寧に説明し、理解なしにはいかなる処分もしない」と文書で伝える
2018年8月:政府は、福島で2箇所、東京で1箇所、「説明・公聴会」を開催。意見を述べた44人のうち42人が明確に海洋放出に反対しました(その後、公聴会は開催されていません)
2018年11月11日:経産省の「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」の第1回会合が開催される。以後十数回開かれ、トリチウム汚染水の処分方法が検討される。
2021年4月13日:政府がトリチウム汚染水を海洋へ放出する方針を決定
2021年7月3日:政府がトリチウム汚染水の放出計画の検証について国際原子力機関(IAEA)と合意
(IAEAの検証作業は海洋放出に反対する中国、韓国の他、米国など11カ国の専門家が関わり、現地調査も実施し、2年間で今回を含め計7本の報告書をまとめました。放出開始後も評価やモニタリングを行うとされています)
2022年8月4日:東電が海洋放出に関連した設備の工事を開始
2023年1月23日:政府が放出開始時期を「今年春から夏ごろ」とする方針を決定
2023年6月26日:設備工事完了
2023年6月28日:松野博一官房長官が、2025年に政府と東電が福島県漁連に伝えた「理解なしにいかなる処分も行わない」とする方針を「遵守する」と明言
2023年7月4日:IAEAが包括報告書を公表。「計画は国際的安全基準に合致」と結論
2023年7月:原子力規制委員会が東電に設備の検査適合の修了書を交付
2023年8月22日:国(岸田首相)が24日に放出を開始することを決定。今年度の放出計画を発表(貯蔵タンク30基分に相当する計約3万1000トンを4回に分けて放流)。西村康稔経産相が福島県漁連の理事会に出席、県漁連会長の野崎哲会長は「これからも放出反対の立場だ」と改めて強調
2023年8月24日:放流開始。中国政府が日本産水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表

【政府・東電によるトリチウム汚染水の海洋放出計画の概要】

現時点で、トリチウム汚染水の総量は約130万トンであり、1000個余りのタンクに保管されています。トリチウムの総量は約780兆ベクレル(注1参照)とされています。計画によれば、一年間に22兆ベクレル未満の量を放出するとされています(注2参照)。この前提に立つと、現存するトリチウム汚染水が完全に放出されるまでには約35年を要することになります。またタンク内に現在保管されているトリチウム汚染水には1リットルあたり6万ベクレルのトリチウムが含まれているため、WHO(世界保健機構)の飲料水に含まれるトリチウムの基準値である1万ベクレルを下回るようにするために(注3参照)、40倍に海水で薄めて放出するとされています(このため放出される海水には計算上は6万÷40=1500ベクレル/リットルのトリチウムが含まれていることになります)。つまり国・東電は、WHOの基準を大幅に下回る放出が行われることになるとしています。なお、環境省の専門家会議は7月14日に、放出開始後から当面は週1回採水し、1週間程度で結果を公表することを決めています。

(注1:ベクレル(Bq)は壊変率という、放射能(放射性物質)の量を表す単位です。「壊変率」とは放射性同位体が単位時間あたりに「壊れて変わってしまう」数 のことであり、半減期の計算とも大きく関係する概念です。壊変率が高いほど、すなわちベクレルの数値が高いほど、放たれる放射線の数は大きくなることを意味します。いわば放射性物質の量を表示するための単位です)

(注2:年間に22兆ベクレルを超えない範囲で放出することにしているのは、事故以前に福島第一原発において設定していた年間のトリチウム放出量の管理基準を念頭に置いていることによるものであると推測されます)

(注3:水1リットルを飲んだ場合の被ばく線量は、計算上は約0.00019ミリシーベルトとなります)。

(参考:飲料水に関する各国の規制基準は,1リットルあたり、WHOが10000ベクレル、カナダが7000ベクレル、米国が740ベクレル、EUが100ベクレルであり、日本は基準を決めていません(トリチウムを含む水の規制値は? - SYNODOSによる)

放出計画における疑問点:ALPSによる処理は果たして完全に行わるのか?
上記の説明はALPS処理が完全に行われることを前提にしたものです。ALPSは科学的・物理的性質を利用した処理方法で、トリチウム以外の62種類の放射性物質を国の安全基準を満たすまで取り除くことができるように設計された設備であるとされているのですが、IAEAの報告書には「ALPS処理工程はですべての放射性物質が除去されるわけではないことに注意する必要がある、少量の異なる放射性核種は処理後も水中に残っており(ただし規制値をはるかに下回っている)、トリチウムは全く除去されない」と記されています。ところが、現在約1000基のタンクに保管にされている(注参照)トリチウム汚染水はすでに一度ALPSによる処理を施さてはいるものの、その7割近くはトリチウム以外の様々な放射性物質の量が基準値以下にまで達していません。東電は、放出が行われるまでにALPSによる再処理を行い基準値以下にするとしていますが、再処理が確実に行われ、ほんとうに基準値以下に収まるかは定かではありません。ALPSによる再処理の成否は放出の可否を判断するための欠かすことができない重要な要因であるため、IAEAや原子力規制委員会などの関係機関はALPSによる再処理について、その結果の関して厳重な監視を行う必要があるものと考えられます。

(注:東電は2024年の前半には既存のタンクは満杯に近づくとしており、また、今後の廃炉作業に必要なスペースを確保するためにタンクの一部を撤去する必要があるとしています)

【IAEAによる評価の内容、その科学的根拠、反論などについて】

1 IAEA(国際原子力機関)によるトリチウム汚染水の海洋放出に関する評価の内容
前述のように、国・東電によるトリチウム汚染水の海洋放出に関する評価に携わったIAEAは、去る7月4日に包括報告書を公表しました。この包括報告書は約二年間におよぶIAEAのタスクフォース(特別作業チーム)の活動に基づき、放出開始前の評価として、海洋放出が国際安全基準に合致しているかという点に関して評価を行った技術的レビューの最終的結論を示すものであるとされています(全文はIAEAのホームページに掲載されています)
Executive Summaryと題された 包括報告書の要旨が示されている文書によれば主な内容は以下のとおりです(訳文は原子力規制庁による仮訳です。出典は「ALPS処理水海洋放出の安全性に関するIAEA包括報告書の概要」2,023年7月5日:原子力規制庁)

・IAEAは、国際安全基準を構成する基本安全原則、関連する安全要件及び安全指針を用いて、包括的評価を行った。その結果、ALPS処理水の海洋放出に関する取組、及び東京電力、原子力規制委員会、そして日本政府による関連する活動は、関連する国際基準に合致していると結論づけた(下線部の原文はare consistent with relevant international standards)

・IAEAは、ALPS処理水の海洋放出が、放射線に関連する側面との関連で、社会的、政治的及び環境面での懸念を起こしていることを認識する一方、現在東京電力により計画されている放出は、人と環境に対し無視できるほどの放射線影響となると結論づけた(下線部の原文はwill have a negligible radiological impact on people and the environment)

・放出開始前の段階でレビュてーおよび評価した多くの技術的事項については、放出開始後も関連する国際安全基準への適合性を評価する必要性があり、IAEAは、今後も活動を継続する。

以上の内容からIAEAがトリチウムの海洋への放出を可としていることは明らかです。ただし、IAEAの報告書は、放出に伴い生じると予想されるいわゆる風評被害の問題には具体的には何ら触れていません。

(なお、東電が運営する包括的海域モニタリング閲覧システム(ORBS)で、福島県、環境省、東電などの各機関が福島県沿岸で採取した海中の放射性物質のデータを確認することができるとされています)

2 IAEAが海洋への放流を可としており妥当としていることの科学的根拠・背景
東京電力は、トリチウムはベータ線という弱い放射線を出すものの、そのエネルギーは小さいため紙一枚で遮ることができ、日常生活でも飲料水を通じて体内に入るが、新陳代謝などにより蓄積・濃縮されることなく体外に排出されるとしています。また、カナダ原子力安全委員会(CNSC)は、ネット上に、トリチウムの健康への影響について「比較的弱いβ線源で、皮膚を投下するには弱すぎる。しかし、極端に大量摂取すると、がんリスクを高める可能性がある」と書いています。

またIAEAの報告書は、トリチウム汚染水の放流によって毎年放出されるトリチウムなどの放射性物質の総量について「宇宙線と大気上層部のガスとの相互作用など、自然のプロセスにより毎年生成されるこれらの放射性物質の量をはるかに下回ることに留意すべきである」としています。この点に関して、岸田一隆・青山学院大教授は「トリチウムは、宇宙から降り注ぐ放射線などで地球上に年間約7京ベクレル(京=兆の1万倍)生じており、自然界には100京~130京ベクレル存在するとされている。海水や雨水、水道水にも含まれており、私たちは日常的に体内に取り入れている。福島第一原発事故により飛散したセシウムなどと比べて放射のエネルギーが弱く、水と一緒に排出されるため、蓄積しにくい。WHO(世界保健機構)が定める飲料水に含まれるトリチウムの基準値は1リットルあたり1万ベクレルであり、基準値の水1リットルを飲んでも被ばく量は約0.00019ミリシーベルトに留まる。国内で生活すると、食品や宇宙、大地などの自然環境から年間約2.1ミリシーベルトの被ばくを受けるが、この1万分の1未満の量で、人体への影響は非常に小さいと考えられる(注:復興庁は、1年間放出した場合の放射線の影響は自然界からの放射線の影響の10万分の1としています)。東電は1リットル当たり6万ベクレルのトリチウム汚染水を1リットル当たり1500ベクレル未満になるよう海水で薄め、年間22兆ベクレルを限度に放出するとしている。22兆ベクレルというと大変な量のように感じられるかもしれないが、純度100%のトリチウム水(水の分子を構成する2個の水素の一つが水素の放射性同位元素であるトリチウムと入れ替わった水のこと)に換算すると、たった0.4グラムであり、これを1年間かけて薄めて放出するので、環境に対する影響はほぼないと考えられる。原子力規制員会やIAEAも同様の評価をしている・・・物事のリスクを科学的に評価することは重要だ。社会的決定が非科学的になされると、結果的に社会的不利益が大きくなってしまう」としており、科学と社会をつなぐ「科学コミュニケーション」の問題を指摘しています(以上、岸田教授の発言は2023年8月23日付け毎日新聞による)。

(以上の内容は上記の岸田教授の発言以外は「日本ファクトチェックセンター・JFC」による「福島第一原発の処理水を巡るファクトチェックまとめ」などの内容も参考にしたものです)

3 IAEAによる評価に対する反論などについて
2023年8月27日付け(デジタル版)のBBCニュースは「トリチウム汚染水に関してIAEAは、環境に与える影響は無視できる程度としており、圧倒的に大多数の専門家は安全だと説明しているが、果たして安全なのだろうか、海底や海洋生物、人間に与える影響に関する研究がもっと必要であると多くの科学者が言っている」として、IAEAの評価を疑問視する声を下記のように紹介しています。

・米ジョージ・ワシントン大学の環境関連法の専門家、エミリー・ハモンド教授は「放射性核種(トリチウムなど)が難しいのは、科学が完全に答えることができない問題を提示するからだ。つまり、非常に低いレベルでの被曝において、何が『安全』と言えるかという問題だ」「たとえ基準が守られたと言って、その決定に起因する環境や人体への影響が『ゼロ』になるわけではないと、それを認めつつも、IAEAの活動を大いに信頼することができる」などとしています。

・全米海洋研究所協会は2022年12月に、日本のデータは信用できないとの声明を出しました。米ハワイ大学の海洋学者ロバート・リッチモンド氏は「放射性物質や生態系に関する影響評価が不十分で、日本は水や堆積物、生物に入り込むものを検出できていないのではないかと、とても懸念している。もし検出しても、それを除去することはできない」としています。

・環境保護団体「グリーンピース」の原子力専門家ショーン・バーニー氏は、米サウスカロライナ大学の科学者が2023年4月に発表した論文に言及して、植物や動物がトリチウムを摂取すると「生殖能力の低下」や「DNAを含む細胞構造の損傷」など「直接的な悪影響」を及ぼす可能性があるとしています。

4 トリチウム汚染水の放出が開始されたことに関する世論調査の結果

様々な報道機関が調査を行っていますが毎日新聞による調査(2023年8月28日:26日と27日に調査を実施)では、海洋放出開始を「評価する」とした人が49%であり、「評価しない」(29%)を上回っていたとされています(「わからない」は22%)。海洋放出に関する国・東電の説明に関しては、説明が「不十分」とした人が60%であり、「十分だ」との答え(26%)を大きく上回ったとされています。

5 トリチウムの人体への毒性・悪影響の有無などに関する緒論について
市民団体「原子力市民委員会」は「トリチウム汚染水海洋放出問題資料集」(トリチウム汚染水海洋放出問題資料集 (ccnejapan.com))において、「疫学調査により放射性物質の影響を調べようとしても、対象者が調査対象の物質以外の放射性物質を同時に摂取していることが多いため、調査対象の放射性物質単独の影響を調べるのは困難です。また、疫学調査の代替手段としてマウスなどの動物を用いた実験が行われていますが、ほとんどの場合、高線量を被曝させるという条件での実験であり、低線量被曝に関する研究は数少ないというのが現状です。このためどのような放射性物質であっても、その健康被害を立証することは困難です」としています。

しかし、このたびのIAEAによる評価の内容を直接念頭に置いたものではありませんが、トリチウムが環境や人体に対して有害である、あるいは有害である可能性が考えられるとする指摘あるいは主張を内容とする報文は少なからず存在しています。たとえば、上記の「トリチウム汚染水海洋放出問題資料集」」と題された文書にはその例がいくつも紹介されています。この資料集で紹介されている緒論は、実際の実験などにより裏付けされた内容のものであるのか、科学的・論理的に考えた推論に基づき有害と考えられると主張・指摘したものであるのかは文面からは不明であるため、また紹介内容が簡単なものであるため、、その評価は差し控えることにします。このため上記の資料集に掲載されているいくつかの報文について、その内容をごく簡単に以下に紹介するにとどめることにします。

・河田昌東(かわだまさはる)(生物学・環境科学の専門家)
トリチウムは普通の水と同様、口や呼吸、皮膚を通して体内に入り、水素と同様に蛋白質や遺伝子DNAの構成成分になる。体内の有機物に取り込まれたトリチウムは「有機結合性トリチウム」と呼ばれ、その分子が分解されるまで細胞内に長期間とどまり、ベータ線を出して内部被ばくをもたらす。放射線生物学者ロザリー・バーテルによれば、この「有機結合性トリチウム」の体内残留期間は少なくとも15年以上とされており、体内に入っても短期間に排出されるというのは間違いである。トリチウムの生物への影響に関しては、実験に基づいた研究が行われており、たとえば人間のリンパ球を用いた実験や雌のサルを用いた米国ローレンス・リバモア国立研究による長期間の投与実験では、染色体の破壊などの有害な作用が認められている。

・馬田敏幸(産業医科大学アイソトープ研究センター)
トリチウムの被爆の形態は低線量の内部被ばくが想定されるが、経口・吸入・皮膚吸収により体内に取り込まれたリチウム水は、全身均一に分布することから、その影響は小さくないと考えられる。低レベルのトリチウム曝露によって、事実、人体に影響が出るか否かの議論には、客観的な生物影響データの蓄積が必要であり、低線量・低線量率放射線影響解明のために、トランスジェニック(遺伝子導入が施された)
マウスを用いた、突然変異や発がんなど、放射線の確率的影響に関する研究の推進が望まれる。

・伴秀幸(原子力資料情報室)
トリチウムの生態濃縮が指摘されているレポートがある。英国政府のRIFEレポート(2002)では、トリチウムの濃度は環境中よりも生物中の方が高いとする測定結果が示されている(ただし程度は低い)。ドイツ政府によるKiKK報告書では、原子力施設周辺の子どもたちの白血病が有意に増加していることが疫学的に示されていた。その原因は特定されなかったが、Ian Fairlieは、仮説ながら、原因がトリチウム放出に在ることを問題提起している(定期検査中にトリチウムが放出されることに原因を求めた)。

・国連科学委員会(UNSC)報告書(UNSCEAR 2016 Report Annex C)
職業人と公衆へのトリチウムの放射線毒性について2006年~2010年の間に関心が高まり、カナダ、フランス、イギリスを含む多くの国々で広範な再調査とデータ分析が行われた。トリチウムの人体への影響については、1950~1960年代における米ソ英仏などの核兵器実験で大量のトリチウムが環境中に放出されたため、これがノイズになり、特定の事故などによるトリチウム放出がどれだけ寄与しているのかの判別は難しい。

【トリチウム汚染水の放出に起因する風評被害問題について】

このたびに放出に際して、水産物中に有意な量のトリチウムが検出されるなど、いわば実害が生じて大きな問題となる可能性は極めて小さいものと推測されますが、放出に伴う現実的な最大の問題は風評被害の問題です。風評被害は根拠のない懸念であるとする言説がありますが、有害物を故意に環境中に放出する限りは、放出による被害を定量的に示すことができなくても、そのことが直ちに被害そのものが存在しないこと意味するわけではありません。このため、放出することに伴う風評被害の問題には正面から取り組む必要があります。

 福島県の漁業関係者や漁協の全国組織が、政府の説明を一定程度理解するとしながらも最後の瞬間まで放出に反対であるという姿勢を明確に貫いていたことの最大の理由は風評被害の問題です。福島原発事故後、過去十年にわたり漁業の再開を目指して努力を積みかねてきて、ようやく本格的な再開の時期が近付きつつあるという状況の中での風評被害を招きかねないトリチウム汚染水の放出は、漁民のみなさんにとって最悪の状況です。このままでは後継者が育たないと憂慮する関係者もいるなど、風評被害の最大の被害者は漁業関係者であることは明らかです。

 福島第一原発の大事故の後、かなり長期にわたり国内で福島県産の農水産物の買い控えが生じていました。たとえば福島県産の米に関しては、全量検査が行われ、そのほとんどの放射能レベルは基準値以下であり、検査に合格したものだけが出荷されていたにもかかわらず、売れ行きは芳しくありませんでした。これは風評被害の典型です。このたびの放出では、このような農水産物中の放射能のレベルを問題視することによる風評被害が生じる可能性は福島原発事故後の時期よりも小さいのではないかとも思われますが、「福島民報」の世論調査(2023年6月19日:福島県民テレビとの共同調査)によれば、「大きな風評被害が起きる」とした人が32.1%、「ある程度風評被害が起きるとした人」が55.7%とされており、福島では大半の人々が風評被害をかなり懸念しています。

 一方、7月には欧州連合(EU)が福島産の水産物などに課していた輸入規制を完全に撤廃していましたが、当初から日本によるトリチウム汚染水の放出に強く反対していた中国は、放出開始当日の8月24日に、日本産水産物を全面的に禁輸とする措置を発表しています。放流開始以前から、中国は「日本は太平洋を自分の下水路にしている」などとして強く反対していました。しかしながら、反対するに際して、その具体的な科学的根拠にはほとんど言及していません。このことは中国による反対は、日本から実際に放射能レベルが高い危険な農産物が入ってくることを懸念していることによるものではないことを意味しているのではないかと考えられます。すなわち、中国による反対は、日本側が事前に十分な科学的説明を行っていたとは言えないことも反対の原因の一つであるとは考えられるものの、科学的根拠に立脚したものというよりも、最近の日中の外交関係が急激に悪化していることに起因したものではないかと考えられます。特に、昨今、台湾問題などを中心に日中の安全保障環境が急激に悪化しており、日中関係が緊張の度を増しているという状況がこのたびの禁輸措置の根底にあるのではいでしょうか。このような状況を考えるならば、このたびの中国による禁輸措置はいわば「政治的風評被害」というべきものであり、このような事態が引き起こされてしまったことの責任は政府にあると言わざるを得ません。中国がいつまで本気で全面禁輸という極端とも言うべき方針を続けるか定かではないものの、中国は日本の農水産物の最大の輸出先であるため、日本側の経済的損失は膨大なものになることは間違いありません。

 政府はトリチウム汚染水の放出が終わるまで、30年以上にわたり、風評被害に起因した損害に関して、補償金や賠償金などを用意するなど、十分な風評被害対策を講じるとしていますが、30年以上もの長きにわたり風評被害が続くようならば、福島の漁業は壊滅しかねません。このような事態を避けるためにも、海洋への放出というトリチウム汚染水処分の方法を断念し、陸上でも保管の継続や陸上での封じ込め、トリチウム除去技術の開発など、他の処分方法へ転換を図るべきです。

【トリチウム汚染水に関する海洋放出以外の解決策について】

IAEAの報告書は、「海洋への放出は、人とか環境に対して無視できる程度の放射線影響になる」と結論付けていますが、一方において「海洋放出を推奨するものでも支持するものでもない」としています。このことは、海洋放出は必ずしも最適・最善の処分方法とは言えないことを意味している、すなわち、環境中に有害物を放出するという処分方法は基本的に最適な方法とは言えないことを意味しているものと考えられます。また、IAEAは原子力利用の科学的技術側面に携わる機関であるためやむを得ないのですが、海洋放出に伴う、避けて通ることができない風評被害という問題に関しては何も具体的に触れていません。これらのことを考えるならば、トリチウム汚染水の処分にあたっては、海洋放出以外の、風評被害を招くことがない、より安全な処分方法を考え、実行に移すべきです。海洋放出以外の処分方法の関しては様々な方法が考えられますが、紙面が尽きましたので、以下のその内容を簡単に記すことにします。

一般的に環境中に存在する有害物への対処の仕方のなかで最も優れていると考えられる方法は有害物を無毒化することです。しかし、ある種の化学物質は加熱したり他の物質と反応させることなどにより有害物を分解して無毒化することが可能ですが、トリチウム水の場合、無毒化はおそらく可能ではないであろうと考えられます。
無毒化が不可能な場合の次善の方法は、何らかの技術的手段により、有害物を環境中から分離して、何らの手段で封じ込め環境から十分に遮断することです(たとえば使用済み燃料の再処理により生じた高レベル放射性廃棄物を地下深くに処分する、いわゆる「地層処分」はこの方法に該当します)。トリチウム汚染水の場合は具体的に以下のような方法が考えとられます。

・まず、海洋放出を中止し、当面、陸上での保管を続ける。保管用のタンクが足りないのであれば、隣接地などにタンク設置用の土地を確保し、現存する保管用タンクより容積がずっと大きい(たとえば10万?)、石油備蓄用のような大型のタンクを設置するという方法や数十万?の石油を輸送できる大型の石油輸送用のタンカーを活用するという方法も考えられます。

・次の段階では様々な方法が考えらえます。たとえばトリチウム汚染水をモルタルと混ぜて固めて、汚染水が周囲に拡散しないようにするという方法があります(米国の原子力関連施設で実施された例があります)。また、トリチウム水だけを分離する様々な方法(通常の水との物性の差異、すなわち、沸点や融点の違い、質量の違いなどを利用した分離技術)が研究されつつあります。国はこれらの新技術の開発を積極的に促進するべきです。たとえば、以前にも紹介したことがありますが、5年ほど前に、近畿大学と日本アルミ㈱のチームがアルミニウム製の多孔質のフィルターで吸着・濾過することにより、普通の水とトリチウム水を分離することに成功しています。

【トリチウム汚染水の海洋放出に関連したその他の問題点】

 以上に記した様々な問題点以外にも、下記のような問題点が存在しています。
・世界中のすべての原発・再処理工場から年間を通じて常時トリチウムが大気や海洋に放出されているのが現実です。このため、トリチウムの環境中への放出に関して、何らかの国際的な規制体制が必要ではないかと考えあられます。たとえば、六ケ所村の再処理工場からも、試験運転の期間中(2006から3年間ほど)に、このたびの福島原発からの放出量(約30年間に総量約860兆ベクレル)を大きく上回る大量のトリチウム、すなわち約2200兆ベクレルが3年足らずのあいだに放出されていました。このようなトリチウムが各原発や関連施設などから事実上自由に垂れ流されているという現状に対して、世界的にトリチウムの放出に関する具体的な規制措置を講じる必要があることは明らかです。
・また、各種放射性物質の環境中への排出基準が国ごとに設けられていますが、その科学根拠は何なのか、排出基準は科学的妥当性を有しているのかという点は改めて検討されるべきではないでしょうか。

・一方、このたびの海洋放出という処分方法の決定に関して、市民が決定過程に関与していないことは問題であると、国連の人権問題の専門家が勧告しています(公聴会は1回開かれただけです)。このたびの放出問題に限らず、原発に関連した問題に関する政府による意思決定の方法・過程をもっと市民に開かれたものに改革する必要があることは明らかです。

2023年9月3日 

《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進

〒520-0812
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電話:077-522-5415
メールアドレス:ssmcatch@nifty.ne.jp

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